一週間の始まりであり、学生が最もやる気を無くす月曜日。


私もそのやる気を無くす学生のうちの一人であり、一限目から嫌いな教科があると思えばげんなりしていた。


朝から最悪だな、と思いながら過ごしていた私だったが、どうやら下には下があるらしい。私は最悪の状況に陥っていた。


それは眠い午後の授業を受け友達と美味しいと話題のクレープを買い食いし、また明日ね。と別れてすぐの事だった。


片手にクレープを持ち、私は家への近道というだけの理由で辺りが暗くなり始めた時間帯に人っ子一人いない道を歩いていた。


いつもは危ないからと通らない道だったが、朝から疲れたし、今日だけならいいかという気の緩みもあった。


そんな気が緩みまくっている中、呑気に鼻歌を歌いながら歩いていれば、いきなり光が一切入らない真っ暗な路地から転がるように男が一人飛び出してきた。


いきなりのことに体が対応しきれず、一緒に転ぶ私。いったいなんなんだと思い男を見れば男はガタガタと震えていた。よく見れば所々服は赤……恐らく血に染まっている。


先程までぶつかられたせいで落としてしまったクレープについて怒ろうと思っていたが、その気も失せてしまった。この状況に嫌な予感を覚えるのはきっと気の所為ではない。


「ようやく止まったか、愚者め。」


そしてそんな予感が当たりだと言うように路地から声がした。それと共に黒い何かがガタガタと震えていた男の体の心臓を一刺し。あれじゃぁもう助からないだろう。


私も、ああなるのだろうか。


ケホケホと咳をしながらも確実に此方に狙いを定めてゆっくりと歩いてくる男は明らかに私が住む世界とは違う世界の人間だ。


だって、人を殺したというのに恐れも罪悪感も感じられない。


先程の男と同じようにガタガタと体は勝手に震え、逃げなきゃと思うのに怖くて腰が抜けたのか体が動かせない。初めて見た人の死というものに吐き気まで催してくる。


「……貴様は何者だ。」


外套から伸びている黒くて鋭利な何かが私の首に突きつけられる。きっと下手なことを言えばさっきのあの男と同じように殺される。


「……ぁ」



怖くて怖くて、やっと絞り出せた声は使い物にならないほど小さく、意味を持たない言葉で、静かにその場に溶けて消えていく。



「……その姿、反応からして一般人か。しかし、今のことを見ておいて逃がしてやることは出来ぬ。恨むなら、己が惰弱さを恨め。」



相手は逃がしてくれる様子もなく、それだけ言い捨てると喉元に突き立てていた黒く鋭いものは獣のようなものに姿を変えて襲いかかってくる。


あぁ、享年16歳……短い人生だった。生まれ変わったらもっと平和に生きていきたいものだ。


「……芥川君、こんな所でいったい何してるの？」



そう考え、痛みに耐えるように強く目を閉じれば誰かが殴り飛ばされるような音がした。しかし、私の体はどこも痛くない。


恐る恐る目を開ければ目に映ったのは瞑る前に見た私を殺そうとした人が血を吐き、腹を抱えている。


誰かに腹を蹴られたのだろうか。しかし誰に？と辺りに目をやれば、お店の常連になりつつあり、先日水族館でデート(？)した太宰がいた。


太宰は芥川？と呼ばれた人に実物は初めて見たが、恐らく銃を向け、頭に突き付けているがその傍らにいる背の低い帽子を被った男の子と何やら揉めていた。


会話を聞けば芥川さん？を殺すか否かで揉めており、太宰は殺す気満々らしい。


やっぱりあの人、裏社会の人間だったんだ……


そんな納得を最後に私は疲労で気を失った。