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SKET DANCE
ゆめうつつ
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私の周りには、頭のいい人が多い。
安形会長は勿論、榛葉さんだって、デージーちゃんだって、ミモリンだって。
ボッスンも、スイッチも、ヒメコちゃんも。
みんな頭の回転が頗る早い。
私はものを覚えるのが苦手だし、その場の雰囲気を瞬時に理解し判断するのも苦手だ。相手が何を考え、どう動くか予測するなんてもう無理。私は自分本位な考えしか出来ない。
そんな私が人を好きになったら、とっても迷惑を掛けてしまう。
だから、意図的に恋愛から遠ざかってきた。
それなのに、私は所詮女子高生とでも言おうか。あっさり恋に落ちた。
恋を認識してしまえば、辛いのに、目の前の世界は鮮やかになってしまった。
しかも、好きになった相手はなんと、私の好意を受け入れてしまった。
とても頭のいい人だから、私のことをよく理解してくれる。
理解してくれるから、それに甘えて爆発させてしまった。
毎日一緒に登下校してくれていた椿くんは、
私の前に現れなくなった。
生徒会室に行っても、目も合わせてくれない。彼の仕事が終わるまで側で待っていても、彼は私を置いて1人でスタスタと帰ってしまう。
やってしまった。後悔しかない。直接謝りたくてもチャンスがない。
呆れられた?嫌われた?
今だって、生徒会室に来たのに、椿くんとは話していない。榛葉さんが私を慰めてくれるけど、椿くんと話せないなら意味がない。
「牡丹ちゃん今度デートしよ」
「…遠慮します」
「あらそう?」
「やっぱ帰りますね、お邪魔してしまいすみません」
「送ろうか?」
「いえ、結構です。ありがとうございます」
「そっか、じゃあ気を付けてね」
「はい、失礼します」
帰ろうとすると、安形会長やデージーちゃん、ミモリンが其々反応してくれる。
椿くんは、私に視線を向けることはなかった。
「椿もなに意地はってんだよ」
「DOS」
「…いえ、もう怒ってはいませんし、そもそもボクが元凶です」
「そうなの?」
「…ボクが彼女に八つ当たりをしてしまったんです。それ以降、声を掛けにくくて。
しかも、こんな状況になってもボクを求める彼女が可愛くてつい冷めた態度を…」
「早く仲直りしてあげないと、牡丹ちゃん取られちゃうよ」
「いえ、彼女はボクに惚れているので大丈夫でしょう」
「何だよその自信。椿がそれで良いなら構わねぇけど、藤崎が柊木のこと狙ってたぜ」
「は?」
「流石双子ですわね、好きな女性のタイプも似るのでしょうか」
「二卵性双生児ったって、お前ら顔同じなんだし、椿に愛想尽かした柊木が椿に似てる藤崎ンとこ行く可能性も大いにあるだろ」
「な、なんと…」
「あの虫に柊木が汚されるなら私が柊木を引き取ろう。椿くんなら許したが、アイツは許さん」
「あらあら、デージーちゃんそんなに牡丹ちゃんのこと気に入ってたっけ?」
「私達はおそろいのモイモイのグッズを持っているぞ」
人の話は真剣に聞く椿にしては珍しく、生徒会メンバーの話に驚きながらも手は高速で書類にサインをしている。
安形が再び口を開こうとしたとき、椿が立ち上がった。
「おわっ」
「本日の仕事は終えました。ボクは彼女を追い掛けるのでお先に失礼します」
「いってらっしゃい、椿くん」
椿は脱いでいた上着に素早く腕を通し、鞄を掴んで早歩きで生徒会室を出た。
「廊下、走っちまえばいいのに」
「本当、椿ちゃんは真面目だよねぇ。もう殆ど走ってるような速さだけど」
「HTM 本当椿ちゃんは真面目」
「あーあ、つまんないな~」
私が悪いとはいえ、数日目が合わないだけでこんなに毎日がつまらなくなるとは思わなかった。
あの日、椿くんのお仕事の邪魔せずに大人しておけばよかったのに。甘え過ぎは嫌われるよね。
「あ、柊木」
「あ、ボッスン」
「何か思い詰めてる顔してんな」
