太宰治
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序章
「君より2つ下だけど年が近いから面倒見てあげてね。」
ある日、いつものように書庫に籠って本を読んでいた私に対し、面倒事を押し付けて来たのはまだ首領になる前の森さんだった。
いきなり何?とその時は訝しげな目で森さんを不審者扱いした覚えがある。だって、森さんのすぐ後ろ控えたまだ歳若い少年は見目麗しく、まさに容姿端麗ということばが似合う姿をしていたのだから。
しかし、それでもついに稚児趣味にでも目覚めましたか?この変態が。とまで言わなかったのは退屈そうな少年の目は全てを取り込む黒だったからだろう。
「……よろしく。」
形式上だけの挨拶や興味なさげな態度は私の興味を引いた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
まぁ面白そうだし、清く正しくこの子を育ててみせましょう!
・教育その1 家を与えましょう。
あの後森さんは少年を私に丸投げしてどっか行ってしまったので仕方なしに話しかける。
「君、住むとこある?」
「……は?」
とりあえず一番重要な所を聞けば先程まで退屈そうに細められていた目は何故か大きく見開かれた。驚いているのだろうか。
「……ないけど、そこから聞くの?普通は名前からとかじゃないの?」
「名前は無くても死なないけど家は無いと死ぬ可能性があるでしょ?託された以上君を死なせるわけにはいかないからね。」
そう言うと少しだけ顔を歪められたけど反論はないようで、そう。とだけ頷いた。
「でもなー、確かに一応私もマフィアの構成員だけど普段書庫に籠って仕事してないからそこまでお金が腐るほどあるわけではないんだよね。」
だから君に家をあげたくてもそう簡単にはあげられない。
「というわけで、しばらくの間は私の家に泊まってくれる?」
「……は?」
本日2回目のは?頂きました。
仕方ないだろ。確かに初対面の男を家に泊めるなんてどうかと思うけれども、このまま外に放置とかも気が引けるし。
・教育その2 お風呂に入れましょう。
「早速で悪いけど、お風呂入ってきてもらえる?」
バスタオルと着替えを渡してお願いすればありえないものを見るような目で見られた。
「……君、危機感とか無いの?」
“それとも、こういう事して欲しいわけ?”と言いながら少年はゆっくりと私を壁に追いやり、逃げ場を無くす。
何も映さないような暗い目では少年が何を考えているかは分からないが、とりあえず我が家を荒らされては困る。
「悪いけど私、貴方はタイプじゃないからこういうのは無しかな。」
少年にとっては会ったばかりの異性を家にあげた上に風呂にまで勧めることがありえなかったのだろう。黙って襲われるとでも思ったのか?残念。私のタイプは貴方みたいな悪戯しても反応が薄そうな人ではなく、驚いてくれる人が好きだ。ついでに言えば年下は論外。エスコートしてくれる年上がいい。
そういうお年頃だからそっちの方面が気になるのも分からなくもないが、そこら辺はそういう店でやって欲しい。、
少年の壁についている腕の下を潜り、さっさと風呂へ行けと戸惑う少年の背中を押す。
「……あぁ、ごめん。風呂の入り方分からんかった?一緒にはいったほうがいい?」
貧民街出身なら分からずとも仕方がない。
一から教えてあげた方がいいのだろうか。
「……それくらい知ってるからいい。」
彼は呆れたような興味を無くしたような目をして風呂場へ向かった。
・教育その3 ご飯を与えましょう。
お風呂から上がり、何となく血行が良くなったように見える少年を椅子に座らせる。
