片翼の月 弍
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「全っ然弱ってないじゃないか!
あいつ…俺に嘘教えたのか!?」
自らの首を掻きむしり
なにやらぶつぶつ言っている死柄木を
黒霧がなだめる
「死柄木と私で連携すればまだチャンスは
充分に…」
「そうだな…そうだよ…やるっきゃないぜ…
反撃のひとつもしないガキ一人も殺せず
それでも目の前には弱りきったラスボス…
何より…脳無の仇だ」
脳無を失いそれでもオールマイトへ
襲いかかる死柄木と黒霧
「オールマイトから離れろ!!」
オールマイトを庇おうと
飛び出した出久
力を使い両足があらぬ方向に曲がっている
だがヴィランも手負いだからと
そう簡単に反撃の隙を与えてくれはしない
死柄木の手が
出久へ向けられる
『っ!』
更に、別のところから発せられた
殺気が出久を狙う
死柄木からでも、黒霧からでもない
第三者からの
微弱な殺気は夜羽にしか
気づくことは出来なかった
『いっくん!危ない!』
翼を広げ、瞬時に
先に飛び出した出久を追い抜き
その腕を掴む
もう足を動かすことすらままならない
出久をオールマイトの腕の中へ
放り投げた
「なっ!夜羽ちゃん!?」
なんとか出久を抱きとめてくれたオールマイト
彼の安全を確保し
こちらへ向かってくる殺気の正体を確かめる
こちらへ一直線に飛んでくるのは
1度は制したはずの
コウモリヴィランの個性〝血釘〟だ
再度夜羽を襲うそれは
つららほどあったサイズから鉛筆程度の
細さに様変わりしていた
殺気の正体を見ておびき出されたのだと悟る
わざと出久へ殺気を送り
夜羽が飛び出してくるように
コウモリヴィランに仕向けられた
先程よりも細くなった〝血釘〟を前に
欠けた刀をかまえ
襲い来る攻撃に備える
『(さっきよりもずっと小さい
この程度のサイズなら刃こぼれした刀でも)』
1度は対処出来た技だ
さっきは腕ほどの太さのあった血釘は今や
鉛筆程度の太さしかないし数も少ない
不意打ちだろうが
攻撃が当たるのが夜羽意外の仲間だろうが、
是が非でも夜羽に一泡吹かせようと
急ごしらえで作り実行したのだろう
「ギャッハッハッハー
串刺しになりやがれぇ」
遠くから地に伏せた状態の
コウモリヴィランが叫ぶ
はいずってここまできたのだろう
体を引きずった跡がある
地面に伏しながら目を血ばらせて
夜羽に向かってがなりあげる
『大丈夫…』
小さくなったから
1度見た技だから、
大丈夫
もう既にあのコウモリヴィランは弱っている
その油断が不味かった
パリンーーー
『っぁ!?』
「夜羽!!?」
「うそだろ!」
血釘は夜羽の刀を砕き
何本もの血釘が夜羽を貫いた
さらに勢い衰えず夜羽を刺したまま
血釘は突き進み
土砂災害ゾーンを囲う外壁に夜羽を縫い付ける
先程よりも細くなっていたのは
急ごしらえの弱い血釘だから
ではなく
夜羽を油断させると同時に
より圧縮し強度を上げたものだからだった
強度の上がった血釘は鉛筆程度の細さなのに
夜羽を貫き
外壁に刺さっても折れることは無かった
「文字通り釘付けだクソスズメ!
ギャーハハハハハ!ハ!はぁ…」
下卑た笑い声をあげ
夜羽を指さし笑う
そして
事切れたかのように地に伏せた
コウモリヴィラン
個性の使いすぎで限界値を超えたのだろう
ただただ仕返しとばかりに
夜羽を狙った
執念深いコウモリヴィラン
壁に縫い付けられる夜羽を見て
さぞ、満足したことだろう
そんな事を思い夜羽は
自嘲を含んだ笑みを浮かべた
身じろぎ一つとれないなか
遠くから聞こえてきた発砲音
そして飯田君の声が聞こえた
外壁に縫い付けられ
視界が高くUSJ内の状況がよく分かった
教師陣が助けに来たのだと
そのまま死柄木は撤退
オールマイトはセメントス先生のフォローにより
出久以外の生徒たちに
〝その姿を〟隠している
『あぁ…よかった間に合って…』
そういえば先生たちの中に
高い場所へ来れる個性の人はいたかな?
随分外壁の高い位置に縫い付けられてしまったから救出するのは大変だろう
ハシゴが届く様な高さでもない
ドクンドクン…と
脈打つ度に伝う生暖かい温もり
血釘ではなく自分の血であるのは明白だ
『はは、やっぱり私はまだまだだなぁ…
もう血は流さないって、決め、たのに…』
右手のひらに右腕
左腕に両足そして翼の至る所に
血釘が刺さり貫通している
自分で抜き取ろうにも
両手とも壁に縫い付けられ身動きが取れない
更に壁に縫い付けられた衝撃に頭も切れたのだろう
額からぽたぽたと血が伝っている
だんだん遠くなる意識
脅威は去りオールマイトの秘密も守られた
もう、充分だろうか
重たくなる瞼をもう閉じてしまおうか
遠のいていく意識をそのまま手放そうとした時
閉じかけた目をこじ開けるように
チカッと映りこんだ眩い光
「目ぇ閉じてんじゃねぇぞ!夜羽!!」
血で染みる目を開き
ゆっくり顔をあげると
『あぁもう…眩しいなぁ』
爆発音とともに
必死な形相でこちらに飛んでくる勝己の姿
その目には一切
迷いも諦めもない
ただ真っ直ぐ夜羽の元へ
そして勢いもそのままに
夜羽が縫い付けられている壁に
両手を叩きつける
背後の壁を爆破し
崩れる壁から夜羽を抱きとめた
「半分野郎!」
「あぁ!」
勝己の合図で焦凍は
氷を滑り台のように創った
夜羽を抱えたままでは
勝己は爆破で飛べないから
勝己は夜羽を離さないように
再度強く抱き締め氷の上を滑り降りる
「夜羽!」
「夜羽大丈夫か!すぐに救助が来るからな!」
泣きそうな顔で夜羽を覗き込む焦凍と切島
夜羽を抱える勝己の顔も穏やかじゃない
安心させようと笑みを浮かべ
泣きそうな焦凍の頭を撫でようと
右手を伸ばすも、
その伸ばした手のひらを貫いている
血釘が目に入る
鉛筆サイズの釘が手のひらを貫き
右手はもう、自身の血で真っ赤に染っていた
『はは、は…この手じゃ、安心させられないね』
「夜羽…」
その右手を焦凍は優しく両手で包み込む
勝己の夜羽を抱きしめる腕にも力が篭もる
『かっちゃん…』
そんなに強く抱きしめたら
私の身体を貫通してる血釘が
かっちゃんにも刺さっちゃうよ
そう言おうとして
最後まで言葉は紡げず
勝己と目を合わせたまま
そのまま意識を手放した