片翼の月 弍
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『相澤先生!』
「夜羽!?何しに来た!」
突然頭上から聞こえた夜羽の声に驚く相澤先生
驚きはしつつもその目はしっかり
ヴィランの個性を抹消、捕縛布で動きを拘束、
制限している
「ぐぇっ」
「んだこのガキ!ぐはぁっ」
上空から舞い降りてきた夜羽の手には錫杖
既に獣化した足は降下しながら
ヴィランの頭を掴み硬い地面へ叩きつける
『個性を消されても戦える
そのために日々研鑽を積んできた
八咫烏の、戦い方です!』
「墜落するなよ」
『翼って動かせなくてもある程度飛べるんですよ?先生』
錫杖を1振りし相澤先生の背後に
迫っていたヴィランを叩き上げると
相澤先生の背を守るように
相澤先生に背を預けるように
背中合わせで
2人を囲う大勢のヴィラン達を見据えた
ーーーシャラン
先に動いた夜羽
その動きに合わせて鳴る錫杖
その音を頼りに夜羽の位置を
把握する相澤先生
極力視界に入らないように立ち回り
錫杖で襲い来るヴィランを
突き、叩き上げ、
両足でヴィランの頭を鷲掴み
ヴィラン同士の頭をぶつけてやれば
呆気なく気を失う
「後ろがから空きだぜぇ!」
『空いてない』
後ろからヴィランが跳躍し
夜羽に襲いかかるが
ヴィランに巻き付く捕縛布が
それ以上夜羽への接近を許さない
ヴィランへ振り返ることも無く
手に持つ錫杖を突き立て気絶させる
シャラン…と静かに鳴る錫杖の音は
次々倒れるヴィランの呻き声にかき消された
「あらかた片付いたか」
『あとは中央にいる主犯格…先生、あいつらはー』
嫌な感じがする
そう告げようとすると
真上から降ってきた殺気
とっさに相澤先生の捕縛布が
夜羽を捉え
気づけば相澤先生の腕の中にいた
「大丈夫か」
『っはい…ありがとうございます』
先程夜羽が立っていたところに
深深と突き刺さる赤黒い、ツララの様な何か
「お前のその翼はお飾りか?スズメちゃん?」
相澤先生と夜羽の頭上で
パタパタと忙しなく翼を動かし
挑発的に笑い2人を見下す
コウモリのような羽を持つヴィラン
今まで気配を感じなかったのは
この高い天井にでもぶら下がっていたのだろう
真上から現れたのもそれで納得が行く
『先生、ここは飛行能力のある私が』
相澤先生の腕の中から抜け出し
錫杖を構える
「そうはいかん、と
言いたいところだが
あちらさんも素直に共闘させてはくれないか」
中央から主犯格の手まみれのヴィランが
こちらへ向かって走ってきていた
「ここは任せたぞ」
『先生こそお気をつけて…!』
夜羽の返事が聞こえたかどうか
直ぐに中央広場へかけ出す相澤先生
『すぐに追いつきます』
夜羽が睨みあげる先にいるのは
ニタリと卑下た笑みを浮かべる
コウモリの特徴を持つ男
「おいおい、先生に見捨てられちゃったのかな?小さなスズメちゃん」
ただの挑発であることは明白
何も答えることはなく
ただヴィランの動きを観察した
『……』
「おぉ〜こわいこわい
ヒーロー志望のスズメちゃんはいい顔してるね
ヴィランが憎くてたまらないって顔だ」
夜羽を茶化しながら
パタパタと忙しなく羽ばたく
コウモリヴィラン
そのヴィランの周りに浮遊している
太く赤黒いツララのような何か
おそらく武器であろうそれらの動きに注視しながら
夜羽も翼をはばたかせ地上から離れる
夜羽が動いてもコウモリヴィランは
余裕そうに笑みを浮かべ夜羽を
見下せるように先程よりも上空へ羽ばたいた
「キヒヒっいや、違うな
その顔知ってるぞ…
自責の念に苛まれてる奴の目だ」
ヴィランの挑発であると
分かっていても脳裏をかすめたのは
先日の夢に出てきた1人の少年の姿
そして
真っ赤に染る私の両手
挑発だと分かっていても
脳裏を掠めたのは夜羽にトラウマを
植え付けた〝ある事件〟
既に1年経とうとしている事件を
夜羽は今でも昨日の事のように
鮮明に思い出す
そして、奴の言う通り
今も私は
私を責め続けている
錫杖を握る手に自然と力が篭もる
「おっと、図星をついちゃったか?」
夜羽に反応があったのが嬉しかったのか
更に口角をあげ満面の笑みを浮かべるヴィラン
そうだ、私は
自分の力不足を恨んだ
もっと速ければ、もっと強ければ
もっと、もっともっと
いくら自分を責め続けても足りない
きっとこの先も
私は私を許せないだろう
許せないからこそ
私は迷いも妥協もなく
ただ強く
どこまでも強くあろうといられる
だからこそ
もう、ヴィランになんか負けられないんだ
私はもうあんな想い誰にもさせたくない
守られた側にも
守った側にも
『…無駄によく喋るヴィランだ』
「お前は、もっっと鳴けやー!」
腕ほどの太さの十数本あったそれが
いっせいに夜羽へ飛びかかる
が
『ーー脆いよ』
前後左右、頭上から
あらゆる角度から
飛び交うつらら型の武器を
シャンっ…という錫杖の音と共に
夜羽はそれらすべてを叩きおとす
顔面、恐らく目を狙った最後の1本を
難なく右手で受け止め、握りつぶす
「んなっ、この俺が丹精込めて
作った血釘が!」
浮遊していた血釘と呼ばれる武器を
すべて粉々に破壊すれば
目を見開き、口を開け呆然とする
コウモリヴィラン
『血釘だなんて生々しい名前…』
翼を羽ばたかせ一瞬にして
コウモリヴィランの死角である背後へ回り込む
距離を詰め、接近戦に持ち込めれば
一振で呆気なく墜落
そしてヴィランは地に伏せた
中、遠距離型個性は総じて
接近戦に持ち込まれれば
優位が瓦解する傾向にあるが
今回はそれが顕著だった
手に持つ錫杖をもう一度握り直す
地に伏せピクリとも動かないヴィランをみて
勝ちを確信
『大丈夫、もうあの頃の私じゃない』
無傷で倒せたことに胸を撫で下ろすと
こちらを心配そうに見上げる
ショートを思い出した
どれだけ大丈夫だと伝えても
彼はいつでも夜羽の心配をする
心の優しい幼なじみ
『このまま無傷で勝つ…』
ショートのためにも
自分自身のためにも