彼が風呂に入っている間に夕飯を作っておいた。本当なら歓迎会ということで寿司を頼んだりしたかったのだが、真面目に働いていない私にそんなお金があるはずもなく、手料理になってしまった。
「……」
少年は無言で食卓を見ている。
「あ、ごめん。もしかして苦手なものでもあった?それとも手料理は食べられない系の人間?」
だとしたら出前を取らなければ。
「……料理とか作れたんだ。」
意外。と彼の顔にそう書いてある。失礼な。
少年は無言で一口料理を食べると、いつもの仏頂面がいくらか和らいだ気がした。
「お、なになに?美味しかった?」
「……料理とか出来たんだね。」
「特に和食は得意なんだよ。尊敬した?お姉ちゃんって呼んでもいいよ。」
「……なまえさんが姉とか嫌だよ。」
なんだとコラ。と思わなくもないが、そう言えば初めて名前を呼ばれる。
おぉ……懐かなかった猫が初めて自分から擦り寄ってきたような感動がある。猫とか飼ったことないけど。
静かにご飯を食べる少年を見て、何となく上手くやってけそうだな、と思った。
・教育その4 褒める時は沢山褒めてあげましょう。
改めて自己紹介をした次の日、私達は普段私が日中ずっといる部屋、書庫に来ていた。
森さんに渡しておけと言われた戦略論の研究家の本を渡し、ついでに私のおすすめも欲しいと太宰君に言われたので追加で二冊ほど渡しておく。
結構な量の本を今日ここで読むと言い出した時は少しだけ驚いた。
「え、全部ここで?結構内容濃いし、量もあるけど……」
「これくらいなら1時間もあれば読み終わるよ。別に来客がここに来るとかでもないんだしいいでしょ。」
なんて言って私の了承も聞かずに読み始めてしまった。いや、確かにこんな場所に来る物好きは今ポートマフィアでは私くらいなんだけどね?
ポートマフィアはどうしたって外での危険な仕事の方が儲かるのに、いいのかな……
なんて思いつつも、集中している人の邪魔などできるはずもなく、私も数ある本のうちの一つを手に取り、読み始めた。
「ねぇ、読み終わったんだけど。」
あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
きっとそれほどの時間は経っていないだろう。最後に見た時とさほど変わらない時間……ほんとに一時間程度で読みおった。
「早いね太宰君。わかんない所とかあった?」
「ないよ。書いてあることも簡単だったし。」
あの分厚い本の量と内容をこうも簡単に言ってしまうのはきっとこの子の頭がいいからできることだろう。
「そっか、太宰君は凄いね。」
きっと今こうして私が何も考えていない間もこの子の頭は目が回るほど早く回転してんだろうなぁ、なんて考えつつ衝動的に頭を撫でる。
「……何すんのさ」
訝しげにじっと見れられる。心做しかいつもの不機嫌そうな顔がもっと不機嫌になったように見える。
「ん?すごいなー、って褒めてるんだよ。太宰君は凄いね。」
ボサボサな蓬髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でれば「君、私を犬かなんかと勘違いしてない?」と言われた。
「流石に犬と人間の区別くらいついてるよ。ただ太宰君って、こう、撫でたくなる頭してるよね。」
馬鹿なの?と言いたげな冷たい視線を受けながらも掻き混ぜる手は止まない。
まぁ太宰君も口でも顔でも嫌そうだし不機嫌そうだけど、撫でる手を振り払う気配は無いから気の済むまで撫で回した。
太宰君は終始不機嫌そうだった。
・教育その5 待てを教えましょう。
太宰君の頭を書庫で衝動的に撫で回して数ヶ月、あれからも定期的に撫でさせて貰っている。なんなら少しずつ慣れてきてくれたのか、最近では自分から近付いてくるようになった。気付いたらそばにいる気がする。
