片翼の月 弍
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食堂でも
移動教室も
休憩時間も
動こうとすると直ぐに勝己が横に来て
無言で荷物を奪っていく
そんな一日だった
夜羽や緑谷以外にも軽傷者がいたため
本日のヒーロー基礎学はお休みだ
そんな本日最後の授業も終わった放課後
帰りの支度をしていると
既に支度を終えた勝己が
席の横で夜羽を見下ろす
「おら、帰るぞ、かせ」
と言って登校時と同じように
夜羽のカバンをひょいと
取り上げる
『あ、かっちゃん』
クラスのみんなとの挨拶もそこそこに
スタスタと既に廊下へ出てしまった勝己を追いかける
『まってかっちゃん!私まだ帰らないの』
「はぁ?けが人がどこ寄り道するつもりだ
大人しくまっすぐ帰るぞ」
『保険室だよー放課後寄りなさいって
言われてるの』
「それを早く言え!」
そう言って勝己は保健室の方向へ
『だってかっちゃん先に行っちゃうから〜』
「るせ」
当たり前のように保健室まで着いてきてくれる
照れ屋で優しい幼なじみは
教室から離れると夜羽の歩幅に合わせて
ゆっくり隣を歩いてくれた
- ̗̀ 𖤐꒰ঌ __________________________ ໒꒱𖤐 ̖́-
怪我の具合を見てもらいに
保健室に来た夜羽と勝己
「随分綺麗に包帯が巻けているね」
『かっちゃんが巻いてくれました〜』
リカバリーガールが夜羽の
後ろに立つ勝己をちらりと見上げる
「お前さん見かけによらず意外と器用だね」
「あぁ?」
『あはは、たしかに見かけによらず
なにしても器用だよね』
「こんの鳥頭……」
なんてことを話してる間に
リカバリーガールが
右手てのひらの包帯をとると
昨日無理やり退院した
とは思えないくらい傷が塞がっている
けれど損傷の激しさは見て取れ
生傷が痛々しい
夜羽の後ろに立つ勝己が今
どんな顔をしているのか
夜羽からは見えないし
リカバリーカールは
見えても、あえて何もいわない
「この様子なら1度リカバリーして
貰った薬をつけて
安静にしていれば大丈夫さね
くれぐれも、安静にね
それにしても本当に
磔にされたとは思えない回復力だよ」
薬を塗って優しく包帯を
巻き直してくれたリカバリーガール
「ほら腹に空いた穴も見せてみな」
そう言われて制服を脱ごうとする夜羽に
リカバリーガールが呆れたように
待ったをかける
「何ボーッと、突っ立ってんだい
服脱がさなきゃほかの傷見れないだろう
あんたは保健室から出てな」
「あ゙?」
リカバリーガールに締め出され
特に行く宛もない勝己
どれくらい時間がかかるかは分からない中
勝己は保健室からは離れず
廊下の窓から
空でも眺めることにした
そんな勝己の耳に
小さなガキの頃から知る声が聞こえてきた
「ホント、心配したんやよ!デクくん」
「すぐリカバリーガールに直せてもらえて良かったな緑谷くん」
「皆心配かけてごめん」
自然と足が声の主の元へ向かっていた
緑谷出久の元へ
それに気がついた飯田が勝己に声をかける
「おや、爆豪くん君もどこか具合がーー」
飯田がいい切る前に
その横にいる緑谷に向かって
ドゴッーー
「い、っーー!?」
「デクくん!?」
「爆豪くん!何をするんだ?!」
「……」
「…かっちゃん」
勝己が出久を殴り飛ばした
当然ながら飯田と麗日が
殴られ座り込む出久の元へ駆け寄る
「……てめぇが!」
なぜ?とでも言いたげに
勝己を見上げる出久の視線に
更に苛立ちを覚える勝己
「…てめぇが考え無しに飛びだしてなきゃ…」
俯き出久を殴った拳を
握りしめている勝己
「バカみてぇに明るく振舞っちゃいるが
ホントはまだ退院できるほど治っちゃいねぇ」
誰がとは言わないが誰のことを言っているのかは
直ぐに3人とも察せられた
「ろくに個性も使いこなせねぇ
てめぇの身体犠牲にして木偶の坊になるだけの
クソナードがしゃしゃってんじゃねぇ」
「爆豪くん!デクくんは
オールマイトのために……!」
「るせぇ!デク!てめーの個性がなんなのか
知ったこっちゃないが
扱えなきゃそれは〝無個性〟と同じだ
昔と、何も変わらねぇ……!!」
出久からの返答もろくに聞かず
勝己は保健室の前まで戻っていった
威圧を放ちながら
不機嫌そうに保健室の前に立つ勝己を見て
今夜羽が保健室にいるのだと
3人は悟った
「あ…今夜羽ちゃんが…」
「番犬や…」
絶対に誰も保健室へは入れないと
言わんばかりの威圧を放つ爆豪を見て麗日が呟く
「……僕が先生方を呼び集め
USJへたどり着いた時、夜羽ちゃん君は既に…
僕がもっと早ければ…」
勝己の様子を見て
保健室へ行く予定だった出久は
ひとまずこれ以上火に油を注がぬよう
引き返すことにした
「…っちぃ、なんで俺は……」
ガキの頃から変わってねぇ
肝心な時に何も出来ない
ヴィランに動きがあった時
先に動いたのはデクの方だった
その次が夜羽
USJで守れなかった
今朝は夜羽のオヤジが
窓ガラスぶち抜くまで
何かが近づいて来ていることに
気づきもしなかった
夜羽のヴィランを見るあの目はなんだ
なんであんなにしんどそうなんだ
強くなったつもりで何も変わっちゃいねぇ
何も守れるようになってねぇ
自分を攻めたてるように
ぐるぐると抜け出せない思考の渦
眉間に深くシワを刻み
威圧を放つ勝己のおかげで
保健室の周りは誰も寄り付かなかった
しばらくして保健室から出てきた夜羽は
威圧を放ち保健室の横でヤンキー座りしている
勝己にギョッとした
『…?どうしたのかっちゃん』
「………」
声をかけても険しい顔はそのまま
それに夜羽の声は届いていないようだった
『かっちゃん?………勝己!!』
「っ…終わったんか」
『うん、どうしたの?おっかない顔して』
「…なんでもねぇよ」
『そっか』
それ以上深く追求することはなく
夜羽と勝己はそのまま学校を出て家路につく
「おらよ」
夜羽の家の玄関前で勝己は
ようやく口を開き
夜羽のカバンを返す
『ありがとうかっちゃん
今日も昨日も、それに
USJの時も』
「…は?」
『怪我したの利き手だからさ
ひとりじゃ包帯綺麗に巻けないし
雑炊も美味しかった!
ずっと荷物も持ってくれて
それに……』
「〝めぇとじてんな!夜羽!!〟」
瞼をこじ開けるほどの
眩い光
『かっちゃんはやっぱり
太陽みたいだね』
「たい…よう?」
『ふふふ、何を難しい顔してるのか知らないけど
かっこよかったよ
じゃ、またあしたね』
「(…んでおめぇはそんなに強いんだ)」
夜羽の言葉に、笑顔に
今までぐるぐると考え込んでいたのが
嘘のように思考がスッキリした
「体育祭」
『ん?』
「体育祭までに全部治して
万全にしてこい
万全になったお前に完膚なきまでに勝つ」
『私より強く、か…
それは、楽しみだ』
勝己の言葉に
夜羽の言葉に
2人は不敵に笑った