片翼の月
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「ととと、飛んでる!す、すごいよ!」
『あはは、飛ぶのは初めて?』
「うん!」
キラキラした目で夜羽を見上げ
辺りをキョロキョロしては
○○のヒーロー事務所だ!と
興奮しているかっちゃんの“お友達”
『あはは、なら初めての飛行記念に
奮発しちゃうよ〜』
言うやいなや夜羽は
上空に昇っての急降下、旋回、
挙句に1回少年を落っことしてからの
空中キャッチ
「ひ、ひぃぃい〜!」
『あ、ごめん怖かった?』
「さ、さすがに落とされるのは…」
『そっか!かっちゃんは昔これが好きだったから!』
楽しさのあまり調子に乗ってしまったが
涙目になるのを見て反省
それからは高度も速度も落とし
日が傾き夕焼けに染まる空へ向かって
静かに飛んでいた
「…月乃瀬さん、だっけ」
『うん!でも下の名前でよんで!夜羽って』
「あ、と、夜羽…ちゃん?」
『ふふふ、そうそう!』
「色々と聞きたいことがあるんだけど…
一体何から聞けばいいのやら…えっと…」
『もうお友達なんだから!なんでも聞いて~』
「ははは、ありがとう…
さっき夜羽ちゃんは八咫中って言ってたけど、
八咫烏中学のことなんだよね?
将来は八咫烏高校に行って八咫烏警察に?」
『うーん、それでもいいんだけど…
別にそうじゃなくてもいいんだよなぁ〜』
「そ、そうなんだ八咫烏高校からの警察入りは
エリートだって聞いたことがあるから」
『あはは、確かに難しいらしいね〜!
なになに進路の悩み?私でよければ相談に乗るよ〜!』
気がつけば2人は森の近くまで飛んできていて
疲れたから、と
適当に夕日の見える大樹の枝に腰掛けた
案外2人で乗ってもしっかりしている
「僕はかっちゃんと同じ雄英高校の
ヒーロー科に行きたいんだ…でも僕は
“ 無個性”…だから…」
『へー!雄英行くんだ!凄いね!』
「へ?お、おかしいと思わないの?
無個性なのにって」
『なんで?別にいいんじゃない?
できることは出来る!
出来ないことは出来ない!って
しっかり見極めて、できることを
グングン伸ばしてやっていけば!』
否定されるでもなくむしろ
肯定してくれる言葉に予想外だ、と
あっけにとられほうけてしまった
『八咫烏警察って、羽がある人が目立ってるから
あんまり知られてないけど、
翼があっても飛べない人もいるし、
ひとり無個性の人もいるんだよ〜!』
「えぇ!そうなの!?」
今まで知りえなかったプロの警察事情に
顎が外れそうなほど驚いている
『無個性でもプロの警察になれたんだから
きっと、プロのヒーローにもなれるんじゃないかな?
たぶん!』
初めてヒーローになれると言われた
たぶん、ってついたけど
初めて聞いた話に勇気づけられた
初めて無個性を肯定してくれた
「くっ…ふぅ……」
『泣いちゃうくらい悩んでたんだね』
ふわっとした頭をポンポンっと撫でたら
もっと泣いた
『(わぁ、巣みたいにモコモコ〜!
…夕日が沈む前に泣き止むかな〜?)』
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
『夜遅くまで連れ回してごめんね〜』
「ううん、僕の方こそありがとう!
楽しかったし…嬉しかった」
『そっか』
森から街へ戻って暗い夜道を
2人1緒に歩いていた
「あ!今更だけど僕、緑谷出久
よろしくね」
『出久くん?じゃあ、いっくんだね』
「い、いっくん…」
『あはは、キョドってるキョドってる』
ひとしきり笑って夜羽は歩く足を止めた
そして街灯の向こうの暗闇を見つめて
『じゃ、私そろそろ帰らなくちゃ』
「あっ、そうだよねごめんね付き添って
貰っちゃって、普通は男の僕の方が…」
『あはは、私の家は山の中だし、
私は飛べるから!私の方に付き添って貰ったら
いっくん帰れなくなっちゃうからね〜』
「わわっ!そ、そうだったんだ…!」
『また遊ぼうね!』
そう言って夜羽は
飛び立った
満月の中に溶けていくように
それを見計らっていたかのように
街灯の向こうの闇から出てきたのは
「お゙おぃデク…」
地を這うような低い声に
出久は肩を震わした
「かかかっかっちゃんん!?」
「鳥頭と何喋ってたんだコラ」
ゆっくりこちらに歩み寄ってくる
爆豪はシャツが身体に張り付くほど汗だくで、
2人を見失ったあと家にカバンを放り込んで
今まで2人を探し続けていたのだ
「べべ別に大したこと話してないよ!
ホントだよ!」
「大したことないかどうかは俺が判断すんだよ!」
「ひぃぃっ」
息を整えながら汗を拭う爆豪
寒さとは違う意味で
カタカタと震える出久
「しょ、将来というかなんというか…
高校、の話かな」
「あ゙ぁ?…っチ、あいつは、
高校どこ行くか言ってたか」
「へ?」
「言ってたかァ゛?」
「えっあっいや、えっと、八咫烏高校行くのって
聞いたらそれでもいいけどそうじゃなくても…って」
「そーかよ」
「うん」
二人の間に沈黙が流れる
出久がどうしようかと思案を巡らせていると
爆豪が動いた。身体を来た道に向けて
空を見上げながら舌打ちした
「デク…お前ぇ…お前は雄英に行くんか」
いつもだったら行くな、無理だ、無個性がと
罵倒する爆豪が静かに問うた
「ぅん…うんっ!いくよ、ぼく!」
「…プロヒーローになるんか」
「それが、僕の夢だよかっちゃん」
初めてまともに気持ちを聞いてくれた
初めてまともに気持ちを伝えられた
喜びと驚きで混乱する頭
出久の声も手ももう震えてはいない
「お前ならよく知ってるだろデク!
プロヒーローは強ぇ…
俺なんかよりもずっともっと強ぇんだ」
「うん…そうだねかっちゃん」
「認めんな!俺だって強ぇえんだよ!」
「ごごごめんっ」
「んでお前はプロより!俺より!
ずっと弱ぇ。しかも無個性だ
ヒーロー以外に道はあるだろぉが
経営科や警察…お前の頭ならヒーローを支える
サポートアイテムの開発だって…」
自尊心の塊でいつも見下してた相手に
爆豪は普段こんなことは言わない
そんな爆豪の握りこぶしは震えていた
それがなぜなのかは後ろ姿しか見えない
出久には分からない、でも
「かっちゃん…僕のことそんなに」
「あ゙あぁ?そんなになんだぁ
心配なんかしてねぇぞクソデク 」
「ひぃっ」
「てめぇには不相応だっつってんだ」
ぐりんと振り返り出久に詰め寄る爆豪は
震えていない、もういつものかっちゃんだ
「ありがとうかっちゃん、それでも僕は…」
「はっそーかよ!忠告はしたぞ!クソデク!」
ドカドカと来た道を帰っていくかっちゃんを見えなくなるまで見つめていた
いつも、誰よりも僕の雄英行きを
否定していたかっちゃんが…
心配してくれていたんだ…
絶対“ そうだ”とは言わないだろうけど
「僕もなるよ、、、ヒーローに」
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夜羽ちゃんがかっちゃんの自尊心を
ボキボキに叩き折ってるので
原作よりマイルドめのかっちゃんです