黒の時代
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わたしは気づいたときにはそこにいた。
真っ暗で冷たい檻の中、何もない空白の空間でただただ生かされていた。
なんでそこにいるのかも、なんで生きているのかも、何もしらずにそこにいた。
毎日檻の外に怯えながらやってくる人はおとうさんでもおかあさんでもない、きっと赤の他人。その人は毎日ふるえて、ガタガタとおくばを鳴らしながらひえたご飯を置いていく。
なんで生きているのだろうか、なんでわたしはここにいるのだろうか。
今日も冷たい床でねころがる。
今日はいつもと違って外が賑やかだった。
いつもはなにも聞こえず、しんと静まりかえっているのにきょうは色んな声がきこえる。
けれどきこえてくる声はどれも怯えている声で、きっと前にきこえてきたこわい人達にやられているんだろう。
わたしもこわい人達にころされて、あの世にいくのかな。
だとしたら結局わたしは一度もそとに出られなかった。おとぎばなしではかっこいい王子様がこわい人を倒して囚われの姫を助けだしたり、つよい警察官がわるい人たちを捕まえたりするのに。
でも少しずつこちらに近づいてくる足音にこわいとは思わなかった。だって暗闇のなかうっすらと見えたひとはやさしい顔をむけてくれたから。
「おや、何か地下にあると思えばこれはまた可愛らしいお嬢さんもいたものだ。」
檻の前に立ったのは、包帯たくさん巻いたお兄さんだった。もっとごつごつしててこわい人をそうぞうしていたからびっくりしてしまう。
「……おにいさん、だぁれ?」
「私かい?私の名は太宰、太宰治だ。」
「ダザイ?」
「ふふっ、下の名前で呼んでおくれ。」
した、した……とつぶやきながら「……オサム?」と言えばおにいさんはうれしそうにわらって檻の外から頭をなでてくれた。
笑いかけられるのも、なでてもらうのも、生まれてはじめてだったからうれしくてわたしも笑ってしまう。
「オサムはなんでこんなところにいるの?」
「君を救いに来たんだよ。」
「私を?」
「そう。君を。」
オサムはそういうとかぎの中にピンをいれてがちゃがちゃする。するとあんなにがんじょうで開く気配もなく、さびれていたかぎが開いた。
「さぁ、行こうか。どこにも居場所がない可哀想な君に居場所をあげよう。こんな所よりも暖かくて心地良い居場所だ。」
そう言ってさしのべた手をとった。
オサムはやはりいやがることもこわがることもしなかった。今までどんな人も檻の外からわたしにふれられるのを怖がっていたのに。
「……オサムはわたしにさわるのこわくないの?」
「怖い訳ないさ。だって私の体は君に触れるためにできているのだから。」
どういう意味か、わたしには分からなかったが、はじめての人の温もりにわたしは泣いてしまった。その手は冷たくてがんじょうなわたしをつなぐ鎖のように感じたけれど、それでもうれしかった。
わたしをたすけてくれたのは白馬の王子様でも市民をまもるけいさつかんでもなく、お月さまのない夜をあらわすかのような深い闇を携えたひとだった。
真っ暗で冷たい檻の中、何もない空白の空間でただただ生かされていた。
なんでそこにいるのかも、なんで生きているのかも、何もしらずにそこにいた。
毎日檻の外に怯えながらやってくる人はおとうさんでもおかあさんでもない、きっと赤の他人。その人は毎日ふるえて、ガタガタとおくばを鳴らしながらひえたご飯を置いていく。
なんで生きているのだろうか、なんでわたしはここにいるのだろうか。
今日も冷たい床でねころがる。
今日はいつもと違って外が賑やかだった。
いつもはなにも聞こえず、しんと静まりかえっているのにきょうは色んな声がきこえる。
けれどきこえてくる声はどれも怯えている声で、きっと前にきこえてきたこわい人達にやられているんだろう。
わたしもこわい人達にころされて、あの世にいくのかな。
だとしたら結局わたしは一度もそとに出られなかった。おとぎばなしではかっこいい王子様がこわい人を倒して囚われの姫を助けだしたり、つよい警察官がわるい人たちを捕まえたりするのに。
でも少しずつこちらに近づいてくる足音にこわいとは思わなかった。だって暗闇のなかうっすらと見えたひとはやさしい顔をむけてくれたから。
「おや、何か地下にあると思えばこれはまた可愛らしいお嬢さんもいたものだ。」
檻の前に立ったのは、包帯たくさん巻いたお兄さんだった。もっとごつごつしててこわい人をそうぞうしていたからびっくりしてしまう。
「……おにいさん、だぁれ?」
「私かい?私の名は太宰、太宰治だ。」
「ダザイ?」
「ふふっ、下の名前で呼んでおくれ。」
した、した……とつぶやきながら「……オサム?」と言えばおにいさんはうれしそうにわらって檻の外から頭をなでてくれた。
笑いかけられるのも、なでてもらうのも、生まれてはじめてだったからうれしくてわたしも笑ってしまう。
「オサムはなんでこんなところにいるの?」
「君を救いに来たんだよ。」
「私を?」
「そう。君を。」
オサムはそういうとかぎの中にピンをいれてがちゃがちゃする。するとあんなにがんじょうで開く気配もなく、さびれていたかぎが開いた。
「さぁ、行こうか。どこにも居場所がない可哀想な君に居場所をあげよう。こんな所よりも暖かくて心地良い居場所だ。」
そう言ってさしのべた手をとった。
オサムはやはりいやがることもこわがることもしなかった。今までどんな人も檻の外からわたしにふれられるのを怖がっていたのに。
「……オサムはわたしにさわるのこわくないの?」
「怖い訳ないさ。だって私の体は君に触れるためにできているのだから。」
どういう意味か、わたしには分からなかったが、はじめての人の温もりにわたしは泣いてしまった。その手は冷たくてがんじょうなわたしをつなぐ鎖のように感じたけれど、それでもうれしかった。
わたしをたすけてくれたのは白馬の王子様でも市民をまもるけいさつかんでもなく、お月さまのない夜をあらわすかのような深い闇を携えたひとだった。
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