「その違和感、気のせいじゃ無ぇぜ？可笑しいと思うなら、解いて行くんだな…
絡まっちまった記憶を。何処から可笑しくなってるのかをな…
そんでもってとっとと元に戻りやがれ！中で見ててイライラすんだよ！
何時までもうじうじしやがって！」

そう吐き捨てて、我愛羅は強制的に精神世界から締め出された。

瞼を開けると、もう夜中で辺りは静まり返っている。

「………」

手の平を見詰めて、我愛羅は自身の胸に穴が開いている感覚に顔を歪めた。

まるで誰かの手の平の上で遊ばれているような感覚で、不快だった。

原因の解明を決意した我愛羅だが、自分の心境にまた変化が現れ始めていた…。

翌日の昼のことだ。尚が夕飯の買い出しに出ようと、我愛羅に声を掛けた。

「我愛羅、ちょっと出て来るから子供達お願いね？」

「…何処へ行く？」

「え？」

いつもは顔すら向けて来ない我愛羅が、睨むようにではあるが尚に声を掛けた。

驚いてドアノブに手を掛けたままで、振り向き固まる尚に痺れを切らした我愛羅が、もう一度問う。

「何処へ行くのかと聞いている」

「えっと、夕飯の、買い出しに…？」

「いつ戻る」

「そんなに遅くはならないとおも…」

「いつだ」

「……一時間以内には戻ります」

「そうか」

納得いく返答をしない限り、家から出さないと言わんばかりの我愛羅の圧に、

何故か敬語で返してしまう尚。尚の答えに満足したのか、我愛羅はふいっと顔を逸らした。

「じゃあ、行ってきます」

静かに締まる扉を横目で見ながら、我愛羅は息を吐いた。

最近、尚の姿を目で追う時間が増えた。

初めは妙な女が可笑しな事をしてくるのではないかと無意識に警戒しているんだと、

自分で思っていたが、どうも違う…。

我愛羅がずっと見ていると、尚は視線に気付いてはニコッと笑って、決まって

『なぁに？我愛羅、どうかした？』と聞いてくる。我愛羅は決まって顔を逸らすが。

たまに医療班の手伝いにと、家を空ける尚に気まぐれで着いて行けば、

誰もかれもが尚に声を掛けて行く。…男が特に。

くノ一や他の女性達は、用件だけか手短に世間話を交わすだけだが、男達は

あれこれと話を長くしては尚を引き留める。

なんとも形容しがたい気持ちが込み上げて、我愛羅が相手を睨むと、それまで愛想よくしていた男は、

逃げる様にそそくさと立ち去って行った。

気が付くと目で追って、出掛けると言えば行き先が気になり、いつ戻るのか気に掛り、

自分以外の男と接していると、無性に腹が立つ…

外を見ながら、ずっとその理由を考えるがやはり答えは出ない。

家にいる時間が増えたせいか、考える時間の中に幼い頃の記憶も不意に呼び起こしてしまう。

幼い頃、世話係の夜叉丸がよく夕飯を作ってくれた事とか、遊び相手をしてくれた事とか…

思い出したくもないはずの記憶達が、次々と脳裏を彩っていく。

（昔はよく、夜叉丸と…。夜叉丸と？）

記憶の中の夜叉丸の隣に、誰かの影がある。夜叉丸と一緒に、自分に笑いかけている…。

（何だ？誰だ…？）

自分自身の記憶なのに、自分が知らない誰かがいる。

必死にその影の人物の顔を、声を、思い出そうとするが、

声はノイズのように乱れて顔は影に覆われて見えない。

自分の記憶の歪はここだと確信した。直感で、この人物の正体が分かれば、全てが解決すると感じた。

自分の記憶と格闘すること数分、重い頭痛に邪魔されて、仕方なく思考を中断した。

「っはぁ、はぁ…チッ！」

とりあえずの可能性は見えたが、この調子では埒が明かないと、舌打ちする。

「…我愛羅、大丈夫？」

「！」

気が付くと、言った通りに一時間で帰宅した尚が心配そうにこちらを見ていた。

足元にいる守羅と愛花も、同様に心配した様子で、じっと見詰めていた。

「…ああ」

ぶっきらぼうに言って、顔を逸らす我愛羅に尚は安堵して調理に入った。