片翼の月
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緑谷
「ねぇ夜羽ちゃん
ちょっと、いいかな?」
夜羽に声をかける出久の表情はどこか固く
緊張しているような雰囲気だった
『うん?どうしたの?』
「ぃや!えっと、そのね!あぁーと」
話しかけたはいいがどう切り出そうかと
出久はドギマギした様子で
キョロキョロ辺りを見回したり
頭をかいたりしている
『いっくん?』
「あのさ、ヒーロー基礎学の前に!さ、
夜羽ちゃんが言っていたのが気になって!
大きい方のオールマイトだって……」
夜羽が思わずぼそりと呟いたのを
出久は偶然聞いてしまったのだろう
そしてその〝意味〟を確かめるべく
出久はあくまでさりげなく問うてるつもりなのだろう
だがあまりにも不自然だった
正直者な性格だから探りを入れる
という事に慣れてないのだろう
夜羽は一瞬目を細め
手元にあったスポーツ飲料を1口飲むと
『あぁ、あれね!
私がじいちゃんに連れられてみんなの
入試試験をモニター室で見てたのは
オールマイトが話たよね?』
「あ、うん、そうだね」
『その時のオールマイトが痩せてたように見えてさ!』
「あ……(僕が力を引き継いだ日だ……)」
出久の目が見開かれ
何かを思い出すようにハッとする
その表情の変化を見ながら
夜羽は出久には分からないように
小さくため息をひとつ
『モニター室薄暗かったからかな?
改めて見るとやっぱり大きいなって!』
「あ、そうだったんだね!」
安心したようなだけど少し
残念そうな、そんな笑みを出久は浮かべる
夜羽は心の中で出久に謝った
『(ごめんねいっくん…〝秘密〟の共有は
もう少しあとだそれにしても、迂闊だ)』
勝己の視線に気づいていながらも
夜羽はそれを無視を決め込む
出久は気づいていない
いくら多くのクラスメイトたちが
このレジャーシートから出ているとはいえ
誰もいない訳では無い
現に勝己は出久を睨むように見ている
そこでそんな話を
持ちかけてくるとは
迂闊としか言いようがない
けれど、
だからこそ
彼が選ばれたのだろう
それでも心配だ
だからひとつ、ここで忠告を入れる
『いっくん、覚えてる?
入試のゼロポイントヴィランのこと』
「え、あ、うんもちろん…!
まだコントロールできてない個性を使って
両足と右手ぐちゃぐちゃにして、麗日さんに助けられて…」
圧倒的脅威
それを目の前にした
人間の行動は正直だ
その驚異が現れた時どう動くのか
それを見るためのゼロポイントヴィラン
表向きはメリットは一切ない
だからこそ色濃く浮かび上がる
ヒーローの大前提
自己犠牲の精神というものが
つい先日まで無個性だった出久なんて
特にそうだろう
『いっくんがゼロポイントヴィランを
吹っ飛ばして歓喜する
教師陣、審査員は多かった
実際お茶子ちゃんを助けて
素晴らしい行動だった
入学に値するほどに』
「え、あ、ありがとう…?」
言葉では出久の行動を褒める夜羽だが
その顔は先程から険しいものだった
そのギャップに戸惑う出久は
それ以上の言葉が出てこない
『 何が言いたいかって言うと
ヒーローの大前提である“自己犠牲の精神”
それが私はあまり好きじゃない』
「えっ…」
夜羽の言葉になんと返したらいいのか
答えに詰まる出久
『命が惜しいとかそういう事じゃなくてね
命をかけて、とか怪我をしてでも守る
そういう考え方が私好きじゃないの
だって、自分を守ってくれた人が
傷だらけになってしまったら悲しいでしょ?』
「でも、じゃあ、どうすれば…」
『守ると決めたなら自分も無傷で!
怪我したら守られた側の人も
罪悪感感じちゃうかもじゃん?
自分を守ったせいでこの人は怪我をしたんだって』
傷ついてでも守りたいものがあった
それを守って自分をないがしろにした
その〝結果〟を知った
未だに際限なく脳裏をかすめる罪悪感
『入試の時のあれは
究極の自己犠牲だった』
実際入試試験の時
守られた麗日は出久の怪我を心配し
自分のヴィランポイントを譲ろうとした
たが、自己鍛錬に精一杯の彼に
今これ以上伝えても意味が無いかもしれない
私は私を想ってくれてる人たちのために
無傷であろうと思う
そんな考えを押し付けたい訳では無いが
やはり言っておきたかったのだ
『つまり、怪我しないでね!ってこと!』
先程の険しい顔を消し
笑顔でパシンと出久の背を叩く
「う、うん頑張るよ」
何かを考えながら自身の拳とにらめっこする出久
そんな出久に今度は夜羽から
ある話題……ではなく提案を持ちかける
『ねぇいっくん』
「?」
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『 ……っていうのをね、お願いしたいんだけど』
クラスメイトたちが
公園で思い思いに遊び
交流してる間に
夜羽はみんなと少し離れた
ところにある竹林に
出久、切島、瀬呂、八百万を呼び出した
緑谷
「それきっと、すごく喜ぶよ!」
八百万
「まぁ、楽しそうですわ!
私もテレビで見て1度やってみたかったんですの」
瀬呂
「なるほどね、オッケー任せてよ!」
切島
「夜羽おめぇ面白いこと考えるな!
