愛し子
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幹部補佐として私に与えられた部屋は広かった。
成り上がりなのにこんな広くて立派な部屋をもらっていいのかとも思ったが、太宰幹部……太宰に有無を許さぬ笑顔で渡されたので有難く使わせてもらおう。
しかし、私は本当にお飾りの幹部補佐だった。仕事なんて渡されることもないし、太陽が登ってまた降りるまでずっと部屋に座っている。
暇だ、外に出たい。
そういえば外に出ることは許されなかったが、次の日には必ず何らかの遊び道具が用意されていた。
本だったり、ゲーム機だったり色々あったが、決して外に出るのは許されなかった。
どうして外に出られないのか。不満が溜まった私は一度外に出ようとしてみたが、扉には外から鍵が掛かっていた。押しても引いても扉は開く気配も壊れる気配もない。
外に出られない、その現実を知り、嫌になった私はふて寝した。
・
次起きた時は目を開けてすぐ視界に太宰の顔が映った。いつもの笑みは浮かべておらず、初めて会った時のように無機質な目を浮かべているように見えた。
「なまえ、君は私がいない間、何をしようとしたんだい?」
責めるように二つの黒く淀んだ目が私を射貫く。まるで私がこの部屋を出ようとしたことを知っているようだった。あの時、太宰はここにはいなかったと言うのに。
「……何もしてないよ。」
「……ふーん。」
太宰はそれ以上何も訊かなかった。
だが、奥から硬く冷たい鎖をジャラジャラと引き摺って来る。
「……外はダメだよ。外は危険だ。」
まるで洗脳でもするかのように耳元で囁いてくる。彼はいったい、何を恐れて私を外へ出さないのだろう。カチャリ、と足に何かが嵌められた感覚がした。
「はい。君に贈り物だよ。勝手に外へ出て傷つかないための安全装置。絶対に外しちゃダメだよ?」
彼は歪んだ愛情に相応しい歪な笑顔を浮かべていた。
太宰の異常さを垣間見て数週間が経った。
今日も私は彼に外へ出たいとお願いする。
「部屋から出たい。」
「駄目だよ。部屋の外は危険がいっぱいなのだから。」
太宰にここに連れてこられて数週間経っている
しかし、それだけの時間が過ぎていても、私は太宰との初対面時以降一回も外に出ていない。
太宰は私がこの部屋から出ることを良しとしない。どんなにここから出たいと願ってもいつも同じ答えしかくれないのだ。
確かに暇だといえば次の日には必ず何らかの遊び道具が用意されているが、外の新鮮な空気が吸いたかった。
ここに閉じ込められるように囲い込まれ、これではまるで籠の鳥にでもなったような気分だ。
「……そんなに外が危険だとは思わないけど。」
「君は箱入り娘だからねぇ。……君が知らないだけさ。外は危険な場所だと。」
優しく宥めるように頭を撫でる太宰の目には言いようのない恐れを感じた。
優しく、慈愛に満ちたような目をしているくせに、底知れない“何か”を感じる。
「……でも、」
「なまえ」
説得を遮るように名前を呼ばれたと思えば今度は乱暴に顎を掴まれた。
「執拗い子は嫌われるよ?」
「……」
そう言った時の太宰はやはり優しい顔をしていた。