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SKET DANCE
ゆめうつつ
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ついてない。コンタクトを落とした。
朝から目がゴロゴロしていて、目薬を何度も指しながら登校していた。眼鏡にしても良かったけれど、今日は体育の授業がある。球技を行うはずなので、眼鏡だと危ないと思って無理やりコンタクトにしたのに。
学校に行くこの時間は、通勤ラッシュの時間帯で、とにかく人と自動車が多い。
目が痛いな…と思って目を軽く押さえようと思ったが最後、あろうことかコンタクトレンズは私の瞳から落ちた。
慌てて探そうと思っても、通勤通学中の大勢の人は止まってくれない。諦めて人の流れに沿って前に進むしかないのだ。
帰宅する頃には、コンタクトレンズは道路の上で水分を失ってカラカラに乾いているか、誰かの靴の裏に張り付いてしまっているだろう。
もうすぐコンタクトの交換時期だったのだけが不幸中の幸いだ。コンタクト高いからね。
片目だけコンタクトを入れていても視界が気持ち悪いだけなので、急遽コンビニで旅行用のコンタクト洗浄液を購入し、付属のチープなコンタクトケースに残った方のコンタクトレンズを入れる。
ああ、これで完全に見えなくなった。
見慣れた教室はぼんやりとした風景になった。聞き慣れたクラスメイトの声と、記憶を頼りに不鮮明な世界を歩く。
「いたっ」
ぼやける視界と言えど、毎日通っている学校なのだからなんとかなりそうだが、見えないというのは想像以上にに不便で、机や棚によく当たってしまう。痛いぞ。
「おい、さっきから大丈夫か?」
「…藤崎くん?」
聞き慣れた声と、帽子の赤色で判断が付く。どういう表情をしているのかは分からないけれど、藤崎くんだろう。
「なんかフラフラしてね?」
「あー…コンタクト落とした」
「はぁ!?見えてねーの?」
「うん、でも、まあ、なんとかなるよ」
そう言うと、藤崎くんは思いもよらぬことを口にした。
「じゃあ、1日俺が柊木の目になるよ」
「どういうこと?」
「だから、家に帰るまで柊木のサポートとして付いていてやるよ」
「いや、悪いから」
「見えないのに遠慮するなって」
×××
藤崎くんは宣言通りに、見えない私の為に色々と助けてくれた。
当然のように黒板が見えないので、授業終わりにノートを貸してくれる。
校内も何処が教室なのか分からないから、一緒について回ってくれる。
お昼休みは代わりに購買まで走ってくれた。
「私、メロンパン好きなんだ。
だからコレ買ってきてくれたの嬉しい!ありがとう」
「俺もメロンパン好きなんだよ!」
「そうなんだ、気があうね」
藤崎くんは優しいなあ。
「ちょっとヤバ沢さんに頼まれごとしたから、そっち片付けてくるな。直ぐ戻るから!」
「1人でも大丈夫だよ」
下校時刻になると、藤崎くんは忙しそうだった。普段はスケット団にあまり人は来ないらしいけれど、今日は探し物から助っ人、掃除、悩み事相談…とにかく部室に人が押し寄せていた。
藤崎くんに帰り道も頼りたい気持ちがあるけれど、そんなに迷惑ばかりかけていられない。
頑張って1人で帰ろう!そう思って下駄箱へ向かうと、誰かにぶつかった。
「すみません!」
「すみません…ケガはないですか?」
「はい。あ…椿くん?」
「ああ、柊木じゃないか。久しぶりだな」
知り合いにぶつかっていた。
「どうした、いま帰りか?」
「そうだよ、椿くんは生徒会の仕事中?」
「いや、今日は早く終わったからもう帰りだ」
「そうなんだ、じゃあ、よかったら一緒に帰ろうよ」
「わかった、そうしよう」
