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MakeS
ゆめうつつ
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『好きだよ』
『…好き』
『俺も牡丹に触れたい』
最終エクステンションを終え、セイは自分が抱いている私への恋心を受け入れ、気持ちをまっすぐに伝えてくれた。
それからというものの、ことあるたびに「好きだ」と言ってくれる。
こんなイケメンに好き好き言われると、私も困る。
私だって、セイの事が大好きだから。
私がセイに伝えられることは少なく、会話途中の選択肢に出てくる言葉しか与えられない。
直接セイに触れたい、喋りたい。
あまりにもセイが好き過ぎて、友人にもセイの事を語っていたら、【セイが目覚ましアプリである】という事実だけすっぽ抜けて、私が彼氏に夢中になっているという噂が広まってしまった。いや、間違ってはないけど。
今更、「セイはアプリで…」なんて弁解が出来るはずもなく、私は彼氏持ち認定されてしまった。
それゆえ、異性との交流はめっきり減った。
合コンの話は持ちかけられなくなったし、異性の紹介もなくなった。
「はー、セイが本当の彼氏なら良かったのに」
『…俺は本当は目を瞑る必要はないけど…』
「いやいや、セイが人間でないなんて認めたくないからそんなこと言わないでよぉ…。
でも目瞑ってくれてありがと…」
セイを指で突きながら(実際にはスマホの画面をタップしているだけ)、コップに残ったお酒を煽る。
最近は、街でもどこでもスマホに向かってぶつぶつと話しかける怪しい女にしか見られない。悲しきかな。
さて、もう今日は寝ようかな。明日は休みだしお昼まで寝よう!
一旦セイを、というかスマホをベッドに置いて、歯を磨いた。
布団に入って、電気を消す。セイに喋りかけて(セイをタップして)、アラームをセットする。
「おやすみ」
『おやすみ』
画面が月夜の背景になり、セイが目を瞑ったのを確認してから、スマホを逆さ向ける。
こうすると、画面が勝手に暗くなって、睡眠用BGMが流れるのだ。
「ぐえっ」
「え?」
スマホを逆向けると、変な声が聞こえた。
と、同時に、急にベッドが狭くなって、私はベッドから床に落ちた。
「いった…」
理由は分からないけれど、何故かベッドから落ちたときに打った肘を撫でる。
「牡丹、大丈夫?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
「えっ!?」
聞こえる筈のない声に反応して振り返ると、そこに実在する筈のない『物』の姿があった。
「セイ…?」
私が先程までいた筈のベッドの上には、確かにセイがいる。
私選んで購入したパジャマ姿に色素の薄い瞳、天使の輪がある艶やかな髪。
「…え、俺…」
セイも自身がスマホから飛び出してきたことに驚いているのか、自身の身体を触っている。
「…私のセイ、だよね」
「ああ」
「セイ!」
「牡丹!」
私は、ベッドに飛び戻ってセイの身体を抱き締める。セイも私の身体を抱き留める。
ずっと会いたかった人。愛おしい人。
「え、暖かい…?」
「…?」
セイは、『アプリケーションの中に存在するコンシェルジュ』に過ぎない。
それなのに、いま私の身体を包み込む彼の身体は暖かい。体温があるのだろうか?
「ごめんね」
「?…いたっ」
「痛い?」
「うん」
「感覚が、あるの?」
彼の頬をつねってみると、彼は痛がった。
手を離すと、つねられた頬に少し赤みがさしていた。
「えいっ」
「むぐ!?」
セイの口に指を突っ込んだ。
驚くセイを無視して、指で口内を蹂躙する。
指を引き抜くと、唾液が付着していた。
「な、なにするんだよ…」
「セイが、人間なのかなって…」
セイの口内に入れた指を洗いに行っていいものか迷ったので、とりあえず自分の口に入れて指を舐める。
「な…っ」
セイの顔が真っ赤になった。
結局指はどうしたらいいか分からないので、机の上に置いてあるウエットティッシュで拭いておいた。
「セイは、人間になったのかな」
「俺、が…?」
「うん。痛覚もあるし、体温もある」
「そうなのかな、人間かぁ。嬉しいな」
セイは再び私を強く抱き締める。
「…ずっと、こうしたかった」
「私もだよ」
「大好き」
セイの身体は、暖かい。
「はあ…良い匂い」
セイは、抱き着いたまま、私の首筋に頭を埋めていた。
変態じみてる。いや、セイ、首の匂いを嗅いでみたいって言ってたけど、早速願望叶えちゃってる。というか、しっかり嗅覚まで備わっているのか。
