特別編 新時代の風 前篇
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――ヒュオオオ…!
砂塵吹き荒れる砂漠を、小さな影が掛けて行く。
その足に一片の迷いなく、その瞳は一点を目指し見据える。
任務を終えて自里の中に入ると、足の速度は下がり、影が顔を晴れやかに上げる。
照り付ける太陽が、その影を照らした。白磁の肌に翡翠を思わせる瞳、風になびく後ろに結った赤い髪。
左腰に瓢箪、右に短刀を携えた少年…密かに上役から『天才忍者』と将来を期待されている
風影、我愛羅の嫡子、守羅である。
守羅は任務を終えた足で、そのままある場所を目指した。
友人というよりも、もはや親戚に近い感覚の幼馴染みと約束があったからだ。
「ボルトーごめんお待たせ!」
「おっせーよ守羅!」
岩の谷間の陰で、友人、ボルトが頬を膨らませていた。
「ごめんって、今帰って来たんだよ」
「たくよー」
苦笑する守羅に、ボルトは少し不貞腐れた。
ボルトは、木の葉の里の火影ナルトの息子であり、容姿もよく似ている。やんちゃな性格もそっくりである。
今日は五影会談が開かれる砂の里で、ボルトは無理に父親にくっついて来たのだ。
ボルトの暇潰しに駆り出された守羅は、しょうがないなぁ…と昔からの付き合い柄、
言い出したら聞かないボルトのお目付け役になっていた。
「で?今日はどうしたの?砂にくっついて来るなんて」
「…別に、たまにはこっちに来てやろうと思っただけだってばさ」
二人並んで腰を下ろし、なんだか機嫌が悪い様子のボルトに、守羅の勘が働いた。
(また七代目と何かあったんだな…)
七代目とはナルトの事である。いくら家同士が親しいとはいえ他里の長。
守羅なりに敬意を持ってそう呼んでいる。
「お父さんの事?」
守羅が問うと、ボルトが一層ふくれっ面になって唸る。
「相変わらず仕事仕事で、ロクに帰って来ねぇよ!」
ぶうっとヘソを曲げているボルトに、守羅は小さく息を吐く。
「大人げないなぁボルトは…」
「んだよ、お前んとこだって同じだろ?」
「確かにあんまり家にいないけど、忙しいのは仕方無いよ。だって里長なんだから、ヒマだったらおかしいよ」
「オレはお前みたいに物分かり良くなれねぇんだよ!大体、何でお前はそんなすんなりしてんだよ」
ボルトに睨まれると、守羅は少し口籠りながら後ろに手を着いて空を仰いだ。
「だって、見ちゃったんだ…」
「何を…?」
「………」
守羅の脳裏に、両親のある光景が浮かぶ。
それは数か月前の深夜、たまたま目覚めた守羅が居間に下りると、帰ったばかりだろう我愛羅が見えて、
声を掛けようと扉に手を掛けた時だった。
『そうか、やはり寂しい思いをさせているか…』
ピタッと守羅の手が止まる。
テーブルについて、温め直した遅い夕飯を口に運びながら、我愛羅の横顔が若干曇った。
その様子に尚が苦笑する。
『二人だって忙しいのは分かってるけど、やっぱりまだ我慢出来ないところがあるんだろうね…』
『一緒に過ごすと、そんな些細な願いすらオレは叶えてやれん…父親失格だな』
『もう、そんな事言わないの。お休みが取れた日にはちゃんと家にいるじゃない』
尚が我愛羅を背中から包むように抱きしめる。
『しかし、最近では休みを取ることもままならない。
このままでは、オレも子供達に愛想を尽かされるかも知れんな…』
尚の手にそっと手を重ねる我愛羅に、尚が首を傾げる。
『オレも?ああ、ナルトくん?』