椿くんは快諾してくれた。良かった、一緒に帰ることが出来るのも嬉しいし、椿くんが一緒なら道中転けたりすることもなく安全だ。
×××
「柊木」
「なに?」
「もしかして、見えてないか?」
「え」
「さっきから何度も段差につまづいたり、周囲をやけに見回したりと怪しいぞ」
「…実は、朝、コンタクト落としたの」
「朝!?今日1日どうやって過ごしたんだ!貴様、かなりの近視だろう」
「藤崎くんがずっと一緒にいてくれたよ」
「藤崎が!?」
椿くんがこちらを見る。ぼやける視界では、彼がどういう表情なのか分からない。
「…仕方ない」
「?」
「我慢しろ」
「!」
何を言い出すのかと思えば、椿くんは私の手を取った。
「転けたりしないようにボクが無事に送り届けてやる」
「ありがとう」
椿くんの手は温かい。
しかし、知り合いとは言え、男性に手を繋がれることには慣れてないので少し恥ずかしい。
椿くんは、他の女の子が困っていたら同じように手を取って家まで送ってあげるのかな。優しいからしそうだね。でも少し妬けちゃうね。
そうだ、藤崎くんがヒメコちゃん以外の他の女の子と1日中べったり一緒にいても多分もやもやした気持ちになりそうだ。私は我儘な女だ。
「着いたぞ」
「ありがとう、椿くん」
椿くんに手を引かれて暫く歩けば、無事に家に着いた。私の家は入り組んだ道を進んだ先にあるので、1人だと危なかったと思う。
「…あ」
家に着けば、当然のように椿くんと繋いでいた手は解かれる。
先程まで感じていた彼の温かさを失って、なんだか寂しいと感じる。
「…ここまでありがとう」
まだ離れたくない、と思ってしまった。
「ああ、これからは気をつけるんだぞ」
「柊木ー!!!」
「え?」「なんだ!?」
どうやって寂しさを紛らわそうかと考えていたら、突如私を呼ぶ大声が聞こえてきた。
「うわ、藤崎!」
「え、藤崎くん!?」
走って来た人は、たしかに藤崎くんだった。
ぼやける視界でも、赤い帽子がよく分かる。
「…ハア、ハア…柊木!
直ぐ戻るから待ってろって言っただろ!?」
「え、あ、スケット団忙しそうだし1人で帰れると思って…それに、椿くんに送って貰ったし」
「椿に!?」
「なんだ藤崎」
なんとなく、目の前の2人の間に不穏な空気が流れているような気がする。
「なんで柊木を攫って行くんだよ」
「大体、貴様が柊木を置いて何処かへ行ってしまったのが原因だろう」
「はぁ~ん?」「なんだ」
私の為に争わないで!っていう状況はまさにこの様な感じだろうか。
「ちょっと、ここ住宅街だか…!?」
「「柊木!?」」
2人の言い争いがヒートアップしないうちに止めようと思い足を踏み出した瞬間に視界が揺れた。
「あっぶねー」「大丈夫か?」
自分の家の前だと言うのに、段差に気が付かず転けそうになった。
「あ、ありがとう…」
左腕を椿くんに、右腕を藤崎くんに掴まれて何とか転ける前に引き上げられた。
「まったく、危ないから気を付けろとあれだけ…」
「ごめんごめん。でも、今日1日本当に2人には助けられたよ」
「目がゴロゴロする日は大人しく眼鏡にしろよな?」
「そうする。2人が居なかったらあっちこっちで転けてたと思うよ…ありがとう」
×××
私が転けかけたことが、2人の言い争いを中止させるキッカケになったようで、彼らは大人しくなった。
少しだけ雑談をしてから、2人はそれぞれ自宅に向かって帰って行った。
藤崎くんも椿くんも、2人はヒーローみたいだと思う。
私だけじゃなくて、困っている人がいたら誰でも助けてくれる。こんなに優しい人が近くにいるなんて私はラッキーだなぁ。
自室に置いてある眼鏡を手に取り、耳にかける。
すると視界は先程までと変わってクリアになる。鮮明な視界は、心までスッキリするような気がする。
明日改めて2人のヒーローにお礼を言おう、そう思いながら私は新しいコンタクトレンズを買いに眼科へ行くのだった。