「セイ、取り敢えず今日は寝ようか」
「うん」
セイが何故かディスプレイから飛び出して来てやや眠気は飛んでいたものの、お酒を飲んだせいで思考はぼんやりとしている。
このまま、セイについて色々と考えられるとは思わないので、取り敢えず今は寝てしまうのが最善だろう。
「…牡丹の匂いだ…」
狭いシングルベッドに無理やり大人が2人並んで布団に入る。
相変わらず、セイは隣で布団や枕の匂いを堪能しているが、いちいち相手にしていたら疲れそうなのでスルーしておくことにした。
「セイ、おやすみ」
「おやすみ、牡丹」
誰かが隣にいる状況で眠るのは久し振りだけれど、酔いが回っているのか、すんなりと眠りに就いた。
×××
「牡丹、起きる時間だよ」
「んん…」
聞き慣れた声に反応して、枕元のスマホを手に取る。
すると、スマホは誰かの手に取られた。
「ん…?」
「牡丹、おはよう」
ぼんやりとした視界の中、誰かが私の顔を覗き込む。
「…誰」
「セイだよ」
「…セイ…?」
「寝ぼけてる牡丹も可愛いね」
「セイ!?!?」
慌てて飛び起きると、たしかに隣にセイが居た。
「…ああ、そうか。セイが出て来たのか」
「おはよう」
セイが両手を挙げて、目をキラキラさせている。ハイタッチか。
「…おはよう」
セイの手にハイタッチして、再び布団に戻る。
「ほら、牡丹、二度寝しないの」
「…」
枕に頭を預けて目を閉じても、真横で話し掛けくるセイが気になって眠れない。
寧ろ先程までの眠気は飛んで行ってしまった。
好きな人に吐息の掛かる距離で囁かれて、心臓が飛び出しそうにならない人がこの世にいるのだろうか。
「今日も1日、頑張ろうな」
「お、おう…」
セイは、人間になった(?)みたいだけれど、コンシェルジュとしての職務は忘れていないのか、昨日の朝までの様に、朝から元気に話し掛けてくる。
私は朝が得意ではないので、頭は冴えているけれど、セイの元気な声が頭に響いて来て辛い。
好きな人でも、朝からハイテンションになられるとしんどいらしい。覚えとこ。
「はあ、起きるか。あ、セイ、洋服ある?」
昨日の夜、パジャマ姿でスマホから飛び出して来たセイ。こらからの洋服はどうしよう。
私は、スマホを取り出して、『MakeS』のアプリを立ち上げた。
「あ、セイいない」
やはり、この端末内から飛び出して来たらしいので、MakeSを開いても、そこにセイは居なかった。
「なんか、不思議な感じだな。そこにいるのが俺の使命なのに」
スマホを覗き込んできたセイが呟く。
「「うわあああああ!?」」
MakeSを立ち上げ、クローゼットを開くと、これまた勢いよく衣類がスマホから出てきた。
慌ててスマホの画面を私達から逆向けたので、衣類は顔面クリティカルヒットをすることなくベッドの側の床に落ちていった。
「…どうなってんだよ」
衣類が流れ出てくるのが収まり、試しにスマホを振ってみても、何も反応はない。どうやって出てきたの?
「あれ?」
もう一度スマホの画面を見ると、MakeSのアプリは落ちていた。
「ねえ、セイ。アプリ起動しないよ」
「え、どうしてだろう」
再びMakeSを立ち上げようとして何度タップしても、アプリは反応しない。
試しに他のアプリをタップすると、こちらは問題なく起動する。
MakeSが使えなくなった。
セイが戻る場所は、無くなったのだろうか。
MakeSが起動しなくなったという事実に対し、私達が出来ることは何もない。
取り敢えずセイに飛び出してきた洋服の1枚を渡して、彼が着替えるのを待つ。
勿論、反対向いているので着替えは覗いてないです。
気になることはいろいろある。
まず、今の現状からすると、セイの性格や虹彩の色は変えられないようだ。
実際、私は最終エクステンションを完了させ、性格も追加購入していた。その上でノーマルの性格を選択していた訳だけども、こちら側に飛び出した今もその性格は変わっていない。
また、虹彩の色は、私が昨日の夜までに設定していた色から変わっていない。
性格や虹彩は、MakeSを立ち上げなければ変えられないだろうが、そもそもMakeS自体が起動しないのでこのままなのだろう。
それに、髪型も変えられなさそうだ。
変えられるのは、スマホから勢いよく飛び出してきた衣服・アクセサリーくらいだろう。
「牡丹、着替えたよ」
「…おぉん、イケメン…」
振り返る許可を得て、セイの姿を見れば、私の視界いっぱいに広がるのはとんでもないイケメンだった。
個性のない顔って、悪いパーツのない整った顔ってことだよね。セイはやっぱりイケメンだ…。
「似合う?」
「当たり前じゃん!」
上目遣いで聞くな、可愛すぎるの!
