朝焼けの白月

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時は戻り
相澤消太と山田ひざしそして
卯月紡希が再会を果たした
その後の校長室では
また別の来客があった


根津
「これで良かったのかい?覆守くん」



紡希達が去ったあとの校長室に入ってきたのは
修善寺治与ことリカバリーガール
そしてもう1人
片手にキセルをもった
細身の長身の男がそこにいた

その男は
裾と袖に淡い浅葱色の
麻の葉模様があしらわれた
白ベースの着流しに


夏の緑陰のように涼しげな深緑の髪を後ろに束ね
若草色の瞳を持った男

紡希の養父、覆守である
歳の頃は40代といったところだろうか


紡希の言う、
未だに孤児をホイホイ拾ってくるというその男は
掴みどころのない笑みを浮かべ
やんわりしたたれ目からは
なかなか感情が読みとない


覆守
「あの子が自分で選んだ
新たな職場なら私から言うことは何もありません」


ゆったりとした動作で
キセルをすい
そして
煙を吐き出す


治与
「これ、年寄りの前で吸うんじゃないよ」

覆守
「これは失敬」


リカバリーガールに杖でポコりと叩かれながらも
ニコニコと笑みを浮かべたまま

根津校長に進められるより前に
深深と校長室のソファに腰掛け
だらりと姿勢を崩す


少し離れてちょこんと
リカバリーガールもソファに座り
覆守はキセルの火を消した


覆守
「10年以上、ずっと長い間
あの子の身体の自由を奪ってしまった……
消太君とひざし君にも寂しい想いをさせてしまいました
きっと、これで良かったのだと思いますよ」

治与
「2年前、何年も音沙汰のなかったあんたから
突然呼び出されたかと思えば……

瀕死のあの子を診せられた時は
どうなることかと思ったよ」


感慨深げにリカバリーガールも大きく頷く


治与
「まさか、瞬きした次の瞬間には
息を引き取っちまいそうな程の瀕死の状態から
こんなにも早く回復できるとはね……

ただでさえ体力のないあの子に私の治癒は
あまり使ってあげられなかったから」

根津
「それにしても、まだ万全ではないのだろう?
九皐君も姿を消してしまったようだし
教師として雄英に来ればこれまでと比べ
嫌でも世間やマスコミの目に映る
機会が増えてしまうのさ」

治与
「あの子、学生の頃は
極端にマスコミやカメラに映ることを嫌ってたろう
変な組織に追われてるからじゃなかったのかい?」

覆守
「はは、そんな組織なんて
私とあの子が出会った日に壊滅させちゃいましたよ

今はせいぜい残党がいるかいないか
まだ幼かったあの頃の紡希には
その残党すら脅威になりえましたから
あまり目立たないように過ごさせていましたけどね」

治与
「あの見目だから目立つなって方が難しかっただろうがね
希少な個性を持って生まれたがばっかりに
相当酷い目に合っていたようだから仕方ないことだろうがね」

根津
「覆守君がいきなり小さな子供を拾ってきた
挙句、公安をやめてまで育てると言った時は
どうしたものかと思っていたさ」

覆守
「私も公安なら続けられるかもと思ってましたが…ね
結局
公安も雄英も、ヒーロー業も
私には退屈なだけでした」

治与
「ふんっ、雄英を首席で卒業した男は
言うことが違うね」

根津
「しかしいくらあの子の個性が万能でも
万全の状態であるに越したことはない
早く九皐君を見つけてあげなくては」

治与
「そもそもなんで九皐はいなくなったんだい
喧嘩でもしたのかい」


覆守
「いえいえ、そんなことはなく…

紡希はあの2人に会うために
それこそ血反吐を吐く勢いでリハビリを頑張ってました

この春には会いに行けるほど回復していたというのに
『今更会いに行っても……』なんて
うじうじしているから
九皐は呆れて先にこちらへ来たようですね」


覆守はやれやれと言うように首をふると
ソファから立ち上がり
校長室の一番端の窓をガラリと開け
再びキセルをふかす


覆守
「まぁ紡希が言うには
九皐も雄英の敷地内にいるようですし
そんなに心配いらないでしょう」


心配事など何もないように
のほほんと覆守は窓辺に寄りかかり
風に緑陰の髪を揺らさせる


覆守
「そうだ
今日は家の子供たちに晩御飯はいらないって
言って出てきちゃったんですよね
3人でどっか食べに行きません?」

治与
「勘弁してくれ
もうこの歳じゃあんたみたいな
酒豪相手にしてらんないよ」

根津
「夕方には紡希くんも一度家に帰るだろう?
ここで働くこと、君に一番に伝えたいはずさ
だからおうちで子供たちと一緒に
待っていてあげるといいさ」


根津校長のもっともな意見を受け
覆守は煙と共に大きなため息をはいた


覆守
「ふぅ………紡希が教員寮に入れば
子供たちも寂しがりますね」

治与
「なんだい、寂しいのはあんたの方じゃないのかい」

根津
紡希君から報告を聞くのを
先延ばしにしたかったんだろうさ」

覆守
「……そんなところです」

治与
「全く、不器用な子らだよ
誰に似たんだか」

覆守
「あは、私ですか?」

治与
「他に誰がいるってんだい」


治与の言葉にほんの少し眉尻を下げ
かつての学び舎だった雄英の
校長室の窓から紫煙をたゆたせる


覆守
「器用貧乏なんですよ
私も、あの子も…ね

けれど紡希
今でこそ個性を暴走
させることはなくなりましたが
今後あの子に万が一何かあっても
ここには消太君がいますから
私の個性〝結界〟で閉じ込めるより
紡希の身体の負担は少ないでしょう

だからきっと、これでよかったんだと思いますよ」


紫煙をくゆらせその先に
真昼の白月がこちらを見下ろしている


覆守
「もう、陽の目に当たっても
大丈夫ですから今のあの子なら……」







⋆.*☽:



心が煙のように霧散していく



雄英を主席で卒業することも

ヒーロー活動でヴィランを退治することも

人々を災害から守ることも

公安で働くことも

私にとって困難なことはなにひとつとしてなくて


退屈が私を殺しにくる、なんて
本気で思っていた



そんな私の退屈な日々を覆したのは
暗く深い地下の小さな世界に閉じ込められ

光を失い
小さくうずくまった白月だった










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