「尚！　父さまなんて？」

大きな翡翠の瞳が不安に揺れる。

「うん、滞在を許してもらえたよ」

「ほんとっ？やったぁ！」

尚が目覚めるまで、我愛羅は片時も離れず側にいたと、夜叉丸から聞いた。

若干怯えて戸惑いながら、小さな体で必死に看病や手当てをしてくれた健気な我愛羅に、

尚は少し照れ臭かったが素直に嬉しかった。

異世界から来たと打ち明けた時、さすがに信じないと思ったが、

この世界にある『忍術』にも似たような術があるらしく、羅砂や夜叉丸同様にあまり驚かなかった。

正直なところは、よく分かっていないんだろうが…。

滞在が決まって嬉しいのか、我愛羅の機嫌が良い。

尚は隣に座る我愛羅を横目で見ながら、ある事を考えていた。

『我愛羅を取り巻く環境の異様さ』についてだ。

明らかに、この里の住人たちは我愛羅を避けている。関わるどころか、近づこうともしない。

唯一まともに接しているのは夜叉丸だけだ。

父親の羅砂も、最低限の会話はするが顔つきが自分の子供に向けるものではない。

どちらかというと『警戒』や『監視』しているといった視線だ。

初めて我愛羅を見た時に、違和感を感じた。

（この子の中に、何か…とても大きな存在がいる）

とてつもなく大きく、強大な力の塊のような存在を感じて、尚は内心戸惑った。

こんな小さい子供に制御出来るものとは思えない力の塊を入れて、

この里の大人達は、風影は、一体何がしたいのか…。

里の平和のための抑止力…？　戦力の強化…？

いくら里のためとはいえ、自分の子供に無理を強いている風影の神経を疑う。

さっき話した時は、人当たりが良さそうな印象を感じたが実際は人の腹の中など分からないと尚はかつて、

自分を利用するだけ利用して見限った大人達を思い出して、顔を歪めた。