片翼の月 弍
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『かっちゃん…ここにいて』
ただその言葉通りに傍にいることしか出来なかった
一晩中痛みに耐える夜羽のそばで
何も出来ない小さかった頃の俺
守ってやらなきゃならないはずのもんを
自分の不甲斐なさで傷つけちまった
あんな惨めな気持ちはもうたくさんだ
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
朝起きて顔を洗って歯を磨くと
日課のランニングへと出かける
一通り走り込んで
家に帰りシャワーを浴び
お袋の作った朝飯を食う
すると唐突に
「そういえばあんた小さい頃1回だけ
お友達の家に遊びに行って
帰ってこなかった日があったでしょ」
「…は?」
本当になんの突拍子もなく始まった昔の話
直ぐにいつのことを言っているのかは分かった
そんなことは今までで1度しかなかったからだ
だけど
「あぁ?…んな事わすれたよ」
いつのことなのかはすぐわかったが
あまり思い出したくない
「あれってもしかして
夜羽ちゃんちだったの?」
「忘れたっつってんだろ」
シラを切ってもお見通しなのだろう
疑いもせず話を続ける
「あの日あんたを預かるって
伝えに来たおじいさん、どっかで見たことあるなって
ずっと思ってたら八咫烏警察の人だったのねー」
「…っち」
ニマニマとイタズラっぽく
こっちを見てるお袋の視線をガン無視して
味噌汁をすする
チラリとテレビを見るとなにやら八咫烏警察
の特集をしていたらしい
見知った顔や夜羽のジジイが映っている
これを見てあの日のことを思い出し
泊まり先が夜羽の家だと気づいたのだろう
だが…
「あんたが人んちに泊まるなんて
珍しいと思ってたらーー」
「うっせぇな!あの日の話はすんな!」
聞いてられねぇと
一気に朝ごはんをかき込み
味噌汁で流し込む
「学校行ってくらぁ」
カバンをひっ掴んでドカドカと
家を出る
あいつの家に泊まることになった
それは別に楽しい思い出でもなんでもない
ただただ自分の不甲斐なさを嫌という程
味わった苦い思い出だった
だから聞きたくなかった
思い出したくなかった
…我ながらガキくせえ
脳裏に浮かぶのは
爆風に飛ばされ舞い散る無数の羽
そして地面に力なく横たわるあいつの姿
その翼は痛々しく折れ曲がり
背中の服は破れそこから大きな火傷がこちらを覗いていた
その傍らで
事態を上手く呑み込めず
呆然と立ち尽くす俺
その両手は皮がめくれ血が滲み
身体のキャパを超える爆破を起こした
反動で傷ついていた
いや、感情的になって頭に血が上って
制御が出来なかったんだ
そして暴発して夜羽が巻き込まれた
個性事故なんて無縁だと思っていたあのころ
いっちゃん傷付けたくねぇもんを傷つけちまった
「っち…朝から最悪だ」
両手がジンジンとひりつく感覚が蘇る
「おっす爆豪〜」
「あぁ?…変髪か」
「なんだ、今日はまた一段と機嫌悪そうだな」
「うっせ」
クラスメイトが声をかけてくるも
相手にせずそのまま学校に向かう
すると校門回りをコソコソ
うろつく大人が数名
その手にはマイクやカメラを持っている
ココ最近よく見かける報道陣だった
この前の地震ヴィランを捕まえた時にもいたヤツらだ
「お前らこりねぇな」
ため息混じりに呟くと
こちらに気づいた報道陣は
「あれ、また君?ヘドロの時の…」
「ヘドロで覚えてんじゃねぇ
爆豪勝己、いずれオールマイトをも超える
ナンバーワンヒーローになる男だ
ちゃんと覚えてろや」
ギロリと睨みを聞かせ啖呵を切る
そんな勝己と報道陣の間に
切島が割り込み勝己を宥める
「落ち着けって爆豪
にしても大人相手に堂々と…
やっぱ個性強ぇと物怖じしないのな」
「あ?個性関係ねぇだろ」
「じゃあ性格の問題か?」
「しるか、俺は事実を言ったまでだ
いずれナンバーワンになる、その事実を」
「やっぱすげぇよお前
俺も、爆豪みたいな強え個性だったら
そうやって自信満々に胸張れるのにな!」
いくら強い個性があったとしても
それを扱いきれないんじゃ
弱いのと一緒だ
俺にだってあった
自分の力すら制御出来なかったクソみたいな時が
だから強くなるために
自分の個性を自分のものにするために
鍛え続けた
もうあんな思いをするのはゴメンだ
「…おめぇの個性しらねぇ」
「あはは、この前の基礎学俺なんも出来なかったからな…
硬化だよ!俺の個性!」
腕をまくり硬化してみせる切島を横目に
校門へと再び歩みを進める
「フン…そうかよ」
「今地味だなって思っただろー!」
「別に…間違えて、傷つけることがねぇ個性だな」
「お?おぉ…でもこの目の上の傷あとがさ!ーー」
言うつもりのなかったことが
ついこぼれてしまい
そこから話を広げようとする切島
どれもこれも朝っぱらから
あの日の話を持ち出したババアのせいだ
報道陣
「ひぃっ、きょ、今日はもう
この辺りでひきあげましょうか」
何かを見つけてビビって逃げていく報道陣
その視線の先には登校してくる夜羽の姿
この前の事件の時夜羽に睨まれたのが相当応えたのだろう
夜羽を見つけて逃げていった
「あ゙…?」
その夜羽は何故か
半分野郎とクソデクと一緒にいる
なんでよりによってあの二人なんだ
やっぱり今日は朝から最悪だ
「爆豪…お前すげぇ顔になってんぞ」
この後もっと最悪の事態に陥ることになるとは
今はまだ誰も気づいてはいなかった