特別編 新時代の風 前篇
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『その出血では、そう長く動いていられまい!動けば動くほどにお前の命が削られて行くぞ!!』
『生憎、生命力は強い方よ!体が動かなくなる前に、貴方を仕留める!!』
いつもの、優しく穏やかな母では無く、力強く凛々しい姿に、その表情に、
オレは母に何故だか父の影が重なって見えた。
『里に、皆に、手出しはさせないッ!!』
『!!』
そうだ…母様のあの力強い瞳は、父のそれを思わせた。全く同じ、強い意思が籠った瞳だ。
大切なものを守る時の、強い想いと覚悟と愛情が籠った戦士の瞳だ。
『はっ!戯言をッ!!』
男が素早く印を組むと、あの砂鉄の大蛇が母様に背後から襲い掛かった。
が、大蛇の牙が母様を捕らえる前に、母様の背中を砂の盾が守った。オレの砂じゃない…。
『ぐうっ!?』
砂鉄の大蛇を容易く呑み込んだ砂が、今度は素早く男を捕え締め付ける。
『!』
スタッと上空から着地した人影に、母様の表情が和らいだ。
『我愛、羅…』
フラッと崩れ落ちそうになる母を、父が抱き止める。
『無茶し過ぎだ。こんなに血を流して…』
『平気、だよ…これぐらい…それより守羅を』
『血の気の無い顔で強がるな。すぐに病院で治療と輸血を受けろ。守羅も一緒に行かせる』
『うん…』
側に控えていた上忍に母様を預けて、父様はオレの腕を引いて立ち上がらせた。
『守羅、お前も一緒に行け』
『父様、オレ…オレ…』
『…早く行け』
父様の顔を見れなくて俯くオレに、父様は背を向けた。
その仕草が…オレには、父様に『失望した』と言われたような気がした。
上忍の人の腕に抱かれてぐったりとしている母様の姿は痛々しい。
それに引き換え、オレは自分の足で立って走る力が残っているのに、母様に加勢しなかった。
オレは恐怖に竦んでいた。幼い頃と、何一つ成長していなかったと思い知った。自分の無力と、弱さを…。
母様は、命懸けでオレを守ってくれた。でもオレは、母様の背中に隠れて傍観していただけだった。
オレも、大切な人を守れる強さが欲しい。守りたいものの為なら、何者にも屈しない強さが欲しい。
そう思って、オレはその日から自分を鍛え直した。
もう、オレのせいで誰かが傷付く姿なんて見たくない!その一心で、オレは修行に明け暮れた。
オレを天才なんて呼ぶ人もいるけど、オレは天才なんかじゃない…オレはただの子供なんだ。
でも、今度はオレが…。
(オレが、母様を取り戻す!)
強い意思と覚悟を秘めて、守羅は階段の先に扉を見付けて足を止めた。
微かに開いた隙間から中を覗き込むと、そこは大きく広い空間が広がっていて、
中央に尚が背を向ける形で座り込んでいた。
(周りに他の気配が無い…今なら!)
駆け出して、母の側へ向かう。
「母様!」
「…守羅っ?どうしてここに」
「母様が攫われたって聞いたから…立てる?早くここから出よう。もうすぐ父様も来るはずだから!」
外傷の無い尚の様子に安堵して、守羅が手を握ると、その手を尚はするりと離した。
「母様、どうしたの?」
「離れて!」
「……え?」
尚の言葉が、理解出来なかった。唖然としている守羅にゆらりと尚が立ち上がる。
自分を見下ろす尚の表情は、悲痛に歪んでいた。
「母様…?」
「避けて守羅ッ!!」
「!?」
咄嗟に、繰り出された拳を避ける。後ろに飛び、距離を取る。
何故、尚が攻撃を仕掛けながら、それを警告するのか。守羅の眉間にシワが刻まれる。
「くっ…!一体何が…」
「ごめん、ごめんね守羅。お母さん今、体の自由が利かないの!
体が、私の意思とは関係なく動いて加減が出来ない!だから私の近くに来ちゃ駄目!」
(意思とは関係なく…と言う事は、操られている?なら、何処かに術者がいるはず!)
「危ないっ!」
「うっ!」
パシッ バシィッ!と、二人が拳をかわし合う音が響く。
急所を的確に狙って来る母の柔拳を何とかかわして、視線を巡らせる。
(術者は、どこだっ!)