『ああ、あいつも多忙で家に帰れずにいるから、息子のボルトに嫌われたらしい。
この間オレに泣き付いて来た』
『反抗期なんだよ。その内ボルトくんにも分かる時が来るよ』
『父親としては、辛いモノだがな…自分の子供に嫌われるなど、身を割かれるより辛いだろう』
『親なら誰もが通る道よ。それに、ボルトくんがイタズラばかりするのは、ナルトくんの気を引きたいから、
構ってほしいからしているのよ。素直になれないから行動で示すんだろうね』
大変だなぁナルトくんも、と笑う尚を見上げる我愛羅。
『オレも、守羅からクソ親父と呼ばれる日が来るんだろうか…?』
真面目に不安がる夫に、尚は吹き出した。
『っふふ、多分大丈夫よ。あの子は物わかりが良過ぎるぐらいだから、
むしろもう少し我儘言わないと、あの年の子は』
『そうか、我儘も言えない程に、オレは二人に我慢を強いているのか…』
また眉間にシワを刻む我愛羅に、尚が我愛羅の顔を覗き込む。
『もうっまたそうやって考え込んで…家のことは私に任せて!』
妻の笑顔に、我愛羅は心の靄が晴れていく気がした。
『…本当に、母とは強いな。頼もしい限りだ…尚にも寂しい思いをさせて、すまないな』
ちゅっ…と唇を寄せる我愛羅を、尚は柔らかく微笑んで強く腕に包み込んでやる。
『大丈夫、大丈夫よ…我愛羅』
『ああ…仕方ない事とはいえ、子供達と過ごす時間が無いのは、寂しいものだな…』
『うん、二人もきっと分かってくれるよ。いつか必ず…』
『………』
温かな灯りの中で抱き合う両親に、守羅は心が切なくなった。
(父様も、本当は寂しいんだ…)
里のため、家族のために働く父の背は、大きくも遠く感じていた。
本当は帰って来たくないのではないかと思ったこともあった。けれど、そうでは無かった…
愛しているから、守るために必死に働いているんだと、守羅はやっと理解した。
砂塵吹き荒れる砂漠を、小さな影が掛けて行く。
その足に一片の迷いなく、その瞳は一点を目指し見据える。
任務を終えて自里の中に入ると、足の速度は下がり、影が顔を晴れやかに上げる。
照り付ける太陽が、その影を照らした。白磁の肌に翡翠を思わせる瞳、風になびく後ろに結った赤い髪。
左腰に瓢箪、右に短刀を携えた少年…密かに上役から『天才忍者』と将来を期待されている
風影、我愛羅の嫡子、守羅である。
守羅は任務を終えた足で、そのままある場所を目指した。
友人というよりも、もはや親戚に近い感覚の幼馴染みと約束があったからだ。
「ボルトーごめんお待たせ!」
「おっせーよ守羅!」
岩の谷間の陰で、友人、ボルトが頬を膨らませていた。
「ごめんって、今帰って来たんだよ」
「たくよー」
苦笑する守羅に、ボルトは少し不貞腐れた。
ボルトは、木の葉の里の火影ナルトの息子であり、容姿もよく似ている。やんちゃな性格もそっくりである。
今日は五影会談が開かれる砂の里で、ボルトは無理に父親にくっついて来たのだ。
ボルトの暇潰しに駆り出された守羅は、しょうがないなぁ…と昔からの付き合い柄、
言い出したら聞かないボルトのお目付け役になっていた。
「で?今日はどうしたの?砂にくっついて来るなんて」
「…別に、たまにはこっちに来てやろうと思っただけだってばさ」
二人並んで腰を下ろし、なんだか機嫌が悪い様子のボルトに、守羅の勘が働いた。
(また七代目と何かあったんだな…)
七代目とはナルトの事である。いくら家同士が親しいとはいえ他里の長。
守羅なりに敬意を持ってそう呼んでいる。
「お父さんの事?」
