片翼の月
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俺が森に行くことはあっても
あいつが街に来ることは無い
いつも足を運ぶのは俺の方だった
川であった衝撃の出会いから
たびたび森を訪れてはあいつに会いに行く
そんなことが数年続き
現在受験勉強真っ盛りの中学三年生
大事な時期だ、お互いのため
会いに行くのを控えようかと思ったが
行かなきゃ行かないで勉強に身が入らない
それに、あいつが勉強してるところは
これまでで1度も見た事がない
そうして今日も森へ足を運んだ訳だ
いつも俺があいつに会おうと森に入ると
見計らったように“ 何か”が迎えに来る
それはカラスだったりハトだったり孔雀だったり。
ダチョウなんてものいた
ちっちゃい頃はそれらに襟足掴まれて
飛んでどこかへ連れていかれた
カラスや鳩もその辺にいるのと
何ら変わらないサイズと見た目なのに
どこにそんなにパワーがあるのやら
でかくなってからは自分の足で
迎えに来た鳥に付いて行くようになった
そして目的地に着くと
鳥たちはみんな必ずこう言う
〈お嬢、また来てやしたぜ〉
姿形はその辺の鳥と変わらないそいつらが
人の言葉を喋るのだ。
そしてそのままどこかへ飛んでいく
連れてこられる場所はいつも来る度に違う
川だったり谷だったり誰も住んでない廃屋だったり
でもその何回かに1度連れてこられるのがここ、
あいつの家だ
「…なんべん見てもでけぇな」
『あぁ!かっちゃん!いらっしゃい』
真っ黒な着流しに右手には木刀を持った夜羽が
門からひょっこり現れる
「かっちゃんって呼ぶな鳥頭!」
このやり取りも
もう何度したか分からねぇ
『今日は何しに来たの?』
「…別に」
『じゃあこっちに来て一緒に遊ぼう!』
このやり取りも恒例化している
来る度にいつも訳の分からねぇことをしていて、
誘われ言われるがままに一緒に行動するのだ
川で魚釣りや木登り日向ぼっこに登山
春の山菜狩り、それらならまだ分かるが
子供(幼鳥)達の飛行訓練だったり
絶壁を何の意味もなく一日中
登ったり降りたりしていたり
誰も住んでない廃屋の片付け
キノコ狩りならぬ毒キノコ狩り
なんてことも
以前
なんで食用のキノコをからねぇんだ
と、聞いたところ
なんでキノコ狩りイコール食用なの?
と聞き返され唖然とした
そんな中でも今日は“ 当たり”の方だ
案内されたのは敷地の中にある
でけぇ道場
そこにいるのは若い(とは言っても成人した)
鳥個性をもつ男たち
みな一様に黒の着物を羽織り
手にはそれぞれ武器を持って
訓練に励んでいる
「おぉ!かっちゃんじゃないか」
夜羽と共に道場に入れば
いい歳した大人が
いい歳のガキの頭を撫でに来る
「かっちゃんって呼ぶんじゃねぇ!
爆豪だ!爆豪勝己!」
あぁ、バクゴーねバクゴー
ここにいる大人たちは夜羽と違って
最初はかっちゃんと呼ばないよう
気をつけてくれるがすぐに忘れて
かっちゃんに戻る
『かっちゃん、今日はどうする?』
「…ん。木刀」
夜羽の訓練中に来れば
この大人たちに交じって
一緒に訓練を見てくれることがある
武術や武器の扱いの指導、訓練
自主練の方法なども教えてくれて
これがなかなかいい特訓になる
だから“ 当たり”
初めて会ったあの日
訓練に興味があると言ったのを
あの鳥頭はちゃんと覚えていたのだ
「バクゴー今日こそお嬢から1本取れるといいなー」
「頑張れよーバクー」
「お嬢昨日木から落っこちて怪我してっから
右狙えーバッチャン」
「だぁーれがバッチャンだ!こらぁ!」
もう既にバクゴーからかっちゃんに
戻りそうになっている
だがもうこれ以上気にしても仕方がない
そして視線を戻し夜羽を見るも
特に怪我しているようには見えない
『あはは、手足や翼じゃなくて
肋骨が折れたんだよ〜服きてるから見た目じゃ分からないよね〜』
「ぬぁーんで休養してねぇんだテメー」
『ん?んー、、今朝起きて何ともなかったから?
それにもう昨日のことだしね〜』
「まだ昨日、だ!肋骨折れてそんなわけあるかぁー!」
木刀をかまえた夜羽が
爆豪より先に動き始めた
手加減した訳ではなかった。しかし
負けた、結局負けた
同い年で、女で、怪我してる奴に
いくらお互い個性を使わず
体術と剣術勝負だったとしても、だ
個性、爆破
この個性を持つ前から、
俺はわりとなんでも出来た。
俺ができるのに周りのヤツらがなんで
できないのかが分からなかった
そして個性が発現して
俺が特別なんだ、俺だから、俺こそが
そう思うようになっていった
同級生の奴らも
先輩も、先生も、
誰もオレにはかなわない
純粋にそう思ってた
学校の先生ですら俺の個性を褒め
恐れていた
なのに
なんなんだこいつらは
大人どころか
同い年の女の子1人にも適わねぇ
なんでだ…
なんなんだ……!
