（ここは…？）

女は薄暗い倉庫で目覚めた。自分は確か、結界に入れられたはず…、

それがどうして外に出ているのか。

見覚えのない風景に、霧がかった意識が少しずつ浮上をはじめる。

首と手足を縛る枷、そこから伸びる頑丈そうな鎖、

顔を覆う程に伸び切った髪、薄汚れた白い着流しから覗く腕と脚に残る様々な傷。

女は近くに人の気配を感じて瞳を伏せる。

「これが今回の目玉です」

「ほーこんな汚いモノがか？」

どうやら自分のことらしいと、女は察した。

「いえいえ、ちゃんとステージに上げる時は服ぐらい変えますよ。見た目も大事ですからねぇ」

「ふん、なら安心だ。まぁこれじゃあ服を変えたぐらいでは大して変わらんだろうがな。じゃあ任せるぞ」

「はい、お任せを」

随分と上の立場らしい男が去る。

女は男達の会話から意識をはずし、ある人のことを考えていた。

たった一人、彼女の精神を支えた存在。

（今頃なにをしているだろう…寂しくて泣いてないかな…会いたいなぁ、『我愛羅』…）

脳裏に何度も思い浮かべた可愛らしい少年の無邪気な笑顔に、女…

尚は男に悟られぬように微かに微笑んだ。




「ようこそ風影殿！さぁ特等席をご用意しました！」

テマリとカンクロウを従えて、我愛羅は会場へやって来た。

会食で話した男が三人を両腕を広げて出迎え、席へと案内する。

「ありがとうございます。それにしてもこの人の数は…」

我愛羅は我愛羅は会場内を見渡す。

まるでおとぎ話に出て来そうな豪華な内装の場内に、見渡す限り人、人、人…。

一体どこから集まって来るのか。

「ええ今回は皆様、例の目玉商品が目当てのようでいつもよりお客が大入りで。
風影殿もアレを狙っているのなら頑張って競り勝たないと、
他の誰かに落札されてしまいますよ？はっはっはっ！」

「…そうですか」

男に短く返し、我愛羅は未だ幕が下ろされたステージに視線を向ける。

我愛羅達が案内されたのは、VIP専用の二階席他の客席と違い、

ステージの脇のすぐ側の細長い場所で、薄いカーテンが引かれている。

どう見てもオークションを行うような場所ではない。

まるで劇場だ。今にもオペラでも始まりそうな異様な雰囲気に、我愛羅の顔が微かに引きつっている。

「我愛羅、大丈夫か？」

「あ、ああ…」

「無理もねぇよ、この空気…我愛羅じゃなくてもそうなるじゃん」

（どいつもこいつも、欲にまみれたツラしやがって…あー気分悪ぃ）

まるで自分が品定めされているような気分にさせられるほどに、場内は異様な興奮と熱気に満ちていた…。