守羅が問うと、ボルトが一層ふくれっ面になって唸る。
「相変わらず仕事仕事で、ロクに帰って来ねぇよ!」
ぶうっとヘソを曲げているボルトに、守羅は小さく息を吐く。
「大人げないなぁボルトは…」
「んだよ、お前んとこだって同じだろ?」
「確かにあんまり家にいないけど、忙しいのは仕方無いよ。だって里長なんだから、ヒマだったらおかしいよ」
「オレはお前みたいに物分かり良くなれねぇんだよ!大体、何でお前はそんなすんなりしてんだよ」
ボルトに睨まれると、守羅は少し口籠りながら後ろに手を着いて空を仰いだ。
「だって、見ちゃったんだ…」
「何を…?」
「………」
守羅の脳裏に、両親のある光景が浮かぶ。
それは数か月前の深夜、たまたま目覚めた守羅が居間に下りると、帰ったばかりだろう我愛羅が見えて、
声を掛けようと扉に手を掛けた時だった。
『そうか、やはり寂しい思いをさせているか…』
ピタッと守羅の手が止まる。
テーブルについて、温め直した遅い夕飯を口に運びながら、我愛羅の横顔が若干曇った。
その様子に尚が苦笑する。
『二人だって忙しいのは分かってるけど、やっぱりまだ我慢出来ないところがあるんだろうね…』
『一緒に過ごすと、そんな些細な願いすらオレは叶えてやれん…父親失格だな』
『もう、そんな事言わないの。お休みが取れた日にはちゃんと家にいるじゃない』
尚が我愛羅を背中から包むように抱きしめる。
『しかし、最近では休みを取ることもままならない。
このままでは、オレも子供達に愛想を尽かされるかも知れんな…』
尚の手にそっと手を重ねる我愛羅に、尚が首を傾げる。
『オレも?ああ、ナルトくん?』
『ああ、あいつも多忙で家に帰れずにいるから、息子のボルトに嫌われたらしい。
この間オレに泣き付いて来た』
『反抗期なんだよ。その内ボルトくんにも分かる時が来るよ』
『父親としては、辛いモノだがな…自分の子供に嫌われるなど、身を割かれるより辛いだろう』
『親なら誰もが通る道よ。それに、ボルトくんがイタズラばかりするのは、ナルトくんの気を引きたいから、
構ってほしいからしているのよ。素直になれないから行動で示すんだろうね』
大変だなぁナルトくんも、と笑う尚を見上げる我愛羅。
『オレも、守羅からクソ親父と呼ばれる日が来るんだろうか…?』
真面目に不安がる夫に、尚は吹き出した。
『っふふ、多分大丈夫よ。あの子は物わかりが良過ぎるぐらいだから、
むしろもう少し我儘言わないと、あの年の子は』
『そうか、我儘も言えない程に、オレは二人に我慢を強いているのか…』
また眉間にシワを刻む我愛羅に、尚が我愛羅の顔を覗き込む。
『もうっまたそうやって考え込んで…家のことは私に任せて!』
妻の笑顔に、我愛羅は心の靄が晴れていく気がした。
『…本当に、母とは強いな。頼もしい限りだ…尚にも寂しい思いをさせて、すまないな』
ちゅっ…と唇を寄せる我愛羅を、尚は柔らかく微笑んで強く腕に包み込んでやる。
『大丈夫、大丈夫よ…我愛羅』
『ああ…仕方ない事とはいえ、子供達と過ごす時間が無いのは、寂しいものだな…』
『うん、二人もきっと分かってくれるよ。いつか必ず…』
『………』
温かな灯りの中で抱き合う両親に、守羅は心が切なくなった。
(父様も、本当は寂しいんだ…)
里のため、家族のために働く父の背は、大きくも遠く感じていた。
本当は帰って来たくないのではないかと思ったこともあった。けれど、そうでは無かった…
愛しているから、守るために必死に働いているんだと、守羅はやっと理解した。