『ははは!かっちゃん、
すっごく落ち込んでる〜
疲れちゃった?』
「うっせぇ!この鳥女!」
『ははは!八つ当たりだー
じゃ、私もう少し体動かしてくるから〜』
そう言って大人の中にかけていく夜羽
大人に交じって錫杖や木刀を振り回す彼女は
大人たち相手に全然引けをとってない
…むしろ
「まっ、参りやした」
大人を相手に完全に殺り負かしている
怪我してるくせに
『あー疲れた!かっちゃんアイスでも食べない?』
ググッと伸びをして
隣にどかっと座った夜羽
あちーと言いながら襟元を
パタパタさせている
…無防備なやつだ
「…や、もっかい行ってくる。
怪我人は横にでもなってろ」
「お、かっちゃん復活か〜!
次は武器やめて無手でやってみるか〜?」
「っうす」
個性有りでは何度か勝ち星を上げているものの
個性無しの肉弾戦では
当たり前…ではあるが当然勝てない
まぐれで勝てることも無くはないが
だいたい実力差では負けている
…ちなみに夜羽には無手でも武器有りでも
1度も勝てた試しがない
まぐれ勝すらない
「はははっ!仮にもプロだからな
そう簡単にはやられてやらんぞ!かっちゃん」
「っちぃ!」
「じゃー次は俺!俺とヤローぜかっちゃん」
比較的歳の近い4つ上の先輩
「俺よりちっちぇー癖に…」
それでも勝てない
なんでだ…なんでだよ
どうすれば勝てる?なんで…なんで…
思考の渦に飲み込まれそうになる『ほらかっちゃん!』
こういう時はいつも、こいつに呼び戻される
『ほらかっちゃん、アイス溶けちゃう〜
頭に血が上ってたら勝てるものも勝てないよ!これ食べよ!』
冷たいアイスの入った袋を
ほおにべちょっと押し当てられる
「っつめて!」
「はは、お嬢の言う通りだ少し休んでこいかっちゃん」
夜羽と爆豪のやり取りを微笑ましく
見守る大人たち
精神的にも負けてるのにイラッとしたが
言われた通りに休憩がてら夜羽と
アイスを食べることにする
「ちぃ、もう少しだったのに」
『ははは、みんなプロだもん、
あそこまでくらいつけるかっちゃんはすごいよ』
そう、ここにいる奴らはみんな
現役で働く警察…
八咫烏警察の精鋭たちだ
八咫烏警察の仕事は普通の警察とは違う
普通の警察は
ヒーローの捕まえたヴィランを受け取り護送、
街で暴れるヴィランから街の住民を避難させる
逃げたヴィランの痕跡を追い調査する事など
etc…
直接ヴィランと戦うことは無い
それに対し八咫烏警察は
国に認められ独立した警察機関
基本的には警察と同じ仕事もこなすが
大きく違うのは
ヴィランと対峙すれば個性を使い
戦闘する事を許可されていることだ
戦闘行為を行うにはいくつか条件が
定められてはいるものの
いつでもヴィランと対抗できるよう
その条件を満たした状態で仕事に当たっている
だからこうして体を鍛え訓練し
個性をのばし高めあっている
今ここにいる大人はみんな八咫烏警察所属のプロで
今日非番の奴らがこうやって集まって
休日にも訓練しているのだ
『ん〜美味しぃ』
この肋骨折れてる鳥頭は
八咫烏警察総督の孫娘…らしい
正直それは未だに信じられんが…
嘘をつくような性格ではないし
嘘をつけるような頭でもない
何よりそれは本人からではなく
周りの大人から聞いた話だ
本当のことなのだろう
「ごっそさん」
食い終わったアイスのゴミを
夜羽に押し付け立ち上がる
『少しは冷静になった?』
「はっ、最初っから冷静なんだわ」
別に頭に血が上ってたつもりもないが
気が落ち着いたのは確かだ
ヒラヒラっと手を振り
未だにアイス頬張りながら座ってるこいつが
これを計算してやっていたのかはわからんが
「お、かっちゃん復帰か〜?」
「少しは冷静になったみたいだなぁ」
「いいなぁかっちゃん、
俺も後でお嬢からアイスもらおぅ〜」
「うっせぇわ、おれは最初から冷静だったんだわ」
ケラケラ余裕の笑みを浮かべている
大人たちが出迎える
壁に立てかけてあった木刀を手に取り
「ぶっ潰す」
「できるかな?“ かっちゃん”」
後でアイスもらおうとかほざいてた
4つ上のこいつを
とりあえず先にぶっ潰す
ーーーーーーー
錫杖使って戦ってるキャラって
かっこいいですよね