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新思潮
ゆめうつつ
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「あれ、珍しいですね」
カラコロンと店の扉が開かれる音がして、ふと振り返ると見知った人が入ってきた。
「久米先生はバーによく来られるんですか?」
「ええ…僕だってたまにはお酒を嗜みますよ。良かったら隣どうぞ」
「ありがとうございます」
僕は週に2、3回程バーに赴くけれど、司書さんとここで会うのは初めてだ。僕の他に客はいなくて、彼女をカウンター席の隣に呼ぶ。
彼女は見慣れた制服姿ではなく、見慣れない私服を着ていた。近頃暑いから半袖を着ている彼女の白くて傷のない綺麗な腕が、照明の暗いここではよく映える。
「お酒は得意ですか?」
「いえ、あまり飲まないし強くないんです」
「甘いカクテルなんかがいいかもですね」
「久米先生、何かオススメはありますか?」
「そうですね…すみません、カシスソーダをお願いします」
彼女が特務司書であることを察したマスターは、悪戯好きの小学生の様な笑顔を僕に向けた。
ああ、どうか僕の邪魔をしないでくれよ。
「お待たせしました、カシスソーダです」
「綺麗な色ですね…ありがとうございます」
彼女の前に置かれるカシスソーダとチーズの盛り合わせ。
「…飲みやすいです、美味しい」
「それは良かった」
「このワインクーラーも美味しそうだなぁ~」
「…っ」
意味ありげな視線を向けられた。
×××
普段お酒を飲まないからか、彼女は色んなお酒をオーダーしていた。色んなものを試したいという好奇心からか飲むスピードが早いように思う。
「司書さん、大丈夫ですか?酔ってません?」
「んー、頭はふわふわズキズキです」
「酔ってるじゃないですか!マスター、お冷やをください」
「ヤダ、飲まない!」
「…ダメです。一度お水を飲んでください」
カラコロン
再びお店の扉が開く音がした。
「おっ、久米に司書じゃねえか」
「ダメだよ久米。彼女を無理やり酔わせるなんて」
「ご、誤解だよ!」
芥川くんと寛が入ってきた。2人ともあまりお酒には強くないのに珍しい。2人は司書さんの隣に座る。
「司書さん酔ってる?」
「酔ってません!」
「その割に顔が真っ赤じゃねーか」
「それは、久米先生が悪いんです!」
「え、僕?」
「私、勉強して勇気を出してここに来たのに!久米先生全然気付いてくれないんです」
「ふうん?」
「久米先生が最初にカシスソーダをオーダーしてくださった時点で期待したのに…」
「ねぇ、司書さん。その後は何を飲んだの?」
「ワインクーラー、スクリュードライバー…」
「久米」
芥川くんがジロリと、寛がやれやれといった風に僕を見る。
「司書さんを図書館に連れ帰ってあげなよ」
「久米も気付いてるだろ、それにカシスソーダは狙って注文しただろ」
「うっ」
「お酒に慣れないのにスクリュードライバーは頑張ったね」
芥川くんが司書さんの頭を撫でる。
なんてことない、褒めているだけなのに心がモヤっとした。
「司書さん、帰りましょう」
「むむ…センセ、私酔っちゃったからおんぶしてください」
「ええっ」
「お、司書さん頑張るなぁ。久米、アンタらの分も会計するからさっさとお嬢ちゃん背負って帰れよ」
「うう…分かったよ、ありがと」
司書さんに背中を向けてしゃがむと、彼女は勢いよく僕の背中に飛び込んで来た。
「またお待ちしています」
マスターの声を背に聞きながら、店を出た。
恥ずかしくて暫くバーには行けないよ。
「司書さん大丈夫ですか?」
「久米先生、今夜は一緒にいてください…」
「…ダメです」
「むむ…」
例え彼女が本気であれらを注文していたとしても、僕は酔っている司書さんには手は出せない。
それに、一緒にいたら手を出さないと決心していても揺らいでしまわないか心配だ。
そんな言い訳を考えていたのに、司書さんの自室に彼女を寝かせると、彼女は僕の洋服の裾を掴んで離さなかった。
「久米先生…本当に本当に好き…」
潤んだ瞳でそんなことを言わないでくれ。
手は出さない、自分にそう誓って彼女の布団に入った。
…明日の朝、お酒で記憶をなくした彼女に嫌われませんように。
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カシスソーダ:あなたは魅力的
ワインクーラー:私を射止めて
スクリュードライバー:あなたに心を奪われた
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