「いや別に」
「ま、部室寄ってけよ。ヒメコがクッキー焼いて来たぜ」
「行く」
部室に入れば、ヒメコちゃんとスイッチが歓迎してくれる。
座れば温かいお茶を置いてくれるし、ヒメコちゃんのクッキーは美味しい。
「で、どうしたんだよ」
ボッスンのその一言で、ヒメコちゃんもスイッチも私を見詰める。
なんでこの人達は本当に他人の為に真っ直ぐな心を向けてくれるんだろう。
「実は…」
×××
「そんなん椿が悪いやん!」
「いやいや、私が怒らせたんだよ…」
事情を話すと、案の定 スケット団の3人は私に同情してくれる。いや、私が甘え過ぎたんだけどね。
「でも、椿も柊木のそういう素直な所が好きなんじゃねーの?」
「どうだろう?…呆れられちゃったからもう嫌われてるかも」
『自分で言いながら泣かないの!もうっ!』
「スイッチがハンカチまで差し出すなんて珍しく優しいやんけ」
『俺はいつも優しいぞ』
スイッチに借りたハンカチで涙を抑える。
嫌われるのはイヤだけど、謝らないまま離れて行くのもイヤだなぁ。
「柊木、家まで送ってやるよ」
「え、いいの?」
「あったり前よー、友達が泣いてたら家まで送るのは当然だろ」
「ありがとう」
『すまない、俺は小田倉くんに用があるのでここで失礼する』
「あたしもキャプテンに助っ人頼まれてるからゴメンな、牡丹、ボッスンに送って貰ってや」
「そっか、ヒメコちゃんスイッチまた明日ね」
申し訳なさそうに2人が部室を出て行った。
「じゃあ、俺らも帰りますか」
いつも椿くんと歩いていた通学路をボッスンと歩く。
特に喋ることもないのに、ボッスンが気を使って色んな話をしてくれる。
有り難いのに、頭の中から椿くんが離れなくて、少しぼんやりとした反応をしてしまう。
「…牡丹」
「え?」
急に隣から椿くんの声が聞こえて顔を上げる。
「どうしたの?」
隣にいるのは、ボッスンだ。
目が合う。真っ直ぐに私を見詰める瞳は、やはりどこか椿くんと似ている。
「ボクは牡丹を泣かせない」
「…!」
いつだろう、付き合った頃に彼に言われた言葉だ。大好きな声、目の前にいるのは椿くんじゃないのに、椿くんとボッスンの姿が重なって見える。
「だから牡丹、どうかボクに…ぐえっ」
「え?」
「藤崎、牡丹に手を出すな」
「あ…」
私の手を取り、続きの言葉を紡ごうとしたボッスンが急に膝から崩れ落ちて行った。
「椿くん…」
そして、崩れ落ちたボッスンの背後から、会いたくて仕方がなかった椿くんが現れた。
「いってーな!」
「牡丹」
「…はい」
少し怒っているような顔。どうしよう、もう嫌いになった って言われたら私は2度と立ち直れそうにない。
「悪かった」
「え」
椿くんは、深々と頭を下げる。多分90度。
「どうして、私が我儘だから椿くんは私を嫌いになったんでしょ?」
「なっ、き、嫌いになんてなるわけないだろう!
ま、まあ、あの日は少しイライラしていたんだ。それを牡丹に八つ当たりしてしまった」
「え、そうなの?」
驚いていると、椿くんはボッスンの方を向く。
「牡丹に手を出すなよ」
「…わーったよ」
「え、あ、ボッスン、ありがとう、また明日ね」
そのまま椿くんは私の手を引いて歩き始める。
ボッスンは、私に向かって軽く手を振った後、私達が進む方角と正反対の道を行った。
「椿くん、ごめんね。私、我儘言い過ぎないように気をつけるね」
「ああ」
「でも、私、自己中だから椿くんのこと不快にさせちゃうくらい甘えちゃうけど、嫌いにならないで」
「ボクは、牡丹の我儘で気を悪くしたことはないぞ」
「え、本当に?」
「ああ」
椿くんは、くるりと私の方を振り向いて言う。
「可愛い牡丹のすることでボクが気を悪くするわけがないだろう」
「か、かわ…」
椿くんに初めて言われた【可愛い】を、私は一生忘れないと思う。
「…もう一回言って?」
「…断る」
椿くんの耳が少し赤くって、私は嬉しくて笑ってしまった。
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