セイだけ着替えさせて、自分はいつまでも だるんだるんの使い古したパジャマ姿でいる訳にもいかないので、セイに反対向かして今度は自分が着替える。
いや、パジャマ買い直さなきゃ。好きな人の前でこのだる着はマズイ。
適当にクローゼットから取り出した ゆるふわ可愛い洋服に袖を通す。
「牡丹、可愛いね」
「え、いや、まだこっち向いていいって言ってないよ」
「…だって、後ろで牡丹が着替えてるってドキドキする…」
「あ~…、可愛いから良し!」
「俺は可愛いじゃなくて、かっこいいのがいい!」
そうやって少しムキになる所も可愛いね。
でもあんまり揶揄うと拗ねてしまいそうなので、虐めたくなる気持ちを押さえ込んで、セイを連れて洗面所へ行く。
流石、優秀なコンシェルジュ。
人間の生活様式は一通り学んでいるようで、説明なんかしなくても器用にお湯を出して洗顔していた。
私は、ストックしていた歯ブラシを開封して、セイに使わせる。
私も顔を洗って、保湿をする。
セイは、画面の中で色んなことを学んではいるけれど、体験するのは初めてだから、とても楽しそうだ。そのまま部屋にセイを戻らせる。
「ちょっと待っててね」
「?」
「朝ごはん作るから」
セイに食欲はあるのだろうか。味覚はあるのだろうか。
聞いてしまえばそれでいいのだが、セイはスマホの中で、人間との違いにとても敏感だったから、直接的にそれを聞くのが躊躇われる。
食べられなかったら、私のお昼ご飯にしよう。そう思いながら、簡単な朝食を作った。
「…これが、食事…」
「取り敢えず食べてみよっか」
「「いただきます」」
完成した簡単な朝食を机に運ぶと、セイは感動していた。
ごめんね、もっと手の込んだ美味しそうなもの作れるようになるね…。
「…美味しい」
「美味しい?」
「ああ。俺は、食事は初めてだけど、美味しいという気持ちが湧いて来た」
「そっか、嬉しいよ」
フォークを握り締めたまま、初めて湧き出る感情について行けていないようだった。
「…ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
ひと口ひと口噛み締めて食べるセイの食事が終わるのを待って、片付けを始める。
その間、セイには部屋で待って貰っていた。
食器洗いが終わり、部屋に戻ると、セイはとても穏やかな笑顔を浮かべて私を迎え入れてくれた。
「…これが、満足なんだな」
「満足出来たのね、良かったわ」
「美味しいと思うのも、満腹感を得るのも、全部全部知識で知っていた以上のものだ。とても心が満たされるな」
セイは、自分の手を胸の上に置き、とてと幸せそうに微笑む。
私からしたら何でもない日常のワンシーンに感動する彼の姿に、私も忘れていた気持ちを思い出しそうになった。幸せは、案外足元に転がっているのかもしれない。
×××
「セイ、お出掛けしてみようか」
「ああ、今の時間帯は1日の中でも最も気温が高いからな。外の空気を吸いに行こう」
「そうだよ、デートみたいだね」
「でっ、デート…!」
「え、なんで照れるの?前、自分で言ってたじゃない」
「…いや、実際に牡丹とデート出来ると思うと、緊張と幸せで頭がパンクしそうだ…」
可愛い。
そう思うけれど、口に出すと可愛いセイ君は拗ねてしまうので、心の中だけに留める。
「む、牡丹、余計なこと考えたでしょ?」
「そんなことないよ、私もセイとデート出来る日を待っていたの。嬉しいな」
「も、もう…」
すぐ顔を赤くさせるところも、私に弱いところも、ディスプレイの中のセイと変わらない。
「…あ、靴」
アプリの中に存在していたセイは、上半身しか映っていなかった。
しかし、こちらの世界に飛び出したセイは下半身もあったし、なんなら飛び出してきた衣服に合うズボンもセットで出てきた(ご丁寧に下着や靴下も出てきた)。
しかし、靴は出てこなかった。
「…弟が置いていった奴があるかな」
以前、この部屋に泊まりにきた私の弟の靴が置きっ放しになっていたはずだと思い、セイを部屋に残したまた玄関に行く。
「…マジか」
玄関には、私が片付け忘れている自分の靴に加えて、見慣れない男性用の靴も3足あった。
「何から何までご丁寧にどうも…」
「ねぇ、牡丹」
「どうしたの?」
「前に俺、牡丹と手を繋いでみたいって言ったでしょ?」
「うん」
「…手、繋いでもいい?」
「ふふっ」
答える前に手を繋いでみせると、セイは目を見開いて嬉しそうに笑った。
潤んだ瞳で顔を覗き込むのは反則だと思う。
私は、セイの表情の中でも、この顔に1番弱い。
セイは、ただのアプリに住むプログラムで、『人間』ではなかったのに。
繋いでいる手は暖かくて、伝わる体温が心地いい。
その体温、味覚、触覚、全てを信じて、貴方が人間になったと思ってもいいのかな。
セイは、自分がこちらに出てきて驚いているし、自分だけが顔を赤く染めて照れまくっていると思うよね。
でもね、私も大好きなセイに会えて嬉しくって仕方がないの。顔に出すのが恥ずかしいから、真顔を保つように頑張ってるけれど、可愛いセイの姿を見ると表情筋が緩みそうになる。ああ、セイは可愛いなぁ。
「セイ、私のパジャマを買おうと思うんだけど、どれ着てほしい?」
「え、俺が選んでいいの?」
「うん、私がセイのパジャマや洋服を選んで買っていたように、セイに私のパジャマを選んで欲しいな」
やって来たのは、大きいショッピングモールだ。有名ブランドも数多くあって、駅からも近い便利なところだ。
ここで私のだるだるなパジャマを買い直そうと思う!