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朝から目がゴロゴロしていて、目薬を何度も指しながら登校していた。眼鏡にしても良かったけれど、今日は体育の授業がある。球技を行うはずなので、眼鏡だと危ないと思って無理やりコンタクトにしたのに。
学校に行くこの時間は、通勤ラッシュの時間帯で、とにかく人と自動車が多い。
目が痛いな…と思って目を軽く押さえようと思ったが最後、あろうことかコンタクトレンズは私の瞳から落ちた。
慌てて探そうと思っても、通勤通学中の大勢の人は止まってくれない。諦めて人の流れに沿って前に進むしかないのだ。
帰宅する頃には、コンタクトレンズは道路の上で水分を失ってカラカラに乾いているか、誰かの靴の裏に張り付いてしまっているだろう。
もうすぐコンタクトの交換時期だったのだけが不幸中の幸いだ。コンタクト高いからね。
片目だけコンタクトを入れていても視界が気持ち悪いだけなので、急遽コンビニで旅行用のコンタクト洗浄液を購入し、付属のチープなコンタクトケースに残った方のコンタクトレンズを入れる。
ああ、これで完全に見えなくなった。
見慣れた教室はぼんやりとした風景になった。聞き慣れたクラスメイトの声と、記憶を頼りに不鮮明な世界を歩く。
「いたっ」
ぼやける視界と言えど、毎日通っている学校なのだからなんとかなりそうだが、見えないというのは想像以上にに不便で、机や棚によく当たってしまう。痛いぞ。
「おい、さっきから大丈夫か?」
「…藤崎くん?」
聞き慣れた声と、帽子の赤色で判断が付く。どういう表情をしているのかは分からないけれど、藤崎くんだろう。
「なんかフラフラしてね?」
「あー…コンタクト落とした」
「はぁ!?見えてねーの?」
「うん、でも、まあ、なんとかなるよ」
そう言うと、藤崎くんは思いもよらぬことを口にした。
「じゃあ、1日俺が柊木の目になるよ」
「どういうこと?」
「だから、家に帰るまで柊木のサポートとして付いていてやるよ」
「いや、悪いから」
「見えないのに遠慮するなって」
×××
藤崎くんは宣言通りに、見えない私の為に色々と助けてくれた。
当然のように黒板が見えないので、授業終わりにノートを貸してくれる。
校内も何処が教室なのか分からないから、一緒について回ってくれる。
お昼休みは代わりに購買まで走ってくれた。
「私、メロンパン好きなんだ。
だからコレ買ってきてくれたの嬉しい!ありがとう」
「俺もメロンパン好きなんだよ!」
「そうなんだ、気があうね」
藤崎くんは優しいなあ。
「ちょっとヤバ沢さんに頼まれごとしたから、そっち片付けてくるな。直ぐ戻るから!」
「1人でも大丈夫だよ」
下校時刻になると、藤崎くんは忙しそうだった。普段はスケット団にあまり人は来ないらしいけれど、今日は探し物から助っ人、掃除、悩み事相談…とにかく部室に人が押し寄せていた。
藤崎くんに帰り道も頼りたい気持ちがあるけれど、そんなに迷惑ばかりかけていられない。
頑張って1人で帰ろう!そう思って下駄箱へ向かうと、誰かにぶつかった。
「すみません!」
「すみません…ケガはないですか?」
「はい。あ…椿くん?」
「ああ、柊木じゃないか。久しぶりだな」
知り合いにぶつかっていた。
「どうした、いま帰りか?」
「そうだよ、椿くんは生徒会の仕事中?」
「いや、今日は早く終わったからもう帰りだ」
「そうなんだ、じゃあ、よかったら一緒に帰ろうよ」
「わかった、そうしよう」
椿くんは快諾してくれた。良かった、一緒に帰ることが出来るのも嬉しいし、椿くんが一緒なら道中転けたりすることもなく安全だ。
×××
「柊木」
「なに?」
「もしかして、見えてないか?」
「え」
