片翼の月 弍
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小さかった頃の夢を見た
親父に連れてこられた山の中の大きな屋敷
初めて会ったその家の娘は
自宅の庭園にある池
その上にかかる橋で
びしょ濡れになりながら
少女と同じ、もしくはそれよりも
大きく立派な鯉を抱えながら言った
『ほらこの子、赤と白が混ざりあって
すごく綺麗でしょ?』
暖かな日差しに照らされて
綺麗な瞳は柔らかく笑った
暖かな夢から一変
今度は眼前を灼熱の炎が包んだ
『ショート!ショート!』
真っ赤な炎に包まれながら
こちらに手を伸ばす夜羽
彼女の金色の瞳には燃え盛る炎が映り込み
左目は焦凍自身の左と同じような火傷
綺麗な翼を焼かれながらも
こちらへ懸命に手を伸ばす
その伸ばされた手に
触れようとした瞬間
弾かれるように
夢から現実に押し出された
服が冷や汗で張り付き気持ちが悪い
「夜羽ちゃん…」
嫌な夢だった
いや、嫌な過去、現実でもあった
初めて夜羽と会った
暖かな優しいあの日の記憶と
母さんが病院に入れられた頃の苦い記憶
精神的に不安定だったあの頃
最も傷つけたくない人を傷つけてしまった
冷や汗でベタつくシャツを脱ぎ捨て
焦凍はシャワーを浴びるために部屋を出た
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登校中、昨日クラスメイトで行った
ピクニックの写真アルバムが
グループトークに上がっていたので
それを眺めていた
アルバム後半に出てくる
流しそばの制作過程の写真や
みんなで蕎麦を楽しむ写真が出てくる
「…プ」
変なアイマスクを付けた自分の写真がでてきた
八百万、こんなアイマスク作ってたのか
こりゃあ上鳴も夜羽も笑うはずだ
昔、1度だけ
家族でやってみたい、と
ポロリと話したことがある程度の
自分ですら忘れていたささやかな憧れだった
それが昨日夜羽のおかげで叶った
家族とではなかったが
今ではむしろ夜羽やクラスメイトたちとで
良かったとさえ思う
この思い出と、
初めて夜羽と出会った日の
優しい夢だけで終われたなら
それだけで今日は心満たされる一日だった
けれど一変した
後の夢の内容、そして
シャワーを浴びに行ったら
脱衣所で夜勤明けのクソ親父と鉢合わせた
思い出すとまた
気分はどん底である
「はぁ…夜羽ちゃん……」
何となく口をついて出た名前に自分でも困惑する
しかも小さかった頃のように
〝ちゃん〟などと…
自分自身のことに驚いていると近場から
小さな女の子の悲鳴が聴こえた
とっさに走り出し
角を曲がったところに出くわした人だかり
悲鳴を発する声ははるか上空から聞こえ
見上げるとそこには
夜羽と幼い少女が空中飛行を楽しんでいた
先程聞こえたのは歓喜の悲鳴だったのだろう
現に夜羽に抱えられた少女は
満面の笑みを浮かべていた
「轟くん!」
声が聞こえて振り向けば
そこにはクラスメイトの緑谷がいた
「お、緑谷か」
「おはよう!人だかりができてたから
ヒーローがいるのかと思ったら
夜羽ちゃんだったよ」
「何があったんだ?」
「幼稚園に行く途中だったあの子が
急に個性が発現して制御が
出来なくなっちゃったみたいで」
「そこに夜羽が駆けつけたのか」
「うん、そうみたい」
上空にいた夜羽は女の子の
母親の元へゆっくり降下してくる
大きく手を振る女の子に
ペコペコと感謝を告げる母親
「凄いね夜羽ちゃん…
ほんの少し前まで警察を目指してたのに、
既にヒーローみたいだ」
「いや、夜羽は警察を目指してたわけじゃねぇ」
「え?」
「…たぶん。だけどな」
『ショート!いっくんおはよぉー!』
名前を呼ぶ声に振り向くと
手を振りながらこちらへ歩み寄ってくる夜羽
朝に見た夢のせいか自然と
夜羽の瞳に目が行く
当然瞳に炎は映っていないし
その顔に火傷の痕もない
翼も、いつも通り綺麗だ
『どうしたのショート熱でもある?』
そう言いながら夜羽の右手は
ショートのおでこに触れ
そのまま左頬を包む
『あったかいけど、いつもと同じくらいだね』
そう言って離れていく夜羽の手が名残惜しい
「夜羽ちゃ…夜羽……」
『ん?どした?』
「…緑谷の方が熱がありそうだ」
焦凍の言葉で夜羽が出久を見ると
先程の2人のやり取りにやられて
口を硬く結び顔を真っ赤にしていた
『いっくん大丈夫?』
焦凍の時同様
夜羽が出久に手を伸ばすと
出久は大きく後ずさり
「だ!大丈夫だから!ほら、そろそろ学校向かわなきゃ遅刻しちゃうよ!」
「お、それもそうだな」
『今日は余裕持って出てきたつもりだったんだけどなあ〜』
3人揃って少し早歩きで学校を目指す
「轟君さっきまで少し暗い顔だったけど
もう元気そうだね」
隣に並ぶ出久が焦凍に小さく囁く
その言葉に焦凍はそういえば、とつぶやく
そして見つめる先には少し先をゆく夜羽の姿
その背中を見るだけで自然と笑みがこぼれる
「…緑谷」
「うん?どうしたの轟くん」
「昨日はサンキュな流し蕎麦…」
「うん!楽しんでもらえたなら良かった!」
先程見たアルバムの写真を思い出し
緑谷にお礼を言うと
満足気に緑谷は笑う
『ほら早く早く!置いてっちゃうよ〜』
空を飛ばずに
先を走る夜羽に再び視線を戻す
初めて会った時と同じ綺麗な翼は健在で
夢の中、炎に包まれていた夜羽のように
その左に火傷のあとはない
もう、あの時の俺とは違う
あの綺麗な翼も、瞳も笑顔も
きっと守ってみせる
夜羽を傷つけた左は
もう
絶対に使わない
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USJ編入りますm(*_ _)m
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