（逃げる？　なんで？　どこへ？　何から？）

更に混乱する私に、先生は続けた。

「孤児院に火をつけた輩がいるの。貴女の事を探していたわ…
貴女がいないと分かると、そいつらは顔を見られたからと、
子供達も先生達も次々に殺して行って…
まだ、近くにいるかも知れない。だから貴女は逃げるのよ…！」

「で、でもっどこに行けばいいのっ？」

私には、孤児院以外に行く場所なんてなかった…。

「町へ…行きなさい。事情を話せば、きっと誰かが助けてくれるわ」

「ヤダっ誰も助けてなんてくれないよ！私もここにいる！先生といるッ！」

「ダメよっここにいたら殺されてしまうかも知れないのよっ？」

「独りぼっちになるぐらいなら、死んだ方がいい！！」

「馬鹿なことを言うんじゃないのッ！！」

「っ！！」

先生の怒鳴り声に、思わず涙が止まった。

先生は涙を流しながら、私の頬を撫でた。

「先生と約束したでしょう？お母さん達の夢を必ず叶えるって…それは先生の夢でもあるのよ？」

「うっぐす…うぅ…っ」

真っ黒な絶望の石が、瞳から溢れ出す。

「生きるのよ…どんなに辛くても、悲しくても、負けないで…
貴女は独りぼっちなんかじゃない。先生はいつでも貴女の心の中にいるから…」

「せ、先生っ死んじゃヤダよっ！」

「例え、死んでも…私は貴女を、ずっと…見守っている、わ…」

――パタッ

「せんせい？　先生！？」

どんなに揺すっても、先生がもう一度瞳を開く事はなかった…。