うん、嬉しい。懐かない猫がやっと懐いた感覚。まぁ、それはいいのだが……同時に困った事件が発生した。
「……太宰君、そろそろ私行きたいんだけど。」
「はぁ?君は私の教育係でしょ。なんで中也なんかの面倒まで見るのさ。」
そう、太宰君が我儘を言うようになってきた。いや、太宰君はまだ子供だし言いたい時に言っとい方がいいんだろうけどね?今回のこれは厳しい。
最近の太宰君の我儘といえば蟹が食べたい、とか 仕事したくない、だとか 森さんが気持ち悪い、とかだったのだが、今回は中也君の元へ行くな、だった。
私の今回の仕事は中也君が数日前にポートマフィアに加入したので、太宰君の時と同じように必要な本を渡して欲しい、との事だった。
しかし、太宰君は行くなという。
いやいや、それは無理。ただでさえけ給料低いんだから、稼ぎ時にガッツリ稼がないと。
「太宰君、いい子に待ってて。」
「なまえが中也のとこに行くならその間に悪戯してやるから。」
おぉう、それは困る。太宰君の悪戯は結構えげつないとポートマフィア中で噂が立っている。
私はまだ直接被害は受けていないが、そんな噂が立っているほどなら絶対に遠慮したい。
「うーん、じゃぁ太宰君も一緒に行く?」
「なんで僕があんな単細胞の塊みたいなやつに会わなきゃいけないのさ。」
「絶対に嫌!」なんて断固拒否されてしまえばもう私に打つ手はない。
こうなれば説得あるのみ。
「太宰君、もしちゃんと待てできたら……」
「なに?蟹でも買ってくれるの?いいよ。それくらいもう僕で買えるから。」
頬杖をつき、頬を膨らませる太宰君は不機嫌そうだが、少しずつ表情豊かになってきたな、と場違いにも思う。
「太宰君が前から欲しがってた、『完全自殺読本』、買ってあげる。」
その言葉に目もあわせてくれなかった太宰君はゆっくりと振り向き、少しだけ顔を明るくする。
「ほんと?どこ探しても無かったのに。」
「ほんとほんと。絶対探して見つけてくるから。約束。」
そう言いながらもう癖と言ってもいいというほど撫でてきた頭に子供をあやすように触れる。
「……本、約束だからね。」
本当に渋々、といった様子ではあったが納得はしてもらえた。よかった。
これはまた違う手を考えとかないとな、なんて密かに思った。
・教育その6 無駄吠えを止めさせましょう。
ある日、いつものように太宰君と書庫に行く途中、中也君と会った。
「げ、」
「……うわ、」
二人して嫌そうな顔をするもんだから、実は仲良いんじゃないか、なんて考えるが怒られそうなので考えるだけにしておく。
「なまえさん、お久しぶりです。」
ここから二人はどうするのかな、と見守っていれば中也君は太宰君を無視で話しかけてきた。とりあえず返事をしないのは変なので返事をする。
「うん、久しぶ、」
「ちょっと中也、何なまえさんに勝手に話しかけてるのさ。」
「ぁあ?俺がいつなまえさんに話しかけようと俺の勝手だろうが。」
「やめてくれる?なまえさんにまで中也の単細胞が移っちゃったらどうしてくれるのさ。近付かないで欲しいな。」
「誰が単細胞だ!!この包帯の付属品がっ!!」
あぁ、やっぱり喧嘩が始まった。
何となくこの二人が遭遇した時点でこうなることは分かってたけどね!太宰君は私よりも一歩前へ出て言い合いを始める。
どうしよう、私じゃぁ止められなさそうだし置いてっていいかな?なんて考えるが微妙に私のことで争ってるから置いていきにくい。
「つーか手前、俺は知ってんだかんな。なまえに気のある奴は全員行方不明になっちゃいるが、あれは手前の仕業だって!」
え、そうなの?確かに最近行方不明者多いな、とか思っていたけど、いやいやまさか。太宰君にそんなことするメリットが無いもの。
