片翼の月 弍
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これは夢だ
夢の中の光景だ
点灯する緊急治療室
その扉の前に泣き崩れ落ちる女性の姿
呆然と立ち尽くし
その光景をなすすべもなく
見守る私
これは夢だ
分かってるのに目覚められない
この光景から目をそらせない
ずくりと腹の辺りか痛み
手で抑えると生暖かい液体にふれた
抑えた手を見るとそこには
真っ赤に染まる私の右手
それはあの日と同じ記憶
いや、
真っ赤に染るこの右手を貫く釘は
USJでみた私の……
そこまで考えて
先程の泣き崩れていた女性は
顔を真っ青にしながら
私に
なにか、言葉を投げつける
あの日と同じ光景
私は返す言葉もなく
後ずさり
何も言葉を発せないまま
その場を後にした
夢の中で
現場を去るとパチリと目が覚めた
右手を見れば
血釘も刺さってないし
赤く染ってもいない
きれいに包帯の巻かれた右手
鼻を突く消毒液の匂い
独特な病院の雰囲気が私を包む
きっとこの空気が
私にあの日の夢を観させたんだろう
『……帰りたい』
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・
夜羽自身の強い要望もあり
検査に検査を重ね
USJ事件の翌日には無事病院を
退院することが出来た
病院の先生が言うには
失血や臓器の損傷も激しく
数日は目覚めない程の
重症だったらしい
いつも怪我や病気になっても
屋敷で治療していたから知らなかったが
どうやら私は人と比べたら
回復力が高いらしい
それでも、
くれぐれも無茶はしないようにと
おこごとと薬を貰い病院を出た
相澤先生たちのお見舞いにも
行きたかったが
絶対に、
まっすぐ帰るよう
念押しされていたので
大人しくまっすぐ家路に着いた
帰宅し玄関の電気をつけると
そこには見慣れた靴があった
それに気づくと同時に
リビングからガタンっと音がし
扉が壊れるんじゃないかって勢いで開け放たれた
「…夜羽…?」
靴の持ち主は勝己だった
扉を開け放ち夜羽の姿を見て
赤い瞳が揺れていた
『ただいま〜来てたんだね
あ、そっか今日臨時休校だから』
こんな昼間に来れたんだね
昨夜オールマイトから聞いていた
臨時休校の、話を思い出し言い切る前に
ずんずん歩いてきた勝己に
抱き寄せられる
「………」
『………』
心配したとも
無茶してんじゃねぇ鳥頭とも
何も言わない勝己
夜羽がポンポンとあやす様に
背中を叩くと
勝己はすぐさま夜羽から離れ
夜羽が持っていた
荷物を持ってリビングへ誘導してくれる
イスを引きそこに夜羽を座らせると
夜羽からもぎ取った荷物のうち
ひとつの中身が目に入ったのか顔を顰めた
「なんだこの紙袋」
赤黒い禍々しい色をした布が
紙袋の中に入っていた
『あぁ、USJで着てたコスチューム
治療するのに切ったみたいだからもう着れないけど』
「治療云々の前に串刺しにされて穴だらけだろ」
『それもそうだったねぇ
1日ももたなかったなぁ〜』
顔をしかめる勝己とは対照的に
夜羽は呑気に勝己の入れた茶をすする
「怪我はもういいのか」
『うん、まだちょっと痛むけど
多少動く分には大丈夫〜』
包帯でぐるぐるにされた手を
なんてことないようにパタパタ振ってみせると
安静にしろと
勝己が夜羽のおでこに
軽いデコピンをくらわす
「しばらく目ェ覚まさねぇって言われてたぞ
いくらなんでも早すぎねぇか」
『うーん、でも昔から怪我の治りなんてこんなもんだし
お父さんも傷の治りこの位早いからねぇ』
「はぁ…どんなオヤジだよ」
怪我してもすぐ治る体質は
小さい頃から一緒にいた勝己は
既に知っていたから
オールマイトやお医者さん程の驚きは無い
むしろ少し呆れているくらいだ
何か作ってやる
という勝己の言葉に甘えて
夜羽は座ったまま
キッチンにたつ勝己の背中を眺める
程なくしていい香りが鼻腔をくすぐり
お腹がぐぅ、と鳴った
そしてテーブルに置かれた
勝己が作った麻婆豆腐
麻婆豆腐は夜羽の
前でグツグツ言っている
『病人に麻婆豆腐って…
美味しいし柔らかいからいい…か?』
「アホ、お前のはこっちだ」
目の前に置かれるほかほかのお粥
卵たっぷり
出汁もきいてて美味しそうだ
お粥の優しい香りに
ふわふわ溶き卵たっぷりのお粥を前に
再度、お腹がぐぅとなる
それを勝己がスプーンで掬い
夜羽の口元に持ってくる
『この位自分で食べれるよ?』
「アホか、右の手のひら穴空いてただろ」
勝己が引く気がないのを早々に理解し
夜羽は促されるまま
お粥をパクリと食べる
優しい味が口の中にふんわり広がる
卵たっぷりで夜羽好みの味付けだ
ひと口食べたら途端に食欲が湧いて
もっと、というように勝己がお粥をくれるのを口をあけて待つ
そして勝己が差し出すまま
夢中でお粥を食べていると
「ヒナみてぇ…」
くすりと勝己が笑った
お粥を平らげ満足げに
お茶をすする夜羽の横で
勝己は今度は自分の麻婆豆腐に手をつける
夜羽はチラリと
真っ白な絹豆腐が
赤く染ってるのを見つめる
八咫烏の制服は真っ黒で
多少の怪我や汚れ血は目立たない
けどヒーローとして纏う白は
血の一滴でもとても目立つ
真っ赤に染る絹豆腐を見て
昨日の自分の姿を思い出す
『かっちゃん私もう
あのコスチューム汚さない』
「あ゙?」
『白を汚さない位の強さをを持たなきゃ…』
まっすぐ麻婆豆腐を見つめながら
真剣に言う夜羽
話の原因が麻婆豆腐だと直ぐに察知した勝己は
「…せっかく作った麻婆豆腐が不味くなんだろ」
『あ、ごめん』
夜羽の頭をぶっきらぼうに
ガシガシと撫でる
「……汚させねぇよ」
『……?、かっちゃんなんて?』
「っせぇ、茶でもすすってろ」