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ゆめうつつ
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いつからだったかは、はっきりと覚えていない。
けど、ひたむきに頑張る彼女のことをとても愛おしいと思うようになった。
「虎松くん」
「なに?」
「忠勝様にお使いを頼まれて。荷物が多くなりそうだから、もし良かったら一緒にお願いできないかな?」
「大丈夫」
「本当?ありがとう、虎松くん頼りになるから嬉しい」
まるで星がきらめくように、ぱっと笑う彼女が可愛くて、鼓動が少し早くなる。
それを悟られないようにぐっと耐えて、普段通りに接するよう努める。彼女にこの想いがバレてしまったって、いいことなんてないから。
俺の想いを察して、からかってくる忠勝様に少しだけ感謝する。
家康様も牡丹のことを気に入ってるから、家康様と牡丹が恋仲になる前に捕まえないと。
「虎松くん?」
「…あ、ごめん。行こっか」
俺を見上げる牡丹が、やっぱり可愛かった。
×××
「ふぅ、たくさん買っちゃった。重くない?」
「大丈夫。アンタこそ大丈夫?もう少し持つよ」
「え、虎松くんにたくさん持って貰ってるから大丈…あ、ありがとう」
有無を言わさず荷物をさらに奪い取る。
全然重くないし、なんなら牡丹と一緒だから軽く感じる。
「虎松くん、明日は時間ある?」
「どうかした?」
「今日のお礼に、甘味をご馳走したいなって。
この前、酒井様におすすめの茶屋を教えていただいたから、虎松くんと行きたいなって」
「お礼なんていいのに。でも、甘味は行きたいかも」
「じゃあ決まりだね!」
思い掛けないお誘いに驚いてしまう。
けれど、とっても嬉しい。思わず顔がにやけそうになるのを必死で抑え込んで、城までの道を歩く。
嗚呼、城までの道のりがもっと長ければいいのに。
×××
-翌日-
「虎松くん!」
「牡丹」
約束していた刻に牡丹の部屋の前に行けば丁度支度を終えた牡丹が出てきた。
「…化粧、したんだ」
「うん。折角の虎松くんとお出かけだから張り切っちゃった」
両手を頬に当てて照れる姿は、普段の素顔の牡丹よりもぐっと女らしくて綺麗だ。
「似合ってる。その紅も綺麗だ」
「…!ありがとう」
白粉の上からでもわかる、仄かに頬を赤くさせる牡丹。
…城下になんか行きたくない、って言えば困るんだろうな。そんな素敵な姿を他の男に見せたくなんかないのに。
「よし、行こっか!」
「うん」
×××
「美味しかったね」
「うん、さすが酒井様!帰ったらお礼を伝えなきゃ」
牡丹が連れて行ってくれた茶屋の甘味は凄く美味しかった。家康様が好きな苺大福を頼んでみたけれど、新鮮な苺がとても大きくて食べ応えもあった。
「…凄く美味しかったけど、牡丹の作る苺大福の方が好きだな」
「え?」
「あっ、ごめん。声に出てた」
俺を振り返る牡丹にハッとするも、時すでに遅し。つい本音が漏れていた。
折角連れてきてくれたのに失礼だ…。
「…ありがとう」
「え」
「あのお店の甘味もすっごく美味しかったけど、虎松くんにそう言ってもらえるの、嬉しい」
「…牡丹の作る料理は特別だから」
顔を綻ばせる牡丹。
失言だったけど、少しでも喜んで貰えるなら良かった。
「あ、あのお店見てもいい?」
「うん」
牡丹は、近くの店に入っていった。
続けて後を追う。
「いらっしゃい!」
「こんにちは」
「あら、牡丹ちゃんじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「久しぶりにお化粧をしたら楽しくって。
先日、家康様に頂いたこの紅がとても綺麗でしたから、別の色を少し見たくって」
「なるほど。別嬪さんだからどの色も似合うと思うけど…あら、そちらは?」
牡丹と店員の女性が話していると、俺に気付いたらしい。
「…虎松と申します。牡丹さんと共に家康様にお仕えしてます」
「あら、そうなんですね。どうぞごゆっくりご覧になってください」
女性がゆるりと笑って店の奥へ引っ込んだ。
「…牡丹」
「どうかした?」
綺麗に引かれた紅の乗った口元を見る。
「それ、家康様に貰ったの?」
「うん。この前。…どうかした?」
「え?」
「なんだか不機嫌そうな顔をしたから」
「…ううん、そんなことないよ」
分かりやすく顔に出てたらしい。
主に対して失礼だとは思うけど、気に食わなかった。
俺との逢瀬に、家康様の色を使わなくても。
普段、気が回るくせに、そういうところは鈍感なんだから。
少しムッとして、店内を見渡す。
「…牡丹」
「なあに?」
「紅が欲しいんだっけ?」
「うん。少し見てみたくって」
「…これ、いいと思う」
目についた色を取る。
視界の端で一際目を引いた赤色。
「わぁ、素敵。綺麗な色…」
「家康様が送ったその色とはまた違う紅色だけど、どう?」
「…うん、これにするね」
「すみません、これください」
「えっ、私がお金払うよ…!」
「いいの。俺が買いたい」
「あら、ありがとうございます」
さっきの店員が出てきて、ニヤリと笑った。
×××
「虎松くん、ごめんね」
「ううん、俺が牡丹に贈りたかったから気にしないで」
「ありがとう」
「折角だから、つけてみてよ」
「…うん。少し待っててね」
城に戻り、先程買った紅を渡す。
それを受け取った牡丹は一度部屋に戻った。
庭に面した廊下で待つ。
「虎松」
「…家康様」
「お待たせ…あ、家康様」
「…あれ、化粧なんかしてたの」
「はい、今日は暇を頂いてたので」
丁度牡丹が部屋から出てくる。
「似合ってる」
「本当?虎松くんが選んでくれたからだね」
「…あっそ、俺が渡したのはつけないわけ?」
「いえ…先程まで今日ずっとつけてました。家康様に頂いた薄紅梅色の紅もお気に入りです」
牡丹がそう言えば、得意そうに家康様が俺を見る。
「でも、このはっきりとした紅色も好きです」
俺と家康様が牡丹に対して抱いている気持ちに少しも気付いていない牡丹は、無邪気に笑ってそう言う。
「…あっそ」
主はつまらなさそうに反応して、広間に行ってしまった。
「…家康様はあんな反応してたけど、本当にその色も似合うよ」
「えへへ、ありがとう」
「また、その紅をつけて俺と出かけてくれる?」
「もちろん!」
「…楽しみにしてる」
「約束ね。…あっ、もう夕餉の仕度しないと。虎松くんといると楽しくって時間が経つのが早いね。また後で!」
「うん。夕餉も楽しみにしてる」
笑って牡丹へ手を振る。
慌てて部屋に戻った牡丹は、恐らく急いで着替えて夕餉の仕度に回るのだろう。
非番でも料理は率先して手伝う彼女らしさにまた愛おしさが込み上げてくる。
本当は料理なんてしなくていいから、俺のそばで笑っていて欲しいなんて思う。
彼女の料理を楽しみにしつつ、己の独占欲に苦笑いする。
我が主に対してさえ奪われたくないと思うのだから、自分が思う以上に彼女のことが好きなんだと思う。
次の逢瀬の口実を考えつつ、俺も部屋へ戻ることにした。
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