片翼の月
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『ねぇかっちゃん!
カーテンってこれどーやってつけるの?』
『本棚これネジが足りない〜!?』
『ねぇ、ベットのカバー何色がいいと思う?』
『あれ、食器の入ったダンボールどれだっけ』
『わぁ、テレビの配線絡まっちゃった!』
はわはわと慌ただしく
動いている割には全然進まない荷解きは
勝己の手がなければ終わることは
なかったんじゃないかと思われるくらい
グズグズだった
そんな夜羽を横目に
改めて部屋を見回す
リビング、寝室、キッチンだけでも広いのに
そこに更に3部屋あるマンションの一室
一人暮らしするにはいささか広すぎる間取りの割に
夜羽の荷物は意外と少なく
勝己の手によりどんどん荷解きを終えてゆく
『かっちゃん〜だいぶ片付いたし
何か食べるー?』
大して何も出来ていないのに
勝己より先に集中力の切れた夜羽が
晩御飯の提案をする
「あ?もうこんな時間か
冷蔵庫なんかあんのか?」
『特にない!何か作るなら今から買いに行くけど?』
夜羽がそこそこ料理できることを
知っている勝己は少し考えるが
面倒だと思い首を横に振る
「さっき蕎麦まみれのダンボールが
あったぞ、あれでいい」
『蕎麦?あぁ、父さんの仕業だねぇ
冷たいのでいい?』
「ん」
『3玉くらい食べれちゃう?』
「んなに食わねぇよ」
キッチンにたちご飯の準備にとりかかる
夜羽の後ろ姿を勝己はお茶をすすりながら眺める
『ふふふ、かっちゃんのおかげですぐに
部屋が片付きそう!』
「そーかよ」
『明日も来る〜?』
「わざわざ来ねぇよ
つーかなんだここは広すぎんだろ」
『んー?ポッキリいった右腕の代償かな?』
「は?」
右手をパタパタさせて
へにゃりと笑う夜羽
右腕の代償というのは入試前勝己が
夜羽宅に行った時
骨が折れてた時のことを言っているのだろう
『雄英通うのはお父さん渋々賛成してくれたんだけどねぇ
一人暮らししたいって言ったら猛反対
駄々こね始めちゃってねぇ』
「……駄々こねるだけで右腕持ってかれんのか」
『まぁでもこれでも譲歩してくれたみたい
最初は雄英近くに土地を買うとか言ってたからねぇ』
いつぞや夜羽の兄弟子たちが言ってた
引くくらい子煩悩だ
という言葉が勝己の脳裏に蘇る
『まぁ私鍵かけずに家出たりとかしそうだし
管理人さんがいるようなマンションの方が
安全だよって話したらここになった』
どう見ても女子高生が
一人暮らしするような家ではない理由が
子煩悩だから
か
『部屋余ってるし、かっちゃん使ってもいいよ?
一人暮らし体験だね〜』
「は?……おめぇいたら同棲じゃねぇか
使わねぇよ」
蕎麦をゆがき終え
つゆや薬味をテーブルに並べ
勝己と向かい合って座る夜羽の顔は
にんまりと何か企んでるかのように笑う
『このマンショントレーニング施設がついててね、
管理人さんに申請すれば個性の使用もOKなんだって』
「ほぉ」
夜羽の話に勝己も思わず笑みを浮かべた
『ふふふ、喜ぶと思ったんだァ』
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「わざわざ送んな」
『いいじゃん、駅までだし
それにもうすぐ桜もちっちゃいそうだしねぇ』
そう言って見上げる先には満月に照らされる
もう見頃を終え
チラホラ花びらが残る程度の桜の木
『かっちゃんが同じクラスでよかった〜』
「てか、結局なんでおめぇは雄英に来とんじゃ」
『かっちゃんならもうなんとなく
分かってるんじゃない?』
「…」
長い付き合いだオールマイトの
説明などを聞いてある程度予測も着いていたのだろう
無言の肯定だった
『ヒーローと八咫烏警察が
もっと上手く付き合って行けるようになれば
ヴィラン犯罪も、それに巻き込まれる人たちも
もっと減らせるって私は信じてる』
「確かに、あんだけ機動力も戦闘力もある
八咫烏警察をプロヒーローやメディアも
上手く扱いきれてねぇ……とは思う」
『そこでこの私!
現八咫烏警察総督の孫娘が
ヒーローと八咫烏警察の架け橋に!
私が雄英に転入することで双方意識しだすでしょ?
そこから少しずつ関係性を変えて行けたらなって』
普通に入試試験を受けるより
雄英高校が初めて転入生を受け入れた事実と
その生徒が八咫烏警察関係者
その方が話題性がある
半ば無理やり転入することを
推し進めたのはそのためだ
『まぁ、それよりもオールマイトが
雄英で先生をやるってことの方が
話題性抜群なんだけどねぇ』
「はっ、ちげぇねぇ」
風が吹き
地面に散らばった桜の花びらが
ふわりと舞い踊る
そんな中2人は歩を進める
宙に舞う花びらは踏みつけられない
改札で夜羽と別れ
電車に乗りこみ
勝己は何となく外を眺める
するとそこには
満月に淡く照らされながら
羽ばたく夜羽の姿
逆光でシルエットしか見えないが
何となく手を振ってる気がして
ぱっと右手を上げるが、
そんなわけないかと
すぐにポッケに突っ込む
電車が動き出すと夜羽は来た道を、
雄英高校のある方角へ飛んでいく
「(学校に行けばあいつがいる)」
雄英に足りなかった何かが
苛立ってどうしようもなかった感情が
淡く照らされた
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
『…ごめんねかっちゃん、雄英に来たもうひとつの理由
雄英を〝選んだ理由〟は言えなかったや…』
願わくばその理由を
話す日が来ませんように