なまえが逃げた後、今度は太宰が女性陣に捕まっていた。


「で、アンタ普段あんなに迫っときながら告白の一つもしてないのかい。」



「なっさけないねェ。」と呆れる与謝野さんの様子に太宰は「うぐぅｯ」と妙な言葉を吐き、ダメージを受けていた。


「でも、なんで告白しないんですの？太宰さんならもうしていると思っていましたわ。」
「したよー？もう両手では数え切れないくらい。」



「え、？」と話の食い違いに女性陣は首を傾げる。


「私達が初めて会ったのはまだお互い16の時でね？私も好きな相手には素直になれず、苦労したものだよ。」
「あぁ、それが先程のなまえさんの話にでてきたツンデレ発言。肝心のなまえさんが欠片も好意に気付いていませんでしたけど。」


「そうなのだよ……」といつもより幾分か意気消沈した様子でソファに項垂れる。


「世にいう思春期というやつで、素直になれない私。この世で最も嫌いな相棒には散々笑われたものだよ。」


太宰は過去の苦い記憶でも思い出しているのか、顔も芋虫でも噛み砕いたかのように苦い。


「そんな、素直になれなかった私が！態々高級レストランまで予約して下準備も完璧にして、いざ想いを告げたらあの子ってばなんて言ったと思う！？」



歯が折れるんじゃないかというほど奥歯を噛み締め、悔しさからか拳を強く握る。


「“好きだよ、愛してるよ。君に一生を誓おう。”って言ったらあの子ってば、“……？……あぁ、次に女性を落とす時の練習ですか？”って……！」


うわぁー、哀れだ……。
この一言が太宰の話を聞いた者の頭に浮かんだ。普通少女漫画にでてくるような女性の理想的な告白をこんな美形にされたら誰でも落ちるだろ、と誰もが思うが実際なまえは太宰に落ちず、料理だけを堪能して帰ったらしい。


「次に告白したのは二人で海に行った日。周りを人払いさせて、完全に二人っきりの空間になった所で“君が好きだよ。私は君と、心中したい。”と言ったのだよ。」


その場にいる全員がゴクリと唾を飲む。
次はどのようにして躱されるんだ、と。


「そしたらあの子ってば、“自殺愛好家ジョークですか？ジョークもいいですけど、そういうのは大概にしないと見た目だけはいいんですから本気にした哀れな女性が出てきちゃいますよ。”って……！」



このような前例は猫の手を借りても数え切れないほどあるようで、聞けば聞くほど哀れに思えて仕方なかった。


聞くところによると、自分の家に招いて最高のおもてなしをした後、星が綺麗に見える山の頂上で、静かな物音一つない路地裏に止めた最高級の車の中で、


ありとあらゆる場面で太宰は女性ならば誰もが羨む場面で告白するが全て躱されていた。
ここまでこればもはや女性陣は皆太宰に同情はするがなんと声を掛ければいいのか、言葉の一つも出ない。


「……がんばって。」


静まり返った応接間に幼い少女の応援が心に響いた。