高一の夏休み。
私はその期間を利用して一度はやってみたかった人生初のバイトというのをやってみた。


学校はバイト禁止なのでもちろんバレないように秘密にして、学校からは少し遠くにある喫茶店でのアルバイトだ。


そうして面接を受け無事に受かり、仕事にもだいぶ慣れてきたある日のこと。いつものようにシフトの時間に店に来ると、女性陣がざわついていた。



「？どうかしたんですか？」
「あ、みょうじさん。今ね、凄いかっこいい人が店に来てて誰が注文取りに行くか決めてたんだよ！」


ほらあそこ。と指さされた場所を見れば確かにこれでもかというほど顔が整った客が来ていた。


しかし、その風貌は異様なもので、あちこちに巻かれた包帯、夏だというのに夜を表すかのような黒い外套、全てを呑み込むような底の無い目、


同僚や先輩達はそれがミステリアスでかっこいいと言うが、私には彼から恐れしか感じなかった。


誰が注文を取りに行くか、女同士の醜い争いが始まり、少し呆れてしまうが、まぁあれだけの美形ならば我先にと近付こうとするのは女としての本能なのだろう。と開き直り、他のお客さんへ出来上がった美味しそうな料理を運びに行った。



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「ねぇ。」


私が恐ろしいと感じた、恐らく同い年だろう青年に話しかけられたのは料理を運びに行き、裏へ戻る寸前の事だった。


心の内ではうわぁー、と思いつつ、仕事なので仕方なく、「はい、何か御用でしょうか？」と笑う。


「注文したいのにさっきから全然店員さん来ないんだけど。」
「申し訳ございません。差し支えなければ、私めが注文をとってもよろしいでしょうか？」



無言でそうしろと圧力を受けた気がしたので注文を取る準備をする。というか、まだ争っていたのか。後ろから感じる女性陣の圧力も怖い。


「……サンドイッチとコーヒー。」



疲れたように告げられた言葉に「かしこまりました。」とだけ答え、私は裏へ戻った。




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裏へ戻れば女性陣から吹き荒れる質問の数々。決して行きたくて行った訳ではありません。


そう思いつつ、すぐに出来上がった注文の品をまたあの機嫌の悪いお客さんの元へと運んだ。




「お待たせしました。サンドイッチとコーヒーです。」
「……ねぇ、何これ。頼んでないんだけど。」



相手が不機嫌そうに見せてきたのは一枚のチョコレートだ。


「申し訳ございません。お客様があまりにもお疲れのようでしたので、ご用意させていただきました。」
「……」



理由を告げても不機嫌そうだ。衛生面が不安か？それなら大丈夫です。


「そちらのチョコレートはただいまこの店に来て頂いた方にプレゼントしているものなので料金も発生しませんし、衛生面も問題ありません。」


まぁ本来プレゼントするのは子供だけなんだけど、この人目の下によく見ればクマがあるし、身体も細くて不健康そうだからやってもいいだろう。女性陣に聞いたら満場一致の解決だ。



「……なに？これで私に恩でも売ったつもり？」
「……？いいえ、赤の他人になにか期待するほど生活に困ってませんので。」


別に鶴の恩返しみたいに機織りして欲しいだとか笠地蔵のように米が欲しいとかそんな願望ないし。今回のこれは単なる私の気まぐれだしな。心配2：気まぐれ8 だ。



というか、貴方のように恐ろしい雰囲気の人から貰う物程怖いものは無いだろう。


そう思えば、先程まで不機嫌そうに細められた目が目玉がこぼれ落ちそうなほど開かれている。

お客さんは「……あ、そう。」とそれだけ言うと気が済んだのか、モサモサとサンドイッチを食べ始めるた。