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白樺派
ゆめうつつ
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「おーい、司書~」
「どうしました、志賀先生?」
お昼過ぎの少し眠たい時間帯。
急ぎの仕事もなく、廊下を伸びをしながら歩いていると後ろから声を掛けられた。
「なあ、もう仕事終わったんだろ?」
「はい、いまは急ぎの有碍書もないですから」
「お疲れさん。そしたら、出掛けようぜ」
「え、今からですか?」
「おう。有島がお薦めの喫茶店を教えてくれたから、行ってみようぜ」
「!!いいですね!私、準備してきます」
「ああ、30分後にエントランスで待ってるぜ」
志賀先生に頭をポンッとされる。
わくわくして、廊下を小走りで自室に向かう。
久しぶりのデートだ。なに着ようか。
早速部屋に戻り、制服を脱ぎ捨てる。
時間もないのでお気に入りのワンピースに袖を通し、そのままヘアアイロンの電源を付ける。
温まるのを待つ間に、化粧を直してしまおう。
ミストをぶっかけてファンデーションのヨレを直し、ハイライトでくすみを飛ばして下がった睫毛をホットビューラーで再び上げた。
仕上げにお気に入りのリップを塗って完成だ。
温まったヘアアイロンを使って、簡単に髪を巻く。お気に入りのヘアミストをほんのり掛けて、オイルで束感を出させて終了。
「…よし、かわいい!」
気合を入れる為にも、鏡に写る自分の顔を見てにっこり笑う。
鞄にスマホやら財布やらを詰め込み、志賀先生が好きそうな揺れるピアスをつけ、靴も少しだけヒールのあるものに変える。
「よし、約束の時間まであと5分」
少々急いでエントランスに行けば、遅刻癖のある志賀先生にしては珍しく、もう彼は私を待っていた。
「来たか、早かったな」
「志賀先生こそ。いつも遅刻ばかりなのに」
「はは、アンタとのデートには遅れられねぇからな」
じゃあ行くか、との声でエントランスを出る。
強過ぎない日差しが、秋の訪れを感じさせた。
×××
「近所にこんな素敵な所があったんですね」
「有島に感謝だな」
志賀先生に連れられて、有島先生オススメの喫茶店に入った。
まるで御伽噺に出てきそうなメルヘンな外観の喫茶店は内装も凝っていて、ここが帝都なことを忘れてしまう。
「注文、どうする?」
「いろいろあって迷いますね…」
メニュー表を開けば、色とりどりの写真が載っていて迷う。なるほど、チーズケーキがオススメらしい。
「…コーヒーと、このケーキにします」
「牡丹、珈琲飲めたか?」
「……………大人なので」
思わず目を逸らしながら答える。
志賀先生が聞くのも当然で、私はコーヒーが得意ではない。苦いの苦手。
でも、大人で格好良い志賀先生に少しでも追い付きたくて。
それに、喫茶店のコーヒーは自分で淹れるものよりずっと美味しいと聞くので大丈夫なはず!
「それじゃあ、俺はキャラメルミルクティーにしようかな」
「?志賀先生こそ珍しいですね、いつもコーヒーなのに」
「俺だって偶には違うものにしたいときだってあるさ」
「キャラメルミルクティー、名前からして絶対美味しいですよね!」
普段、志賀先生と喫茶店に行くときは、私が甘いもので志賀先生がブラックコーヒーを注文するで今日のオーダーは珍しい。
×××
「お待たせいたしました~」
暫くして、注文の品が届く。
志賀先生がキャラメルミルクティーで、私がブレンドコーヒーとチーズケーキ。
「いただきます」
直ぐにでもチーズケーキにフォークをさしたいが、私的優雅な女性は、まずホットのコーヒーをブラックで飲むイメージがあるので、とりあえずカップを持つ。
何事も挑戦!もしかしたら飲めるかもだし!