「そうだけどそれが何?」
まさかの肯定。まじか。
何故そんな事をしたのかは謎に包まれているが、とりあえず無駄にキャンキャンの吠えるようにうるさい二人を止める。
「太宰君、もうそろそろ喧嘩やめて書庫に行こう。見てて面白いけど色々複雑だから。」
そうやって止めれば太宰君は私の隣に戻ってくる。まぁ二人ともイライラしていたけど止めれば一応止まったのでよしとしよう。
太宰君はどうやら中也君とは噂通り仲が悪いようなので、無駄吠えさせないためにも会わせないようにしよう。
・教育その7 噛み癖を直しましょう。
「あ、なまえさん。おはよう。」
「おはよう。そして君は何をやってるのかな?」
朝ベットが軋む音で目を覚ませば、太宰君は私の体に覆い被さっていた。
「よし。とりあえず朝だし年下趣味はないし君の事は弟分としか思ってないからから離れようか。」
「大丈夫。これから目覚めさせて上げるから。」
何に?なんて聞く前に太宰君はいつもと変わらぬ仏頂面をゆっくりと首元に近付ける。
「これは朝から弟分が姉にやる行為の許容範囲を超えているな。」
「だって僕、なまえさんのこと姉だなんて思ったことないし。」
その事実はそっと胸の内にしまっといて欲しかった、なんて考えても場の空気は変わらず、太宰君の尖った犬歯は人の急所とも言える喉にかぶりつく。
「いたっ、」
「……」
太宰君は何も言わずにその歯を突き立てて、皮膚が破れるほど喰い込ませた。
きっとこの様子では歯の跡がついているだろう。
「……あ、綺麗に着いた。」
太宰君はそれだけ言うと満足気に私の上から降りる。
なんだったんだ、と思いつつ近くにある手鏡で見れば歯型どころかうっすらと血まで出ていた。そりゃ痛いはずだよ。
「……犬に噛まれた気分。」
とりあえず人を噛んではいけないと後で言っておこう。
“再教育のすゝめ”
「僕、なまえさんのことが好きだよ。」
いつものように書庫で本を読んでいる最中、サラリと紡がれた言葉は嘘か本当かはその淡々とした声音からは分からなかった。
「そう。ありがとう。」
だから私も淡々とそれだけ返せば太宰君はその整った顔を分かりやすく顰めた。
太宰君の言う好きが姉としてなのか友人としてなのか、それとも異性としてなのかは分からない。
けれど、これだけは言えるよ。
「間違ってたらごめんね、太宰君。私、太宰君のことは男としては見れないから。」
それだけ言って言い逃げのように書庫を去る。
取り残された太宰君がどんな顔をしているのかは分からないが、きっと今までで一番苦い顔をしてるんだろうなぁ、って何となく思った。
清く正しく太宰君を育てた結果……恐らく失敗。再教育をおすすめします。
[完]
アトガキ↓
・ここまで読んで頂きありがとうございます!結構前からこのネタ考えてたんですけど、中々書けなくて……でもついに書けたから投稿しました!短編の量が少ないのでこれからどんどん増やしていきたいです。
「君より2つ下だけど年が近いから面倒見てあげてね。」
ある日、いつものように書庫に籠って本を読んでいた私に対し、面倒事を押し付けて来たのはまだ首領になる前の森さんだった。
いきなり何?とその時は訝しげな目で森さんを不審者扱いした覚えがある。だって、森さんのすぐ後ろ控えたまだ歳若い少年は見目麗しく、まさに容姿端麗ということばが似合う姿をしていたのだから。
しかし、それでもついに稚児趣味にでも目覚めましたか?この変態が。とまで言わなかったのは退屈そうな少年の目は全てを取り込む黒だったからだろう。
「……よろしく。」
形式上だけの挨拶や興味なさげな態度は私の興味を引いた。
「こちらこそよろしくお願いします。」
まぁ面白そうだし、清く正しくこの子を育ててみせましょう!
