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新思潮
ゆめうつつ
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「司書さ…あれ、いない」
本日の助手である久米正雄が司書室に戻ると、司書の姿はそこになかった。
「紅茶を淹れてきたのに、冷めてしまうな」
久米は己のタイミングの悪さに凹みながらも、机上にポットと温めておいた2つのカップを置く。
司書が帰ってくるまでここで待っていても構わないが、紅茶が冷めて行くのをただ眺めているのもつまらない。
久米は司書を探しに行くことにした。
「どこにいるんだろう…」
司書は天気が良い日には中庭で芥川や太宰とカッパを探していることが多かったが、梅雨時期の今は中庭にはいないだろう。
また、いつも買う必要のあるものはメモにまとめ、そのメモを持って2人で買い物に行くことが多いので司書1人で購買にいる可能性も低い。
久米と入れ違いで食堂に行ったか、談話室で誰かと語らっているか。
誰かと一緒にいるところをに声を掛けるのが得意ではない久米は、ひとまず食堂に向かったがやはり司書の姿はない。
「…毎日会っているけれど、姿が見えないときはやはり不安だ…」
久米が司書にべったりな様に、司書もまた久米に頗る甘い。いつも自分を受け入れ理解し、他人より余計に優しくしてくれる司書が自分の側にいないだけで久米は不安になる。
談話室へと向かう足も自然と早くなる。
「司書さ…」
小走りのような速さで談話室に入ると、司書はそこにいた。
「…寝てる」
司書は座った態勢のまま談話室のソファで眠っていた。
「…誰も来なかったのか?」
談話室の電気はついていない。だが、まだそう暗くない時間帯なので電気がついてないなくとも問題はない。
誰かがもし談話室で眠る司書の姿を見かけたら、談話室に置いてあるブランケットを掛けるか司書を起こす筈だ。
ブランケットや上着も羽織らず眠っているということは、やはり誰も談話室には来なかったのだろう。
自分以外の誰かが司書の寝顔を見ていないことに気付いた久米は酷く安堵した。
「…」
連日の有碍書の浄化や雑務で疲れていたのだろうけど、彼女の力になれない自分が悔しいと思う。
久米は司書の柔らかな頬を指でなぞる。
「もっと力になれたらいいのに」
疲れ切って眠ってしまったであろう司書を起こすのはかわいそうだと思い、久米は談話室に置いてあるブランケットを手に取る。
「…失礼します」
司書を1人残して談話室を去るのも勿体無い気がして、久米は司書の隣に腰掛けた。
3人は座れるソファで、司書になるべく身体をくっつけて座る。
ふと香る彼女のシャンプーの匂いに思わずドキッとした。
久米は司書と自分にふわふわした手触りのブランケットを掛け、ブランケットの下に隠れる手で司書の手を握る。
伝わる温かい体温に安心し、司書の寝顔を眺めるうちに久米も意識を手放した。
×××
「寛、カメラをアカくんに借りてきてくれるかい?」
「カメラ?そんなもん何に使うんだ?」
「ほら、いい顔してるでしょ」
「…おお、これは是非写真に残したいな。待ってろ、すぐ借りてくる」
「うん」
菊池が談話室を後にする。偶然廊下でばったり会い、風呂に引き摺られて行きそうな中で立ち寄った談話室。
司書と友人が肩を寄せ合い、2人でスヤスヤと眠る姿は見ていて微笑ましいものであった。
「久米も幸せそうだなぁ、羨ましいよ」
煙草に手を伸ばしそうになるものの、寝ている2人の前で吸うのはやめた芥川は、ちょうどよくアカからカメラを借りて談話室に戻ってきた菊池と笑い合いながら、眠る友と司書の写真を撮るのだった。
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