思い切って、良い香りのするコーヒーを飲む。
「…み"ゅ"っ"」
「ははは、すげぇ顔してるぞ」
「…いや、美味しいですっ」
「珈琲好きのする顔じゃねぇよ」
対面で優雅にキャラメルミルクティーを飲む志賀先生が笑う。
久しぶりに飲んだコーヒーは、やっぱり苦くて思わず目を瞑ってしまった。
コーヒーの香りは好きなのにな…。
「ほら、貸してみ」
「あっ」
しょんぼりしてると、志賀先生が私が持っていたカップを奪う。
「あ、飲みやすいな。酸味も強過ぎないしバランスがいい」
「………?」
コーヒーに酸味とかあるのか…。苦いだけじゃないんだなぁ、奥深い。
「ほら」
「えっ」
「飲めねぇんだろ?」
「いやっ、そんなことは…」
「嘘付くな、こっちやるから」
志賀先生がキャラメルミルクティーを私の前に置き、コーヒーをソーサーごと自身の前に持っていく。
「…うぅっ、ありがとうございます…」
悔しいけど、確かに私にはまだそのコーヒーは早い。苦しみながら飲むより、美味しく志賀先生が飲んだ方がお店の人だって嬉しい、よね?
善意で飲み物を交換して貰い、キャラメルミルクティーに口をつける。
「…!美味しいっ。甘ったる過ぎず、紅茶の香りもしっかりして…」
「ほら、やっぱりそっちのが美味しそうに飲むじゃねぇか」
「…はい、やっぱり甘いものの方が好きでした」
「俺にはキャラメルは甘過ぎたから交換できてよかったよ」
「……っ、」
気づいてしまった。そうか、志賀先生は私がコーヒーを飲めないことを想定して、敢えて甘いキャラメルミルクティーを注文したんだ。
…敵わないなぁ。
志賀先生の愛を感じて、私の心は暖かくなる。
「志賀先生、はい」
「ん」
私は、大きめに切ったチーズケーキを志賀先生の口元に持っていく。
そのままあーんして食べてくれた。
「ん、美味いな」
「ですよね、濃厚で美味しいです」
改めて、先生のことが好きだなって思った。
×××
喫茶店でゆっくりしたあと、少し街をお散歩してから図書館へと帰る。
繋がれた右手は、じんわり伝わる体温が心地いい。
「志賀先生、今日はありがとうございました」
「何かしたか?」
「久しぶりに息抜きができましたし、志賀先生とデートができて嬉しかったです」
「そうか、それは良かった。最近ずっと頑張ってたもんな」
夕陽に照らされる志賀先生の横顔はとっても格好良くて、イケメン度500%増しだ。
「また、いきましょうね」
「勿論。牡丹が珈琲を飲めるようにいろんな喫茶店に行かねぇとな」
「もう、意地悪!」
「悪りぃ悪りぃ」
ケラケラ笑う所もやっぱり格好良いし、意地悪な所も優しい所も全部好きだから困っちゃう。
「そうだ」
「?」
急に立ち止まった志賀先生が私を見つめる。
「んっ」
突然、唇を奪われる。
ほのかにコーヒーの香りがする優しいキス。
「なっ」
「図書館に帰れば、いろんな奴がいてまともにキスもできねぇからな」
急なキスに驚いてると、意地悪な顔をして笑う彼と目が合う。
「むむっ」
反撃しようとしても、私の身長じゃ背伸びをしても志賀先生の口元には届かなくて。
「ほら」
見かねた志賀先生が、私からでも届く位置まで膝を曲げて視線を同じ高さに合わせてくれる。
「………大好きです、直哉さん」
「っ」
ただキスをするだけじゃ物足りなくて、目を見てそう伝えた。
「あ、志賀先生照れてる?」
「うっせ」
バッと顔を背けた先生の、耳が少し赤くなっていた。
「ほら、帰んぞ」
「はーい」
再び歩き出した志賀先生に置いていかれないように、繋いだ手を再びしっかりと握って歩く。
また先生とお出かけできるように、明日からも頑張ろうっと。
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