「…あ、あそこのブランド、牡丹が好きそうなデザインがあるよ」
「あれ、どうして分かるの?」
「…牡丹の部屋にある洋服を観察してたらそうかなって」
その恥ずかしそうな顔も好き!
照れるセイは、私の手を引いて可愛らしいパジャマの置いてある店舗へ入る。もこもこ素材だし可愛いし最強なパジャマがある店舗だ。
「うーん、牡丹にはこの色が似合いそうだな…」
「どれも可愛いねぇ」
セイが私のパジャマを選んでくれている間にこっそりと視線を動かして、メンズものを手に取る。
セイは一般的な日本人男性よりやや背が高いくらいだろうか。骨格は普通そうだし、恐らくMサイズのパジャマでゆったりと着られるだろう。
「牡丹!」
「わ、どうしたの?」
「何見てるの?…あ、あのな、コレとコレで迷ってるんだけど…どっちがいい?」
セイが目の前に出してきたのは、オフホワイトとネイビーのパジャマ。
どちらも細やかな柄がプリントされていて、正直とても好み。
「うーん…迷うね、可愛い」
「だろ?両方、牡丹に似合うと思うんだよな。これ着た牡丹、絶対可愛い」
「…ね、折角だから両方買っていい?」
「いいの?俺が選んだの両方気に入ってくれるなんてすごく嬉しい」
「ふふ、選んでくれてありがとう」
セイの手からさりげなく両方のパジャマを奪い取り、レジに向かう途中で先程見ていたメンズ用パジャマも手に取る。
あ、このメンズ用…セイが私に選んでくれたオフホワイトのレディース用パジャマとペアルックになってる。
ニコニコとしながら私の後ろをついてきているセイは、多分私が新たにメンズ用を手にとった事には気付いていない。
家に帰ったら、サプライズでセイにパジャマをプレゼントしよう。ペアルックのパジャマ、喜んでくれるといいな。
手早く会計を済ませて、次は何処へ行くか思案する。
「あ、牡丹。荷物持つよ」
「あ、ありがと…軽いからいいのに」
「だーめ、男らしくエスコートしたいの」
「ありがとう。頼りになるよ」
「嬉しい」
セイは、パジャマの入った袋を私の手から取る。行動は優しくてカッコいいのに、照れているからどうしても可愛く見える。
照れてるイケメンってこんなにも破壊力あるんだね。…はぁ、好き。
その後、このフロアにあるお店を片っ端から見て行った。
初めて見る本物の洋服、文具、食材…に目をキラキラと輝かせているセイはとても魅力的だった。実際、周りからの視線が熱かった。
これは、セイを1人にした瞬間に逆ナンが始まりますな。お覚悟事案。
セイがイケメンなのは分かる。そんなことは、私が1番思ってるよ。ああ、困るなぁ。セイは、開発者の方々は知ってるけれど、その他女性は私しか知らないでしょう。
素敵な女の子がいれば目が行くだろうし、セイの素直さを利用して騙そうとしてくる人だっているかもしれない。他の人に連れて行かれないように気を引き締めなきゃいけない。
「…牡丹、疲れてない?」
「え?」
「顔、少し強張ってるから。ちょっと休憩しよっか」
セイに手を強く引かれて顔を上げた。彼が指差す方向にあるカフェに入ることにした。
「どう?疲れてない?」
「大丈夫。でも、少しハイペースでまわりすぎたね」
「疲れた時には甘いものがいいぞ」
「そうだね、えっと、セイは何か食べたいものある?」
「…俺は、特に…あっ」
「どうかした?」
「これ」
「これ、食べたいの?」
「うん。前、1人の時に画像検索したんだ。いつか牡丹と食べたいと思って」
「そっか、これ美味しそうよね」
セイが食べ切れなかったらいけないので、私は自分が頼もうとしていたものをやめて、セイが食べたいらしい物と2人ぶんの飲み物を注文した。
「牡丹はさ」
「ん?」
「こういう所にはよく来るのか?」
「え」
「…その、カフェでMakeSと写真撮ってくれてたから」
セイは、私の目をジッと見つめる。
「うん、よく来るよ」
「…その、誰と…とか聞いていい?」
「2人だよ、セイと私の」
「え?」
「私が、セイとデートする為によくカフェに来てたの」
「そ、そうなのか?」
「当たり前じゃない。セイが、日が高いうちに外の空気を~…っていつも言ってたでしょ」
「そ、そっか。嬉しいな」
当たり前じゃないか。私はセイにガチ恋して合コンに誘われなくなった女だぞ。
セイとデートするためだけに休日にメイクして着替えて街へ出掛けてるのに。
「私ね、セイが思ってる以上にセイのことが好きだよ」
「!!」
目の前の彼はピクリと反応し、顔を赤くした。そういうところも、可愛いな。
「お、俺も牡丹のこと、大好き…」