・教育その1 家を与えましょう。
あの後森さんは少年を私に丸投げしてどっか行ってしまったので仕方なしに話しかける。
「君、住むとこある?」
「……は?」
とりあえず一番重要な所を聞けば先程まで退屈そうに細められていた目は何故か大きく見開かれた。驚いているのだろうか。
「……ないけど、そこから聞くの?普通は名前からとかじゃないの?」
「名前は無くても死なないけど家は無いと死ぬ可能性があるでしょ?託された以上君を死なせるわけにはいかないからね。」
そう言うと少しだけ顔を歪められたけど反論はないようで、そう。とだけ頷いた。
「でもなー、確かに一応私もマフィアの構成員だけど普段書庫に籠って仕事してないからそこまでお金が腐るほどあるわけではないんだよね。」
だから君に家をあげたくてもそう簡単にはあげられない。
「というわけで、しばらくの間は私の家に泊まってくれる?」
「……は?」
本日2回目のは?頂きました。
仕方ないだろ。確かに初対面の男を家に泊めるなんてどうかと思うけれども、このまま外に放置とかも気が引けるし。
・教育その2 お風呂に入れましょう。
「早速で悪いけど、お風呂入ってきてもらえる?」
バスタオルと着替えを渡してお願いすればありえないものを見るような目で見られた。
「……君、危機感とか無いの?」
“それとも、こういう事して欲しいわけ?”と言いながら少年はゆっくりと私を壁に追いやり、逃げ場を無くす。
何も映さないような暗い目では少年が何を考えているかは分からないが、とりあえず我が家を荒らされては困る。
「悪いけど私、貴方はタイプじゃないからこういうのは無しかな。」
少年にとっては会ったばかりの異性を家にあげた上に風呂にまで勧めることがありえなかったのだろう。黙って襲われるとでも思ったのか?残念。私のタイプは貴方みたいな悪戯しても反応が薄そうな人ではなく、驚いてくれる人が好きだ。ついでに言えば年下は論外。エスコートしてくれる年上がいい。
そういうお年頃だからそっちの方面が気になるのも分からなくもないが、そこら辺はそういう店でやって欲しい。、
少年の壁についている腕の下を潜り、さっさと風呂へ行けと戸惑う少年の背中を押す。
「……あぁ、ごめん。風呂の入り方分からんかった?一緒にはいったほうがいい?」
貧民街出身なら分からずとも仕方がない。
一から教えてあげた方がいいのだろうか。
「……それくらい知ってるからいい。」
彼は呆れたような興味を無くしたような目をして風呂場へ向かった。
・教育その3 ご飯を与えましょう。
お風呂から上がり、何となく血行が良くなったように見える少年を椅子に座らせる。
彼が風呂に入っている間に夕飯を作っておいた。本当なら歓迎会ということで寿司を頼んだりしたかったのだが、真面目に働いていない私にそんなお金があるはずもなく、手料理になってしまった。
「……」
少年は無言で食卓を見ている。
「あ、ごめん。もしかして苦手なものでもあった?それとも手料理は食べられない系の人間?」
だとしたら出前を取らなければ。
「……料理とか作れたんだ。」
意外。と彼の顔にそう書いてある。失礼な。
少年は無言で一口料理を食べると、いつもの仏頂面がいくらか和らいだ気がした。
「お、なになに?美味しかった?」
「……料理とか出来たんだね。」
「特に和食は得意なんだよ。尊敬した?お姉ちゃんって呼んでもいいよ。」
「……なまえさんが姉とか嫌だよ。」
なんだとコラ。と思わなくもないが、そう言えば初めて名前を呼ばれる。
おぉ……懐かなかった猫が初めて自分から擦り寄ってきたような感動がある。猫とか飼ったことないけど。
静かにご飯を食べる少年を見て、何となく上手くやってけそうだな、と思った。
・教育その4 褒める時は沢山褒めてあげましょう。
改めて自己紹介をした次の日、私達は普段私が日中ずっといる部屋、書庫に来ていた。
森さんに渡しておけと言われた戦略論の研究家の本を渡し、ついでに私のおすすめも欲しいと太宰君に言われたので追加で二冊ほど渡しておく。
結構な量の本を今日ここで読むと言い出した時は少しだけ驚いた。
「え、全部ここで?結構内容濃いし、量もあるけど……」
「これくらいなら1時間もあれば読み終わるよ。別に来客がここに来るとかでもないんだしいいでしょ。」
なんて言って私の了承も聞かずに読み始めてしまった。いや、確かにこんな場所に来る物好きは今ポートマフィアでは私くらいなんだけどね?
