朝焼けの白月
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
柔らかく暖かいベッドの上で目を覚まし
ぼんやりとした視界に映るのは見慣れぬ天井
寝起きで鈍い頭を動かそうにも
思うようには働いてくれず
しばらくは、ぼーっと
見なれない天井を
ベッドから眺めていた
『あぁそっか私……』
消太とひざしのいる雄英に
教員寮に来たんだった
目を覚ましてからその事実に気がつくまで
どれほどの時間がかかっただろうか
だんだん鮮明に思い出される昨日の記憶
根津校長先生からの勧誘後
直ぐに自宅へ帰り少ない荷物をまとめて
その日の夜、即入居したのだ
〝卒業式までに帰ってくる〟
そんな約束を破り
ふたりを10数年ほったらかしてしまった私を
ふたりは受け入れ
再び、この雄英高校で迎え入れてくれた
私が今までどこで何をしていたのか
知りたいはずなのに
責め立てることも問い詰めることもせず
ただ優しく、私の帰還を喜んでくれた
今度は学生ではなく教師として
またふたりと同じ時を刻めるのだ
寝ぼけ眼をこすりながら
“個性”を発動し
ベッドから身体を起こす
すると、真っ直ぐこの部屋に向かってくる
慣れ親しんだ気配を感じた
「グッッモーニーーンッ紡希!
ドキドキの教員生活一日目の始まりだ!
テンション上げてくぜ!year!」
ノックもなしに無遠慮に扉を開け放つひざしを
ベッドから起き上がり
笑顔で部屋に迎え入れる
『おはようひざし
今日からよろしくね』
そう言って朝の挨拶として
キュッと軽く抱きしめると
大きな声で無遠慮に部屋へ入ってきた人と
同一人物とは思えないくらい
優しい手つきで
ふわりと抱きしめ返してくれた
そっと身体を離し
名残惜しそうなひざしの手が
私の髪をすくい取り
クルクルと弄ぶ
「Ah〜……紡希おめぇ
……あんまこーいうのをよ
ほかの先生や生徒にすんなよ
距離感近いから」
『ひざしにも?』
「……俺は、慣れてるから別に構わねぇよ」
『そっか、なら良かった
起こしに来てくれたんだよね?
ありがとう
着替えたら共同スペースに行くから
待っててくれる?』
「もう10年も待たすなよ」
『もう、10分もかからないよ』
「女なんだからもっと時間かけろヨ」
『注文が多いなぁ〜』
ひざしが部屋を出たのを確認し
準備に取り掛かろうとすると
ふと、部屋に備え付けられていた姿鏡に
映る自分の姿が目についた
雄英高校を出て
約12年
私たちは30歳になった
けれど鏡に映る自分の姿は
どう見ても彼らと同い年には見えない
私の姿は明らかに
若々しいとか
若作りの域ではない
せいぜい20歳やそこらだろう
ふたりと一緒に時を刻みたかった
ふたりと並んで歩いて恥ずかしくない姿でいたかった
鏡を見つめほんの少しだけ
寂しさを覚えた
すると今度はひざしとは違う
知った気配が部屋に向かって来ていた
「おい紡希起きてるか?」
『もう、なんでノックせずに
入ってくるかなぁ』
「起きてないと思ったからな
お前、寝起き悪かったろ」
確かに、寝ていたらノックごときでは
起きない自信はある
『初日位は起きるよ自分で』
「初日だけか」
『こんなふうに消太とひざしが
起こしに来てくれることがわかったからね
目覚まし時計なんかよりも確実で合理的!』
「お前にとってはな
俺は合理的じゃない」
『じゃあ、ひざしと交代制にする?』
「自力で起きる気は無いのか」
『毎朝目覚めから2人の顔を見れるならね
10年分の消太とひざしをチャージしないと』
我ながらバカップルみたいなことを
言ってるとは思いつつも願わずにいられない
これからは1秒でも長く
ふたりと一緒に時を刻めますように
と
「起こしには来るが
起きる努力はしろよ?」
『起きてたら褒めてくれる?』
「さぁな」
ふっと笑って
優しく頭を撫でてくれる
消太の手は
学生だったあの頃より
力強くたくましい
大人の男の手になっていた
昔と変わらぬ優しさに安心感を
大きくなったその手にほんの少しの寂しさを覚えた