アイツらの驚く顔、今から楽しみだな!」
夜羽がこの公園に来る前から
密かに企んでいたこと
それを決行するために集めた4人は
とても楽しげに
夜羽の提案を受け入れてくれた
『ふふふ、ありがとう
喜んでくれるといいな』
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
「轟さん!」
「お、どうした八百万」
「これを」
そう言って八百万が轟に差し出したのは
アイマスク
芦戸
「なになに?スイカ割りでも始まるの?」
蛙吹
「三奈ちゃん、まだスイカの季節じゃないわ」
八百万のよく分からない行動に
轟は頭にはてなを浮かべ
三奈と梅雨も不思議そうに
やり取りに加わる
八百万
「夜羽さんが、轟さんにこれを付けて欲しいと」
轟
「あいつが?」
アイマスクを訝しんでいた
轟だったが夜羽の名前が出ると
素直に八百万のアイマスクを受け取った
上鳴
「ぷふっなんだそのアイマスク!
八百万が作ったのか?!」
八百万
「あるテレビで見たデザインを真似てみましたの」
素直にアイマスクをつけた轟を
みて吹き出す上鳴
そのアイマスクには
メガネメガネ……とでも言い出しそうなデザイン
3 3
と数字を並べたような目が書かれていた
轟
「そんなに面白いのか?自分じゃ見えねぇ」
爆豪
「はっ!お似合いじゃねぇか半分野郎」
八百万
「さぁ轟さんも、皆さんも
こちらに来てくださいまし!」
八百万の言葉にクラスメイトたちは
なになに?と楽しそうに従い
ついて行く
目の見えない轟は
八百万と飯田に手を引かれながら
目的の場所へ歩き始めた
そしてたどり着いたのは
先程4人が作戦会議をしていた竹林
八百万
「うふふ、夜羽さんが発案してくださいましたの!」
切島
「お、きたきた!もう準備はバッチリだぜ!」
そこには既にスタンバイしていた
切島と瀬呂、出久の姿が
葉隠
「わぁ!なにこれすごい!本格的!」
耳郎
「すご、これ4人で作ったの?」
八百万
「はい!緑谷さん設計、指示の元
私が伐採道具を創造し
切島さんが硬化で割り
セロさんが固定…
そして夜羽さんがーー」
興奮気味に話す八百万だが
目の見えない轟だけが話についていけない
轟
「わり、八百万俺だけ何も分からない」
八百万
「わ、申しわけありません私ったら」
『ぷはっ、ショートアイマスク似合ってるぅ!』
轟
「そうか?自分じゃわからねぇ
上鳴も笑ってたが…」
夜羽はたまらずショートの
アイマスク姿をカメラに収め
また笑い吹き出す
麗日
「ちょ、夜羽ちゃん笑いすぎやで!」
葉隠
「イケメンな轟君のこんな姿なかなか見れないもんね」
咎めるお茶子も笑いを堪え切れてない
見えないが葉隠も同じように
笑っているのだろう肩が揺れている
『もう準備はバッチリだから!
ショートもアイマスク取っていいよ!』
「お、」
ずっと目の前に何があるのか気になっていたのだろう
ずっとソワソワしていた
ショートがアイマスクを外す
「「「『 サプラーイズ!』」」」
目の前に現れたのは竹で作られた
本格的な流しそうめん台
『今回はそうめんの代わりに蕎麦持ってきたよ!』
せっせと土台を作ってくれた
切島たちの横で
夜羽はせっせとみんなの分の
そばを湯掻いていたのだ
「楽しそー!早く流そー!」
「おつゆこのカップでいいかな?」
「薬味はここに置いておくねー!」
器やつゆを用意してくれる皆を
横目に轟はただ呆然と流し台を見つめる
「轟くん!」
緑谷の名前を呼ぶ声にハッと
意識を取り戻す轟
轟
「あ、わりぃ」
切島
「驚き過ぎて固まってたぜ轟!」
瀬呂
「轟もそんな顔すんのな!」
流しそうめん台…もとい流しそば台
の制作に関わったメンバーは
轟や皆の反応を見て満足気に笑う
『ほらショート!流しちゃうよ〜!』
言いながら夜羽は1口大の量のそばを
流す
上鳴
「うぉっ以外とはえーのな!」
砂藤
「おお、流しそうめんはやったことあるけど
そばもなかなか…!」
葉隠
「竹林の中でってのもなかなかおつだねぇ!」
峰田
「障子ぃオイラ届かねぇ!肩に乗せてくれ!」
爆豪
「おい夜羽わさびもっと持ってきてねぇのか」
皆と竹に沿って並び
流れてくるそばを轟は箸で掴もうとする素振りを見せない
轟がスルーしたそばを
後ろにいた麗日がすかさずキャッチ
そばをつゆにつけズルルルと
美味しそうにすする
麗日
「どーしたん?轟くん」
轟
「いや…キレイだなって…」
麗日
「確かに!風流っていうんかな!きれーよね!」
『ショート!ちゃっちゃと食べないと
全部なくなっちゃうよ!』
轟
「お、それは困る」
流し台の1番上部からそばを流す夜羽が叫んだ
そして今度こそ流れてくるそばに
轟は箸を伸ばす
「うめぇ」
チロチロと聞こえる流水音に
サワサワと聞こえる竹の葉の揺れる音
ワイワイ楽しそうにはしゃぐクラスメイトたちの声に
轟のつぶやきはかき消されたが
夜羽には聴こえたのか
ニンマリと笑みをこぼす
夜羽もそばを流す係を変わってもらい
流れてくるそばをすくいすする
『うん、美味しぃ』
家族といつかやってみたい
まだ小さかった、いつかのショートが
呟いた小さな夢
何年もかかった挙句に
家族とではなかったが
今日、クラスメイトの力を借りて
ようやく叶えてあげることが出来た
流し蕎麦を前にみんな笑顔のクラスメイトを見渡し
いいクラスメイトに恵まれたな、と
しみじみ思った
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