ポートマフィアはどうしたって外での危険な仕事の方が儲かるのに、いいのかな……
なんて思いつつも、集中している人の邪魔などできるはずもなく、私も数ある本のうちの一つを手に取り、読み始めた。
「ねぇ、読み終わったんだけど。」
あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
きっとそれほどの時間は経っていないだろう。最後に見た時とさほど変わらない時間……ほんとに一時間程度で読みおった。
「早いね太宰君。わかんない所とかあった?」
「ないよ。書いてあることも簡単だったし。」
あの分厚い本の量と内容をこうも簡単に言ってしまうのはきっとこの子の頭がいいからできることだろう。
「そっか、太宰君は凄いね。」
きっと今こうして私が何も考えていない間もこの子の頭は目が回るほど早く回転してんだろうなぁ、なんて考えつつ衝動的に頭を撫でる。
「……何すんのさ」
訝しげにじっと見れられる。心做しかいつもの不機嫌そうな顔がもっと不機嫌になったように見える。
「ん?すごいなー、って褒めてるんだよ。太宰君は凄いね。」
ボサボサな蓬髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜるように撫でれば「君、私を犬かなんかと勘違いしてない?」と言われた。
「流石に犬と人間の区別くらいついてるよ。ただ太宰君って、こう、撫でたくなる頭してるよね。」
馬鹿なの?と言いたげな冷たい視線を受けながらも掻き混ぜる手は止まない。
まぁ太宰君も口でも顔でも嫌そうだし不機嫌そうだけど、撫でる手を振り払う気配は無いから気の済むまで撫で回した。
太宰君は終始不機嫌そうだった。
・教育その5 待てを教えましょう。
太宰君の頭を書庫で衝動的に撫で回して数ヶ月、あれからも定期的に撫でさせて貰っている。なんなら少しずつ慣れてきてくれたのか、最近では自分から近付いてくるようになった。気付いたらそばにいる気がする。
うん、嬉しい。懐かない猫がやっと懐いた感覚。まぁ、それはいいのだが……同時に困った事件が発生した。
「……太宰君、そろそろ私行きたいんだけど。」
「はぁ?君は私の教育係でしょ。なんで中也なんかの面倒まで見るのさ。」
そう、太宰君が我儘を言うようになってきた。いや、太宰君はまだ子供だし言いたい時に言っとい方がいいんだろうけどね?今回のこれは厳しい。
最近の太宰君の我儘といえば蟹が食べたい、とか 仕事したくない、だとか 森さんが気持ち悪い、とかだったのだが、今回は中也君の元へ行くな、だった。
私の今回の仕事は中也君が数日前にポートマフィアに加入したので、太宰君の時と同じように必要な本を渡して欲しい、との事だった。
しかし、太宰君は行くなという。
いやいや、それは無理。ただでさえけ給料低いんだから、稼ぎ時にガッツリ稼がないと。
「太宰君、いい子に待ってて。」
「なまえが中也のとこに行くならその間に悪戯してやるから。」
おぉう、それは困る。太宰君の悪戯は結構えげつないとポートマフィア中で噂が立っている。
私はまだ直接被害は受けていないが、そんな噂が立っているほどなら絶対に遠慮したい。
「うーん、じゃぁ太宰君も一緒に行く?」
「なんで僕があんな単細胞の塊みたいなやつに会わなきゃいけないのさ。」
「絶対に嫌!」なんて断固拒否されてしまえばもう私に打つ手はない。
こうなれば説得あるのみ。
「太宰君、もしちゃんと待てできたら……」
「なに?蟹でも買ってくれるの?いいよ。それくらいもう僕で買えるから。」
頬杖をつき、頬を膨らませる太宰君は不機嫌そうだが、少しずつ表情豊かになってきたな、と場違いにも思う。
「太宰君が前から欲しがってた、『完全自殺読本』、買ってあげる。」
その言葉に目もあわせてくれなかった太宰君はゆっくりと振り向き、少しだけ顔を明るくする。
「ほんと?どこ探しても無かったのに。」
「ほんとほんと。絶対探して見つけてくるから。約束。」
そう言いながらもう癖と言ってもいいというほど撫でてきた頭に子供をあやすように触れる。
「……本、約束だからね。」
本当に渋々、といった様子ではあったが納得はしてもらえた。よかった。
これはまた違う手を考えとかないとな、なんて密かに思った。
・教育その6 無駄吠えを止めさせましょう。
ある日、いつものように太宰君と書庫に行く途中、中也君と会った。
「げ、」
「……うわ、」