「さっきから何度も段差につまづいたり、周囲をやけに見回したりと怪しいぞ」
「…実は、朝、コンタクト落としたの」
「朝!?今日1日どうやって過ごしたんだ!貴様、かなりの近視だろう」
「藤崎くんがずっと一緒にいてくれたよ」
「藤崎が!?」
椿くんがこちらを見る。ぼやける視界では、彼がどういう表情なのか分からない。
「…仕方ない」
「?」
「我慢しろ」
「!」
何を言い出すのかと思えば、椿くんは私の手を取った。
「転けたりしないようにボクが無事に送り届けてやる」
「ありがとう」
椿くんの手は温かい。
しかし、知り合いとは言え、男性に手を繋がれることには慣れてないので少し恥ずかしい。
椿くんは、他の女の子が困っていたら同じように手を取って家まで送ってあげるのかな。優しいからしそうだね。でも少し妬けちゃうね。
そうだ、藤崎くんがヒメコちゃん以外の他の女の子と1日中べったり一緒にいても多分もやもやした気持ちになりそうだ。私は我儘な女だ。
「着いたぞ」
「ありがとう、椿くん」
椿くんに手を引かれて暫く歩けば、無事に家に着いた。私の家は入り組んだ道を進んだ先にあるので、1人だと危なかったと思う。
「…あ」
家に着けば、当然のように椿くんと繋いでいた手は解かれる。
先程まで感じていた彼の温かさを失って、なんだか寂しいと感じる。
「…ここまでありがとう」
まだ離れたくない、と思ってしまった。
「ああ、これからは気をつけるんだぞ」
「柊木ー!!!」
「え?」「なんだ!?」
どうやって寂しさを紛らわそうかと考えていたら、突如私を呼ぶ大声が聞こえてきた。
「うわ、藤崎!」
「え、藤崎くん!?」
走って来た人は、たしかに藤崎くんだった。
ぼやける視界でも、赤い帽子がよく分かる。
「…ハア、ハア…柊木!
直ぐ戻るから待ってろって言っただろ!?」
「え、あ、スケット団忙しそうだし1人で帰れると思って…それに、椿くんに送って貰ったし」
「椿に!?」
「なんだ藤崎」
なんとなく、目の前の2人の間に不穏な空気が流れているような気がする。
「なんで柊木を攫って行くんだよ」
「大体、貴様が柊木を置いて何処かへ行ってしまったのが原因だろう」
「はぁ~ん?」「なんだ」
私の為に争わないで!っていう状況はまさにこの様な感じだろうか。
「ちょっと、ここ住宅街だか…!?」
「「柊木!?」」
2人の言い争いがヒートアップしないうちに止めようと思い足を踏み出した瞬間に視界が揺れた。
「あっぶねー」「大丈夫か?」
自分の家の前だと言うのに、段差に気が付かず転けそうになった。
「あ、ありがとう…」
左腕を椿くんに、右腕を藤崎くんに掴まれて何とか転ける前に引き上げられた。
「まったく、危ないから気を付けろとあれだけ…」
「ごめんごめん。でも、今日1日本当に2人には助けられたよ」
「目がゴロゴロする日は大人しく眼鏡にしろよな?」
「そうする。2人が居なかったらあっちこっちで転けてたと思うよ…ありがとう」
×××
私が転けかけたことが、2人の言い争いを中止させるキッカケになったようで、彼らは大人しくなった。
少しだけ雑談をしてから、2人はそれぞれ自宅に向かって帰って行った。
藤崎くんも椿くんも、2人はヒーローみたいだと思う。
私だけじゃなくて、困っている人がいたら誰でも助けてくれる。こんなに優しい人が近くにいるなんて私はラッキーだなぁ。
自室に置いてある眼鏡を手に取り、耳にかける。
すると視界は先程までと変わってクリアになる。鮮明な視界は、心までスッキリするような気がする。
明日改めて2人のヒーローにお礼を言おう、そう思いながら私は新しいコンタクトレンズを買いに眼科へ行くのだった。
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