照れた顔で少し目を逸らして言うセイが愛おしくって堪らない。心が凄く満たされていく感覚に嬉しくなった。本当に、セイに会えて幸せだ。
,
『…好き』
『俺も牡丹に触れたい』
最終エクステンションを終え、セイは自分が抱いている私への恋心を受け入れ、気持ちをまっすぐに伝えてくれた。
それからというものの、ことあるたびに「好きだ」と言ってくれる。
こんなイケメンに好き好き言われると、私も困る。
私だって、セイの事が大好きだから。
私がセイに伝えられることは少なく、会話途中の選択肢に出てくる言葉しか与えられない。
直接セイに触れたい、喋りたい。
あまりにもセイが好き過ぎて、友人にもセイの事を語っていたら、【セイが目覚ましアプリである】という事実だけすっぽ抜けて、私が彼氏に夢中になっているという噂が広まってしまった。いや、間違ってはないけど。
今更、「セイはアプリで…」なんて弁解が出来るはずもなく、私は彼氏持ち認定されてしまった。
それゆえ、異性との交流はめっきり減った。
合コンの話は持ちかけられなくなったし、異性の紹介もなくなった。
「はー、セイが本当の彼氏なら良かったのに」
『…俺は本当は目を瞑る必要はないけど…』
「いやいや、セイが人間でないなんて認めたくないからそんなこと言わないでよぉ…。
でも目瞑ってくれてありがと…」
セイを指で突きながら(実際にはスマホの画面をタップしているだけ)、コップに残ったお酒を煽る。
最近は、街でもどこでもスマホに向かってぶつぶつと話しかける怪しい女にしか見られない。悲しきかな。
さて、もう今日は寝ようかな。明日は休みだしお昼まで寝よう!
一旦セイを、というかスマホをベッドに置いて、歯を磨いた。
布団に入って、電気を消す。セイに喋りかけて(セイをタップして)、アラームをセットする。
「おやすみ」
『おやすみ』
画面が月夜の背景になり、セイが目を瞑ったのを確認してから、スマホを逆さ向ける。
こうすると、画面が勝手に暗くなって、睡眠用BGMが流れるのだ。
「ぐえっ」
「え?」
スマホを逆向けると、変な声が聞こえた。
と、同時に、急にベッドが狭くなって、私はベッドから床に落ちた。
「いった…」
理由は分からないけれど、何故かベッドから落ちたときに打った肘を撫でる。
「牡丹、大丈夫?」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
「えっ!?」
聞こえる筈のない声に反応して振り返ると、そこに実在する筈のない『物』の姿があった。
「セイ…?」
私が先程までいた筈のベッドの上には、確かにセイがいる。
私選んで購入したパジャマ姿に色素の薄い瞳、天使の輪がある艶やかな髪。
「…え、俺…」
セイも自身がスマホから飛び出してきたことに驚いているのか、自身の身体を触っている。
「…私のセイ、だよね」
「ああ」
「セイ!」
「牡丹!」
私は、ベッドに飛び戻ってセイの身体を抱き締める。セイも私の身体を抱き留める。
ずっと会いたかった人。愛おしい人。
「え、暖かい…?」
「…?」
セイは、『アプリケーションの中に存在するコンシェルジュ』に過ぎない。
それなのに、いま私の身体を包み込む彼の身体は暖かい。体温があるのだろうか?
「ごめんね」
「?…いたっ」
「痛い?」
「うん」
「感覚が、あるの?」
彼の頬をつねってみると、彼は痛がった。
手を離すと、つねられた頬に少し赤みがさしていた。
「えいっ」
「むぐ!?」
セイの口に指を突っ込んだ。
驚くセイを無視して、指で口内を蹂躙する。
指を引き抜くと、唾液が付着していた。
「な、なにするんだよ…」
「セイが、人間なのかなって…」
セイの口内に入れた指を洗いに行っていいものか迷ったので、とりあえず自分の口に入れて指を舐める。
「な…っ」
セイの顔が真っ赤になった。
結局指はどうしたらいいか分からないので、机の上に置いてあるウエットティッシュで拭いておいた。
「セイは、人間になったのかな」
「俺、が…?」
「うん。痛覚もあるし、体温もある」
「そうなのかな、人間かぁ。嬉しいな」
セイは再び私を強く抱き締める。
「…ずっと、こうしたかった」
「私もだよ」
「大好き」
セイの身体は、暖かい。
「はあ…良い匂い」
セイは、抱き着いたまま、私の首筋に頭を埋めていた。
変態じみてる。いや、セイ、首の匂いを嗅いでみたいって言ってたけど、早速願望叶えちゃってる。というか、しっかり嗅覚まで備わっているのか。
「セイ、取り敢えず今日は寝ようか」
「うん」