二人して嫌そうな顔をするもんだから、実は仲良いんじゃないか、なんて考えるが怒られそうなので考えるだけにしておく。
「なまえさん、お久しぶりです。」
ここから二人はどうするのかな、と見守っていれば中也君は太宰君を無視で話しかけてきた。とりあえず返事をしないのは変なので返事をする。
「うん、久しぶ、」
「ちょっと中也、何なまえさんに勝手に話しかけてるのさ。」
「ぁあ?俺がいつなまえさんに話しかけようと俺の勝手だろうが。」
「やめてくれる?なまえさんにまで中也の単細胞が移っちゃったらどうしてくれるのさ。近付かないで欲しいな。」
「誰が単細胞だ!!この包帯の付属品がっ!!」
あぁ、やっぱり喧嘩が始まった。
何となくこの二人が遭遇した時点でこうなることは分かってたけどね!太宰君は私よりも一歩前へ出て言い合いを始める。
どうしよう、私じゃぁ止められなさそうだし置いてっていいかな?なんて考えるが微妙に私のことで争ってるから置いていきにくい。
「つーか手前、俺は知ってんだかんな。なまえに気のある奴は全員行方不明になっちゃいるが、あれは手前の仕業だって!」
え、そうなの?確かに最近行方不明者多いな、とか思っていたけど、いやいやまさか。太宰君にそんなことするメリットが無いもの。
「そうだけどそれが何?」
まさかの肯定。まじか。
何故そんな事をしたのかは謎に包まれているが、とりあえず無駄にキャンキャンの吠えるようにうるさい二人を止める。
「太宰君、もうそろそろ喧嘩やめて書庫に行こう。見てて面白いけど色々複雑だから。」
そうやって止めれば太宰君は私の隣に戻ってくる。まぁ二人ともイライラしていたけど止めれば一応止まったのでよしとしよう。
太宰君はどうやら中也君とは噂通り仲が悪いようなので、無駄吠えさせないためにも会わせないようにしよう。
・教育その7 噛み癖を直しましょう。
「あ、なまえさん。おはよう。」
「おはよう。そして君は何をやってるのかな?」
朝ベットが軋む音で目を覚ませば、太宰君は私の体に覆い被さっていた。
「よし。とりあえず朝だし年下趣味はないし君の事は弟分としか思ってないからから離れようか。」
「大丈夫。これから目覚めさせて上げるから。」
何に?なんて聞く前に太宰君はいつもと変わらぬ仏頂面をゆっくりと首元に近付ける。
「これは朝から弟分が姉にやる行為の許容範囲を超えているな。」
「だって僕、なまえさんのこと姉だなんて思ったことないし。」
その事実はそっと胸の内にしまっといて欲しかった、なんて考えても場の空気は変わらず、太宰君の尖った犬歯は人の急所とも言える喉にかぶりつく。
「いたっ、」
「……」
太宰君は何も言わずにその歯を突き立てて、皮膚が破れるほど喰い込ませた。
きっとこの様子では歯の跡がついているだろう。
「……あ、綺麗に着いた。」
太宰君はそれだけ言うと満足気に私の上から降りる。
なんだったんだ、と思いつつ近くにある手鏡で見れば歯型どころかうっすらと血まで出ていた。そりゃ痛いはずだよ。
「……犬に噛まれた気分。」
とりあえず人を噛んではいけないと後で言っておこう。
“再教育のすゝめ”
「僕、なまえさんのことが好きだよ。」
いつものように書庫で本を読んでいる最中、サラリと紡がれた言葉は嘘か本当かはその淡々とした声音からは分からなかった。
「そう。ありがとう。」
だから私も淡々とそれだけ返せば太宰君はその整った顔を分かりやすく顰めた。
太宰君の言う好きが姉としてなのか友人としてなのか、それとも異性としてなのかは分からない。
けれど、これだけは言えるよ。
「間違ってたらごめんね、太宰君。私、太宰君のことは男としては見れないから。」
それだけ言って言い逃げのように書庫を去る。
取り残された太宰君がどんな顔をしているのかは分からないが、きっと今までで一番苦い顔をしてるんだろうなぁ、って何となく思った。
清く正しく太宰君を育てた結果……恐らく失敗。再教育をおすすめします。
[完]
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・ここまで読んで頂きありがとうございます!結構前からこのネタ考えてたんですけど、中々書けなくて……でもついに書けたから投稿しました!短編の量が少ないのでこれからどんどん増やしていきたいです。
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