片翼の月
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私の家は街から離れた山の中腹にあった
山を降り森を抜けた先には多くの人達が暮らす街がある
多少離れてはいるが翼を持つ私たちは
直ぐにこの家と街を行き来できる
その街へは普段父や祖父の仕事の
付き添いとして行く程度で、一人で行くことは
まだ許されていなかった
個性を、身体を、祖父が定めた
条件まで強く、上手に扱えるようになれば
1人で出ても構わないと言われていた
祖父は国から認められた警察機関
八咫烏警察の総督だ
孫娘である私をを可愛がってくれる反面
とても厳しく、個性や体術の鍛錬を指導されていた
八咫烏警察と普通の警察の違いは
ヴィランと対峙した際に個性の使用を
許可されているか否かだ
八咫烏警察はとある条件下の元
個性の使用を国から認められている
個性を使い守る事も戦うことも許された警察
それが八咫烏警察
故に、いずれそれを引き継ぐ可能性のある
夜羽に対しての教育は
とても厳しいものになった
それでも夜羽は挫けず鍛錬に耐えた
そして街に出るための条件をどんどんクリアし
最後の試練
これさえ習得すれば
1人で街へ降りることを許される
それは
完全獣化
個性を使いこなしていく上で重要な技だ
足や目、嘴などの部分的な獣化は簡単だが
完全獣化は大人でも苦手な人が多いくらい難しい
逆に完全人化というのもある
たとえ獣の個性を持とうとも
結局は我々が人間であるというのを
裏付けるように、意外と簡単にできるもの
鳥系個性は他の動物系個性と比べて
このふたつを習得できる割合が多い
どうしても出来ない鳥個性の人も
いなくは無いが大抵どちらかは出来る
まぁ、そんな話は置いといて
八咫烏中学三年生
月乃瀬夜羽、とうとう完全獣化に
成功しました!
どこからどう見ても立派な鷲だ
人間要素はひとつもない
この喜びを誰に伝えようか
家や道場にいる人達にはもう既に
自慢しまわっている
ルンルン気分で
谷をかけ森をぬけ街へやってきた
この完全獣化を習得したことにより
1人で街に出ることをとうとう許されたのだ
初めて自由に飛び回る街には
たくさんの高層ビル、住宅街や商業施設、公園
『ご近所さん多そう〜楽しそう〜!
羽の無い人がいっぱい〜』
それ以前にも街へは時々来てはいたが
普段は祖父や誰かと一緒なので
ひとりで、しかも完全獣化してくるのは
初めてで、気ままに行きたい所へ
飛んでいけるのは実に楽しい
そうしてしばらくの間は
気の向くままに空中散歩を楽しんでいると
遠くの方から悲鳴が聞こえた
「きゃー!ヴィランよー!」
最初の悲鳴を皮切りに
慌てふためく住民の声が多くなってきた
しかも爆発音まで聞こえる
あわてて声の聞こえる方へ向かう
目に飛び込んできた状況は建物の1部損壊
一棟は完全に火の手が上がっているものの
避難が完了しているのか避難用のはしごが窓からタレ掛けられているのが見える
複数犯のヴィランはすでに全員
ヒーローの手により
取り押さえられていた
さすがヒーロー
迅速な対応だ
私なんかが心配する必要もなかったかなと
来た道を引き返そうとしたら
また爆発音
それは火の手が上がっていた建物からで
その建物の上階に取り残されてる人影が一瞬見えた
「ヒーロー!誰かがビルに取り残されてるわ!」
ぶら下がっていた避難ハシゴは先程の爆発で
ひとつは吹き飛ばされ、ひとつは火が伝って使用できない
屋上に上がる手段もない建物
「見てください!建物のビルの中に
まだ取り残されている女性が!
下には火の手が上がっておりこれ以上
上への逃走経路もない…
ヒーローは…今現場にいるヒーローは
飛行手段のない人ばかり…これは、どうすれば!」
現場へ押しかけていた報道陣が
燃え盛る建物の映像を
カメラに写している
取り残された要救助者は窓を全開に開け
外の空気を取り込もうとしているのか
窓から身を乗り出している
その下でヒーロー達はどう助け出そうか
焦り言い争っているように見える
アナウンサーの言葉が頭の中で反芻される
飛行手段のないヒーローばかり…
「た…たすけ、て…」
ヒーローの仕事だからって
遠慮しちゃいられない
人の命がかかっている
涙を流しながら苦しそうに
窓の外に手を伸ばす要救助者を
そのまま見過ごすことは出来なかった
『少し痛むでしょうが、我慢してください!』
すぐさま女性の元へと飛び立ち
窓から半身を乗り出している女性の
両腕を足で掴む
なるべく爪が食い込まないように
『飛びます!』
そう言って女性を燃え盛る建物の窓から
引きずり出した瞬間
ーーーボーンっ
ひときわ大きな爆発音が鳴り響いた
地上に降り立ちながら振り返ると
先程女性がいた階層からの
爆発だった
『…か、間一髪…』
これにはさすがに冷や汗が
地上まで降り立つと
そこにはヒーローと救護班が
駆け寄ってきた
その中には小さな男の子もいて
「ママ!ママーー」
「大丈夫ですか!お怪我は!」
「なんということでしょう!鷲が!大きな鷲が
炎荒れ狂うビルの上階から要救助者を
助け出しました!これは…鷲に変身する個性の持ち主でしょうか、それとも獣を操る個性の方がどこか近くに…?!」
報道陣も
あとから着いてきた
ここで正体を明かすと面倒そうなので
獣使いがこっそり助けたことにしよう、そうしよう
と思いさっさとその現場を離れた
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
時間は夕方
そろそろ日もくれようとしている中
私は家へ帰れないでいた
さっきの爆発、直撃は免れたが
飛んできた破片で翼を怪我してしまっていた
ガラスも刺さっている
この翼で家まで帰るのは無理すれば
出来なくはないが難しい、
疲れもあってあまり危険は犯したくない
獣化を解くことも考えたが
『すっぽんぽんになっちゃうしなぁ』
さらに鷲の目は昼間は人間の目よりもはるかに視力がいいが
夜は人間と同じかそれ以下
あまり闇雲に動き回らない方がいい
はて、どうしたもんかと思っていたら
一筋の光が
学ラン姿のかっちゃんを見つけた
下校中なのだろう
その姿を見て最後の力を
振り絞り彼の元へと飛び立った
「うぉ!なんだコイツ…!」
あぁ、良かった
そう思ったところで意識を手放してしまった