我愛羅SIDE

目を覚ますと、オレは医務室にいた。

オレはテマリとカンクロウと、木の葉へ中忍試験に向かうと、昨日バキからそう説明を受けた。

だが、目を覚ました瞬間、世界が変わっていた。

カンクロウもオレも年を取っていて、ここは数年後の世界で、オレは風影となり妻子までいる。

はじめこそ、なんの冗談だと鼻で笑ったが、自分の成長した姿を見て、現実だと知った。

昨日までの少年の自分の面影は薄れ、すっかり大人になっている自分。

まるで夢でも見ているような心地だ。

里の誰もが、オレを見ては怯えて逃げ惑っていたのに、

今では誰もが『風影様』『我愛羅様』と笑い掛けて来る…。

里全体が全く違っていた…。もう誰もオレを『化け物』と罵らない。

誰一人オレを『里の最終兵器』と呼ばない…。

一体どうすればここまで変える事が出来ると言うのか…。

そして何よりオレが困惑したのは、妻子の存在だ。

子供は二人、息子の方はオレによく似ているし、娘の方はあの女に似ている…。

何か言いたげにしているが、恐らくあの女に何か入れ知恵されたのだろう、

泣くでも喚くでも無くただ側に寄って来る。

鬱陶しいが、煩わしくしないので好きにさせている。

特に言葉を交わす訳でも、触れ合う事も無いが、空間のみを共有するだけ…。

そして一番不可解なのが、オレの妻だという尚とか言う女だ。

はじめに目覚めた時こそ、オレの言動に驚愕していたアイツは、カンクロウに簡潔に状況を説明されて

すぐに理解したのか、諦めたのか、オレを見て、言った。

『初めまして、私は貴方の妻の尚です。いきなりだから信じられないと思うけど、
とりあえずこれだけは言わせてね？…――お帰り我愛羅』

『！？』

『……！』

カンクロウや医師達ですら未だ混乱する中で、アイツは笑った。

…それは綺麗に、涙すら浮かべずに。

夫婦間が冷め切っているなら、オレが別人同然になろうが構わないだろうが、

アイツの顔はそう言った諦めは感じられなかった。何かを覚悟し、決意したような瞳だった。

あの言葉は、『以前のオレ』と『今のオレ』の両方に向けられていた…。

…分からない、アイツの考えが分からない。

一体あの女は何を覚悟したと言うのか。オレはあの女とどういう経緯で夫婦となったのか。

オレはアイツの何で、アイツはオレの何なのか…。

何もかもが不透明で、オレは暗闇の先の見えない迷路にでも迷い込んだようで、

苛立ちと焦燥と困惑の渦に呑まれて行くしかなかった…。