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無頼派
ゆめうつつ
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「司書さん今度結婚式だってー」
誰かが言った言葉が耳から離れない。
×××
「へぇ、司書のやつ結婚すんのか」
安吾が俺の話を聞いて、興味なさそうに言った。コイツは司書の結婚よりも目の前の鍋に夢中らしい。夏でも鍋。
「おっしょはんだってうら若き乙女やねんから、恋人の1人や2人おるやろ」
「で、でも!今まで司書から恋人がいるなんて話聞いたことなかったし!」
「まあ、聞かれねぇのに自分から言う義理はねぇだろ」
安吾もオダサクも、司書にこんなにも興味を持っていなかっただろうか?
どうして俺だけがこんなに司書の結婚について焦ってるんだよ。
「なんや太宰クン、おっしょはんのこと好きなん?」
「そ、そんな訳ないだろ!?」
「なぁんだ、違うんや」
咄嗟に『違う』って言ってしまった。
…司書のことを、好き?分かんないや。多分違う。
「ほら、ウジウジしてないで太宰も食えよ」
「ん、ありがと…ってこれ何」
「ああ、伊勢海老だよ」
「「伊勢海老ィ!?」」
「魚屋の店主に貰ったんだってさ、志賀が」
「志賀直哉が!?てか、何で安吾が貰っちゃってんだよ!」
「今日のムシャさんご所望のメニューに伊勢海老は使わないんだとよ」
「えぇ…伊勢海老貰っといて何なん」
「くれるんならいいだろ、ありがたーく食えよ」
安吾が俺の取り皿に伊勢海老(志賀直哉が魚屋に貰ったもの)を入れる。
うーん、志賀に貰ったってだけで腹が立つけど伊勢海老に罪は無い。…うん、美味い。
×××
-翌日-
「あ、太宰先生!おはよございます」
「あ、司書。おはよう」
「毎日朝からバッチリ決めてて凄いですねぇ、私はギリギリに起きちゃうから時間がなくて…」
「まっ、俺は天才小説家だし?格好には人一倍気を遣って…って、襟おかしくなってる」
「え?あ、本当…」
「じっとして」
「あ…」
司書の、変に折れた襟を正して棒タイを結び直してあげる。
いつも見ている白い喉が目の前にあって、気がおかしくなりそう。
俺のよりもずっと細くて白い首を、俺の手で締めたらどんな反応するんだろう。
上目遣いで俺の顔を覗き込む司書。もうすぐ結婚するのに他の男にこんなことさせていいの?相手に嫉妬で殺されそう。
「はい、元に戻った」
「ありがとうございます!朝ちゃんと起きなきゃなぁ…」
恥ずかしそうに頭を掻く姿を可愛いと思ってしまった。
昨日、オダサクが言った言葉がふと頭をよぎる。
嘘だ、俺が司書のことなんか好きなはずがない。
「そうだ、太宰先生。今日実は急ぎの案件がないのでお昼には仕事が終わるんですけど、午後から暇だったりしません?」
「何かあるの?」
「はい、今度友人の結婚式に参列するので、その日に着るドレスを選びに街へ行こうと思って」
「…誰のって?」
「高校の友達です」
昨日、談話室で誰かが言った言葉を思い出す。
「…司書の結婚式じゃないの?」
「えぇ!?違いますよ、私はまだ恋人すらいませんから…」
「…いないんだ…?そっか。
ふーん、まぁ、いいや。お昼から行こっか」
「はい!ありがとうございます!」
「…オダサクとか誘わなくていいの?」
「いいんです。太宰先生センスいいし、太宰先生に頼みたいんですよ」
無自覚に、何気なく言ったんだと思う。
それなのに、嬉しいと思ってしまう自分がいた。
「そうだなー…やっぱ司書は赤が似合うと思うぜ!」
他の人を寄せ付けないくらい着飾らせてやる!と決意して、前を行く司書の後を追った。
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