「守羅ッ!」
「うあッ!」
ドンッと尚の柔拳が守羅の鳩尾にめり込む。
後方へ吹き飛ばされて、守羅は壁に全身を打ち付けた。
「ぐっ!がはっ…!」
「守羅…っ!」
瓦礫に埋もれながら、守羅は尚の瞳に涙が溜まるのが見えて体を起こす。
「ごほっ泣かないで、母様。大丈夫だから…」
「っ……っ……!」
母の頬を伝う黒い涙、絶望の亡泪石がいくつも床に落ちて行く。
自分の子を、自分の手で傷付ける…。
母親にとって絶望以外の何物でも無い状況に、尚はギッと奥歯を噛み締めた。
『生憎、生命力は強い方よ!体が動かなくなる前に、貴方を仕留める!!』
いつもの、優しく穏やかな母では無く、力強く凛々しい姿に、その表情に、
オレは母に何故だか父の影が重なって見えた。
『里に、皆に、手出しはさせないッ!!』
『!!』
そうだ…母様のあの力強い瞳は、父のそれを思わせた。全く同じ、強い意思が籠った瞳だ。
大切なものを守る時の、強い想いと覚悟と愛情が籠った戦士の瞳だ。
『はっ!戯言をッ!!』
男が素早く印を組むと、あの砂鉄の大蛇が母様に背後から襲い掛かった。
が、大蛇の牙が母様を捕らえる前に、母様の背中を砂の盾が守った。オレの砂じゃない…。
『ぐうっ!?』
砂鉄の大蛇を容易く呑み込んだ砂が、今度は素早く男を捕え締め付ける。
『!』
スタッと上空から着地した人影に、母様の表情が和らいだ。
『我愛、羅…』
フラッと崩れ落ちそうになる母を、父が抱き止める。
『無茶し過ぎだ。こんなに血を流して…』
『平気、だよ…これぐらい…それより守羅を』
『血の気の無い顔で強がるな。すぐに病院で治療と輸血を受けろ。守羅も一緒に行かせる』
『うん…』
側に控えていた上忍に母様を預けて、父様はオレの腕を引いて立ち上がらせた。
『守羅、お前も一緒に行け』
『父様、オレ…オレ…』
『…早く行け』
父様の顔を見れなくて俯くオレに、父様は背を向けた。
その仕草が…オレには、父様に『失望した』と言われたような気がした。
上忍の人の腕に抱かれてぐったりとしている母様の姿は痛々しい。
それに引き換え、オレは自分の足で立って走る力が残っているのに、母様に加勢しなかった。
オレは恐怖に竦んでいた。幼い頃と、何一つ成長していなかったと思い知った。自分の無力と、弱さを…。
母様は、命懸けでオレを守ってくれた。でもオレは、母様の背中に隠れて傍観していただけだった。
オレも、大切な人を守れる強さが欲しい。守りたいものの為なら、何者にも屈しない強さが欲しい。
そう思って、オレはその日から自分を鍛え直した。
もう、オレのせいで誰かが傷付く姿なんて見たくない!その一心で、オレは修行に明け暮れた。
オレを天才なんて呼ぶ人もいるけど、オレは天才なんかじゃない…オレはただの子供なんだ。
でも、今度はオレが…。
(オレが、母様を取り戻す!)
強い意思と覚悟を秘めて、守羅は階段の先に扉を見付けて足を止めた。
微かに開いた隙間から中を覗き込むと、そこは大きく広い空間が広がっていて、
中央に尚が背を向ける形で座り込んでいた。
(周りに他の気配が無い…今なら!)
駆け出して、母の側へ向かう。
「母様!」
「…守羅っ?どうしてここに」
「母様が攫われたって聞いたから…立てる?早くここから出よう。もうすぐ父様も来るはずだから!」
外傷の無い尚の様子に安堵して、守羅が手を握ると、その手を尚はするりと離した。
「母様、どうしたの?」
「離れて!」
「……え?」
尚の言葉が、理解出来なかった。唖然としている守羅にゆらりと尚が立ち上がる。
自分を見下ろす尚の表情は、悲痛に歪んでいた。
「母様…?」
「避けて守羅ッ!!」
「!?」
咄嗟に、繰り出された拳を避ける。後ろに飛び、距離を取る。
何故、尚が攻撃を仕掛けながら、それを警告するのか。守羅の眉間にシワが刻まれる。
「くっ…!一体何が…」
「ごめん、ごめんね守羅。お母さん今、体の自由が利かないの!
体が、私の意思とは関係なく動いて加減が出来ない!だから私の近くに来ちゃ駄目!」
(意思とは関係なく…と言う事は、操られている?なら、何処かに術者がいるはず!)
「危ないっ!」
「うっ!」
パシッ バシィッ!と、二人が拳をかわし合う音が響く。
急所を的確に狙って来る母の柔拳を何とかかわして、視線を巡らせる。
(術者は、どこだっ!)
「守羅ッ!」
「うあッ!」
ドンッと尚の柔拳が守羅の鳩尾にめり込む。
後方へ吹き飛ばされて、守羅は壁に全身を打ち付けた。
「ぐっ!がはっ…!」
「守羅…っ!」
瓦礫に埋もれながら、守羅は尚の瞳に涙が溜まるのが見えて体を起こす。
「ごほっ泣かないで、母様。大丈夫だから…」
「っ……っ……!」
母の頬を伝う黒い涙、絶望の亡泪石がいくつも床に落ちて行く。
自分の子を、自分の手で傷付ける…。
母親にとって絶望以外の何物でも無い状況に、尚はギッと奥歯を噛み締めた。