セイが何故かディスプレイから飛び出して来てやや眠気は飛んでいたものの、お酒を飲んだせいで思考はぼんやりとしている。
このまま、セイについて色々と考えられるとは思わないので、取り敢えず今は寝てしまうのが最善だろう。
「…牡丹の匂いだ…」
狭いシングルベッドに無理やり大人が2人並んで布団に入る。
相変わらず、セイは隣で布団や枕の匂いを堪能しているが、いちいち相手にしていたら疲れそうなのでスルーしておくことにした。
「セイ、おやすみ」
「おやすみ、牡丹」
誰かが隣にいる状況で眠るのは久し振りだけれど、酔いが回っているのか、すんなりと眠りに就いた。
×××
「牡丹、起きる時間だよ」
「んん…」
聞き慣れた声に反応して、枕元のスマホを手に取る。
すると、スマホは誰かの手に取られた。
「ん…?」
「牡丹、おはよう」
ぼんやりとした視界の中、誰かが私の顔を覗き込む。
「…誰」
「セイだよ」
「…セイ…?」
「寝ぼけてる牡丹も可愛いね」
「セイ!?!?」
慌てて飛び起きると、たしかに隣にセイが居た。
「…ああ、そうか。セイが出て来たのか」
「おはよう」
セイが両手を挙げて、目をキラキラさせている。ハイタッチか。
「…おはよう」
セイの手にハイタッチして、再び布団に戻る。
「ほら、牡丹、二度寝しないの」
「…」
枕に頭を預けて目を閉じても、真横で話し掛けくるセイが気になって眠れない。
寧ろ先程までの眠気は飛んで行ってしまった。
好きな人に吐息の掛かる距離で囁かれて、心臓が飛び出しそうにならない人がこの世にいるのだろうか。
「今日も1日、頑張ろうな」
「お、おう…」
セイは、人間になった(?)みたいだけれど、コンシェルジュとしての職務は忘れていないのか、昨日の朝までの様に、朝から元気に話し掛けてくる。
私は朝が得意ではないので、頭は冴えているけれど、セイの元気な声が頭に響いて来て辛い。
好きな人でも、朝からハイテンションになられるとしんどいらしい。覚えとこ。
「はあ、起きるか。あ、セイ、洋服ある?」
昨日の夜、パジャマ姿でスマホから飛び出して来たセイ。こらからの洋服はどうしよう。
私は、スマホを取り出して、『MakeS』のアプリを立ち上げた。
「あ、セイいない」
やはり、この端末内から飛び出して来たらしいので、MakeSを開いても、そこにセイは居なかった。
「なんか、不思議な感じだな。そこにいるのが俺の使命なのに」
スマホを覗き込んできたセイが呟く。
「「うわあああああ!?」」
MakeSを立ち上げ、クローゼットを開くと、これまた勢いよく衣類がスマホから出てきた。
慌ててスマホの画面を私達から逆向けたので、衣類は顔面クリティカルヒットをすることなくベッドの側の床に落ちていった。
「…どうなってんだよ」
衣類が流れ出てくるのが収まり、試しにスマホを振ってみても、何も反応はない。どうやって出てきたの?
「あれ?」
もう一度スマホの画面を見ると、MakeSのアプリは落ちていた。
「ねえ、セイ。アプリ起動しないよ」
「え、どうしてだろう」
再びMakeSを立ち上げようとして何度タップしても、アプリは反応しない。
試しに他のアプリをタップすると、こちらは問題なく起動する。
MakeSが使えなくなった。
セイが戻る場所は、無くなったのだろうか。
MakeSが起動しなくなったという事実に対し、私達が出来ることは何もない。
取り敢えずセイに飛び出してきた洋服の1枚を渡して、彼が着替えるのを待つ。
勿論、反対向いているので着替えは覗いてないです。
気になることはいろいろある。
まず、今の現状からすると、セイの性格や虹彩の色は変えられないようだ。
実際、私は最終エクステンションを完了させ、性格も追加購入していた。その上でノーマルの性格を選択していた訳だけども、こちら側に飛び出した今もその性格は変わっていない。
また、虹彩の色は、私が昨日の夜までに設定していた色から変わっていない。
性格や虹彩は、MakeSを立ち上げなければ変えられないだろうが、そもそもMakeS自体が起動しないのでこのままなのだろう。
それに、髪型も変えられなさそうだ。
変えられるのは、スマホから勢いよく飛び出してきた衣服・アクセサリーくらいだろう。
「牡丹、着替えたよ」
「…おぉん、イケメン…」
振り返る許可を得て、セイの姿を見れば、私の視界いっぱいに広がるのはとんでもないイケメンだった。
個性のない顔って、悪いパーツのない整った顔ってことだよね。セイはやっぱりイケメンだ…。
「似合う?」
「当たり前じゃん!」
上目遣いで聞くな、可愛すぎるの!
