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新思潮
ゆめうつつ
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彼女にアピールするにはどうしたら良いのだろう。
館長に直談判?徳田さんに土下座?直接彼女に愛の告白?
どれもハードルが高過ぎる。もし振られたら僕は『歯車』に単身飛び込んで絶筆するしかない。
「徳田せんせーい!」
「どうしたの?また何か失敗したの?」
「最初から失敗って決め付けないでください!」
「違うの?」
「…違わないです」
「ほらね」
「うう…と、とにかく助けてください!司書室の…」
横目で徳田さんと司書さんが部屋から出て行くのを確認した。初期からいる徳田さんを全面的に信頼しているらしい司書さんは、困りごとがあれば直ぐに徳田さんの元へ走る。
そして、徳田さんも口では面倒事はごめんだ、なんて言いつつもいつも彼女を手助けする。
2人の厚い信頼関係が羨ましい。
いっそ、2人が付き合っていたのなら僕の片想いも諦めがついたのかもしれないのに。
うじうじ悪い方に考えてしまうのが自分の悪い癖だと理解していても、嫌な妄想が止まらない。
×××
「おっ、アンタが来るなんて珍しいな」
「…僕もたまにはお酒を嗜みますよ」
「まあ座りな、ラッキーだな!今日は中也がいい酒を買ってきたんだよ」
「座ってな、グラス出すから」
「あっ、ありがとうございます」
日が暮れて晩御飯もお風呂も終えたあと。
もやもやとした暗い気分を晴らす為に食堂へ行くと、いつも通り中原さんと若山さんがいた。
迷惑かな、と思ったにもかかわらず彼らは自然に僕を受け入れた。
グラスも準備して、お酒を注いでくれる。
お酒の入れられたグラスを嗅いでみる、なるほどこれはいいお酒だろう、よく酔えそうだ。
「んじゃ、乾杯し直すか」
「俺たちの友情にかんぱーい」
「「かんぱーい」」
厚いタンブラーグラス同士を合わせるとカチンといい音が鳴る。ワイングラスと違って多少勢いよくぶつけても割れないので、今の僕たちには丁度いいグラスだろう。
「あ、これ本当に美味しいですね」
「だろ~?酒屋のとっておきだってよ」
「これじゃなくても酒は大量にあるし、好きなだけ飲んでってくれよな」
「あ、ありがとうございます」
×××
「は~?お前司書のことが好きなのかよ」
「そうなんですよ~、でも彼女の周りにはいつも人がいるし何も出来ないんですよね~」
「いいや、司書っつたってお嬢ちゃんだぜ、恋愛に憧れるお年頃だし、彼女もお前さんのことも気に入ってたぜ~?」
「えー、まさか」
「ま、さっさと手に入れとけよ。ライバル多そうだしよぉ」
…酔いが回ってきて、余計なことをベラベラと喋っている気がする。でも、お酒を仰ぐ手は止まらない。ああ、これ本当に美味しくて飲みやすいお酒だ。今度僕も自分で買いに行こう。
頭痛を感じる程にお酒を飲むと、視界がぐるぐる回る。回って回って、意識を失いそうなほど眠くなる。
「は~、ジメジメしたって始まんないよなー。なあ、司書?」
「そうですねぇ、もっとガツガツ来てくださった方が私も自分の想いを伝えやすいです」
「だよなぁ、お嬢ちゃんも飲むか?」
「いや、私お酒弱いので遠慮しますね、久米先生に飲ませてあげてください」
「だってよ、ほら飲め飲め!」
「中也、結構酔ってるな~」
「あぁん?おっさんもベロンベロンじゃねーか」
「「あっはっは」」
「………え?」
お酒に飲まれてついに司書さんの幻覚まで見えるようになったのか?
「…痛い」
試しに自分の頬を抓ると痛みを感じるし、目の前の司書さんは不思議そうな顔で僕を見詰める。
「久米先生、大丈夫ですか?二日酔いになると大変ですしもうお休みになられませんか?」
「…いつから居たんですか?」
「久米先生が私のことを好きだとカミングアウトした辺りから」
「…明日は歯車に単身で潜書させてください」
「おいおい、俺より練度低いのに歯車なんて無理だろ!」
「本当にもう休まれた方が…」
「そうだそうだ、ここは俺たちが片付けとくからお嬢ちゃんは久米先生を部屋まで運んでやってくれ」
「わかりました、ここはお願いしますね。久米先生、帰りましょ」
「わわ、1人で大丈夫ですよ…」
司書さんが僕の肩に腕を回そうとして慌てて避ける。アルコールの回った身体は自由が効かなくてよろけてしまう。
「もう、我儘言っちゃダメですって。我慢してくださいね」
「あう…」
彼女が僕の腕を取って歩き出す。振り返ってみると、2人は意地悪そうな笑顔で僕たちを見ていた。
ああ、頭が痛いのはアルコールのせいだけじゃない気がする。
「久米先生、着きましたよ。酔った状態でお風呂に入っちゃダメですからね」
「…はい」
「え、だ、大丈夫ですか!?顔が真っ赤!」
「大丈夫です…時折触れる貴女の髪からいい匂いがして、どこか恥ずかしくなって顔に熱が集まったなんて口が裂けても言えません」
「言ってますよ」
「…!?酔ったらもうダメだ…」
何を考えて、何を声に出しているのか自分でも最早分からない。
「久米先生、私、先生のこと好きだから大丈夫。むしろ嬉しいですよ」
「え?」
「ふふ、おやすみなさい」
「あ、待…」
ニコリと笑った彼女は背を向けて歩き出す。自室に行くのだろう。
僕は、ここで追い掛けて彼女に愛の言葉を伝えたらいいということは理解できている。
でも、視界がぐるぐるしている今は難しい。なんなら、二日酔いで潰れているだろうから明日も難しい。ああ、どうやって伝えよう。
直接彼女に愛の告白がベストな選択だ…頭では分かっているのに、言うことを聞かない身体と重過ぎる瞼が思考を停止させた。
ねえ司書さん、次会ったときはどういう顔をすればいいですか。
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