風の国、砂隠れの里の執務室では、風影となった我愛羅が仕事に追われていた。

「風影様、今回の任務の報告書です」

「ああ、ご苦労」

バキから報告書を受け取って目を通す。

「…バキ」

「はっ」

我愛羅が書類に目を落としたまま口を開く。

「例の件はどうだ…？」

「…申し訳ありません、未だ進展はありません」

「そうか…ご苦労だったな、下がってくれ」

「失礼致します」

バキが退室して、我愛羅は椅子の背もたれに体を沈める。

「…はぁ」

（尚、…何処にいるんだ？）

空を見上げて、息をつく…。

辛い目に遭ってはいないだろうか。

泣いているんじゃないだろうか。

誰かに虐げられてはいないだろうか。

そう考え出したら止まらず、胸が痛む。

悪いことばかり考えるのは止そうと、頭を軽く振って思考を止める。

「そういえば、今日は会食が入っていたな…」

とある国の富裕層との会食を思い出して、

約束の時間も近かったため、早めに支度して出ることにした。

風影として他国へ出向いたり、富豪や大名達との食事の機会も増えたが、

これも里のためと思い出来るだけ出席している。

「いやはや、五代目風影は若いと聞いてはいましたが、まさかこれ程とは！はっはっはっ！」

脂の乗りが良い男が、我愛羅を見て豪快に笑う。

十代で里長になった我愛羅はこういう席では好奇の目で見られるが、我愛羅は慣れた様子で上手くかわす。

「おお、そうそう！風影殿はご存知ですかな？」

「何を…でしょうか？」

とにかくよくしゃべるこの男の相手にも疲れ、

どう切り上げようかと我愛羅が思案し始めた頃に、男が若干瞳を輝かせて言った。

きょとんとする我愛羅に、男は内緒話をする子供のように声を潜めて話し出した。

「実は、近々私の国で行われるオークションに
一部の富豪たちの間に噂の『ある物』が目玉商品として出品されることになりましてな」

「ある物？」

「ええ、なんでも『宝石を生み出す女』とかいう…」

「！？」

男の言葉に、普段表情を崩さない我愛羅が明らかに動揺した。

我愛羅の反応に、男が口元を吊り上げる。

「ほほう…やはり興味がありますか？」

オークションとやらに人間が出品されることにも驚いたが、何より『宝石を生み出す女』という言葉に、

尚の可能性を見た我愛羅は、興味があるふりをして男に自分をオークションに招待させた。