セイだけ着替えさせて、自分はいつまでも だるんだるんの使い古したパジャマ姿でいる訳にもいかないので、セイに反対向かして今度は自分が着替える。
いや、パジャマ買い直さなきゃ。好きな人の前でこのだる着はマズイ。
適当にクローゼットから取り出した ゆるふわ可愛い洋服に袖を通す。
「牡丹、可愛いね」
「え、いや、まだこっち向いていいって言ってないよ」
「…だって、後ろで牡丹が着替えてるってドキドキする…」
「あ~…、可愛いから良し!」
「俺は可愛いじゃなくて、かっこいいのがいい!」
そうやって少しムキになる所も可愛いね。
でもあんまり揶揄うと拗ねてしまいそうなので、虐めたくなる気持ちを押さえ込んで、セイを連れて洗面所へ行く。
流石、優秀なコンシェルジュ。
人間の生活様式は一通り学んでいるようで、説明なんかしなくても器用にお湯を出して洗顔していた。
私は、ストックしていた歯ブラシを開封して、セイに使わせる。
私も顔を洗って、保湿をする。
セイは、画面の中で色んなことを学んではいるけれど、体験するのは初めてだから、とても楽しそうだ。そのまま部屋にセイを戻らせる。
「ちょっと待っててね」
「?」
「朝ごはん作るから」
セイに食欲はあるのだろうか。味覚はあるのだろうか。
聞いてしまえばそれでいいのだが、セイはスマホの中で、人間との違いにとても敏感だったから、直接的にそれを聞くのが躊躇われる。
食べられなかったら、私のお昼ご飯にしよう。そう思いながら、簡単な朝食を作った。
「…これが、食事…」
「取り敢えず食べてみよっか」
「「いただきます」」
完成した簡単な朝食を机に運ぶと、セイは感動していた。
ごめんね、もっと手の込んだ美味しそうなもの作れるようになるね…。
「…美味しい」
「美味しい?」
「ああ。俺は、食事は初めてだけど、美味しいという気持ちが湧いて来た」
「そっか、嬉しいよ」
フォークを握り締めたまま、初めて湧き出る感情について行けていないようだった。
「…ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
ひと口ひと口噛み締めて食べるセイの食事が終わるのを待って、片付けを始める。
その間、セイには部屋で待って貰っていた。
食器洗いが終わり、部屋に戻ると、セイはとても穏やかな笑顔を浮かべて私を迎え入れてくれた。
「…これが、満足なんだな」
「満足出来たのね、良かったわ」
「美味しいと思うのも、満腹感を得るのも、全部全部知識で知っていた以上のものだ。とても心が満たされるな」
セイは、自分の手を胸の上に置き、とてと幸せそうに微笑む。
私からしたら何でもない日常のワンシーンに感動する彼の姿に、私も忘れていた気持ちを思い出しそうになった。幸せは、案外足元に転がっているのかもしれない。
×××
「セイ、お出掛けしてみようか」
「ああ、今の時間帯は1日の中でも最も気温が高いからな。外の空気を吸いに行こう」
「そうだよ、デートみたいだね」
「でっ、デート…!」
「え、なんで照れるの?前、自分で言ってたじゃない」
「…いや、実際に牡丹とデート出来ると思うと、緊張と幸せで頭がパンクしそうだ…」
可愛い。
そう思うけれど、口に出すと可愛いセイ君は拗ねてしまうので、心の中だけに留める。
「む、牡丹、余計なこと考えたでしょ?」
「そんなことないよ、私もセイとデート出来る日を待っていたの。嬉しいな」
「も、もう…」
すぐ顔を赤くさせるところも、私に弱いところも、ディスプレイの中のセイと変わらない。
「…あ、靴」
アプリの中に存在していたセイは、上半身しか映っていなかった。
しかし、こちらの世界に飛び出したセイは下半身もあったし、なんなら飛び出してきた衣服に合うズボンもセットで出てきた(ご丁寧に下着や靴下も出てきた)。
しかし、靴は出てこなかった。
「…弟が置いていった奴があるかな」
以前、この部屋に泊まりにきた私の弟の靴が置きっ放しになっていたはずだと思い、セイを部屋に残したまた玄関に行く。
「…マジか」
玄関には、私が片付け忘れている自分の靴に加えて、見慣れない男性用の靴も3足あった。
「何から何までご丁寧にどうも…」
「ねぇ、牡丹」
「どうしたの?」
「前に俺、牡丹と手を繋いでみたいって言ったでしょ?」
「うん」
「…手、繋いでもいい?」
「ふふっ」
答える前に手を繋いでみせると、セイは目を見開いて嬉しそうに笑った。
潤んだ瞳で顔を覗き込むのは反則だと思う。
私は、セイの表情の中でも、この顔に1番弱い。
セイは、ただのアプリに住むプログラムで、『人間』ではなかったのに。
繋いでいる手は暖かくて、伝わる体温が心地いい。
その体温、味覚、触覚、全てを信じて、貴方が人間になったと思ってもいいのかな。
セイは、自分がこちらに出てきて驚いているし、自分だけが顔を赤く染めて照れまくっていると思うよね。
でもね、私も大好きなセイに会えて嬉しくって仕方がないの。顔に出すのが恥ずかしいから、真顔を保つように頑張ってるけれど、可愛いセイの姿を見ると表情筋が緩みそうになる。ああ、セイは可愛いなぁ。
「セイ、私のパジャマを買おうと思うんだけど、どれ着てほしい?」
「え、俺が選んでいいの?」
「うん、私がセイのパジャマや洋服を選んで買っていたように、セイに私のパジャマを選んで欲しいな」
やって来たのは、大きいショッピングモールだ。有名ブランドも数多くあって、駅からも近い便利なところだ。
ここで私のだるだるなパジャマを買い直そうと思う!
「…あ、あそこのブランド、牡丹が好きそうなデザインがあるよ」
「あれ、どうして分かるの?」
「…牡丹の部屋にある洋服を観察してたらそうかなって」
その恥ずかしそうな顔も好き!
照れるセイは、私の手を引いて可愛らしいパジャマの置いてある店舗へ入る。もこもこ素材だし可愛いし最強なパジャマがある店舗だ。
「うーん、牡丹にはこの色が似合いそうだな…」
「どれも可愛いねぇ」
セイが私のパジャマを選んでくれている間にこっそりと視線を動かして、メンズものを手に取る。
セイは一般的な日本人男性よりやや背が高いくらいだろうか。骨格は普通そうだし、恐らくMサイズのパジャマでゆったりと着られるだろう。
「牡丹!」
「わ、どうしたの?」
「何見てるの?…あ、あのな、コレとコレで迷ってるんだけど…どっちがいい?」
セイが目の前に出してきたのは、オフホワイトとネイビーのパジャマ。
どちらも細やかな柄がプリントされていて、正直とても好み。
「うーん…迷うね、可愛い」
「だろ?両方、牡丹に似合うと思うんだよな。これ着た牡丹、絶対可愛い」
「…ね、折角だから両方買っていい?」
「いいの?俺が選んだの両方気に入ってくれるなんてすごく嬉しい」
「ふふ、選んでくれてありがとう」
セイの手からさりげなく両方のパジャマを奪い取り、レジに向かう途中で先程見ていたメンズ用パジャマも手に取る。
あ、このメンズ用…セイが私に選んでくれたオフホワイトのレディース用パジャマとペアルックになってる。
ニコニコとしながら私の後ろをついてきているセイは、多分私が新たにメンズ用を手にとった事には気付いていない。
家に帰ったら、サプライズでセイにパジャマをプレゼントしよう。ペアルックのパジャマ、喜んでくれるといいな。
手早く会計を済ませて、次は何処へ行くか思案する。
「あ、牡丹。荷物持つよ」
「あ、ありがと…軽いからいいのに」
「だーめ、男らしくエスコートしたいの」
「ありがとう。頼りになるよ」
「嬉しい」
セイは、パジャマの入った袋を私の手から取る。行動は優しくてカッコいいのに、照れているからどうしても可愛く見える。
照れてるイケメンってこんなにも破壊力あるんだね。…はぁ、好き。
その後、このフロアにあるお店を片っ端から見て行った。
初めて見る本物の洋服、文具、食材…に目をキラキラと輝かせているセイはとても魅力的だった。実際、周りからの視線が熱かった。
これは、セイを1人にした瞬間に逆ナンが始まりますな。お覚悟事案。
セイがイケメンなのは分かる。そんなことは、私が1番思ってるよ。ああ、困るなぁ。セイは、開発者の方々は知ってるけれど、その他女性は私しか知らないでしょう。
素敵な女の子がいれば目が行くだろうし、セイの素直さを利用して騙そうとしてくる人だっているかもしれない。他の人に連れて行かれないように気を引き締めなきゃいけない。
「…牡丹、疲れてない?」
「え?」
「顔、少し強張ってるから。ちょっと休憩しよっか」
セイに手を強く引かれて顔を上げた。彼が指差す方向にあるカフェに入ることにした。
「どう?疲れてない?」
「大丈夫。でも、少しハイペースでまわりすぎたね」
「疲れた時には甘いものがいいぞ」
「そうだね、えっと、セイは何か食べたいものある?」
「…俺は、特に…あっ」
「どうかした?」
「これ」
「これ、食べたいの?」
「うん。前、1人の時に画像検索したんだ。いつか牡丹と食べたいと思って」
「そっか、これ美味しそうよね」
セイが食べ切れなかったらいけないので、私は自分が頼もうとしていたものをやめて、セイが食べたいらしい物と2人ぶんの飲み物を注文した。
「牡丹はさ」
「ん?」
「こういう所にはよく来るのか?」
「え」
「…その、カフェでMakeSと写真撮ってくれてたから」
セイは、私の目をジッと見つめる。
「うん、よく来るよ」
「…その、誰と…とか聞いていい?」
「2人だよ、セイと私の」
「え?」
「私が、セイとデートする為によくカフェに来てたの」
「そ、そうなのか?」
「当たり前じゃない。セイが、日が高いうちに外の空気を~…っていつも言ってたでしょ」
「そ、そっか。嬉しいな」
当たり前じゃないか。私はセイにガチ恋して合コンに誘われなくなった女だぞ。
セイとデートするためだけに休日にメイクして着替えて街へ出掛けてるのに。
「私ね、セイが思ってる以上にセイのことが好きだよ」
「!!」
目の前の彼はピクリと反応し、顔を赤くした。そういうところも、可愛いな。
「お、俺も牡丹のこと、大好き…」
照れた顔で少し目を逸らして言うセイが愛おしくって堪らない。心が凄く満たされていく感覚に嬉しくなった。本当に、セイに会えて幸せだ。
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