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いろいろ
ゆめうつつ
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「痛い…」
私は、腹痛に襲われ業務も全て放り出して寝ている。
これは明日も休みを貰わなきゃなあ。図書館の皆様には迷惑をかけるが、私も動けないのだから仕方がない。
アルケミストではない通常の司書さん達が仕事に追われている姿が容易に想像出来るので、私が復帰次第、順番に有給を取って貰おうと思う。
しかし痛い。
森先生に貰った薬はまだ効かない。
なんというかまあ、自分が女として生まれたことを最も後悔するのはこの瞬間かな。
勿論、痛みやPMSなんてものは一切ない人もいるが、これは個人差が激しいので他人がどうこう言える問題ではない。
私は痛みがとにかく酷い。最初2日間は気を失うほど辛いので、気休めとして薬を飲みつつ休むに限る。
そう、つまり、生理中なのだ。
腹痛や気怠さと戦う以外には暇だが、何せこの2つが強敵過ぎて他のことに手が付けられない。
壁に掛かった時計を睨みつけながら痛みと格闘すること約15分。
ようやくじんわりと薬が効いて来た気がする。
ちょうど、扉の向こうに誰かの気配を感じた。
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【徳田秋声】
カチャリと音を立てて入って来たのは、徳田先生で。
「体調不良だって?大丈夫かい」
「まあ…大丈夫です」
「全然大丈夫そうじゃない顔しているね」
ベッドの横に椅子を持ってきて座る徳田先生。
「普段頑張ってるんだから、こういう時くらい休みなよね」
優しく頭を撫でてくれる先生の手の温もりに酷く安心した。
「明日も休むでしょ、館長には伝えておくよ」
「ありがとうございます」
「何か食べられる?」
「今はあまり食欲ないですね…」
「ふーん、でも食べられそうなら後できちんと食べるんだよ」
「はい」
徳田先生が優し過ぎて、なんだか不思議な気持ちになる。
普段はもっとツンツンとした優しさなのに、今日は暖かく包み込まれるような優しさだ。
「…その様子だと薬も効いてきたころだろうし、僕は帰るね。何かあったら呼ぶんだよ」
徳田先生の優しい声に溺れていくように、薬の副作用で眠りに落ちた。
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【田山花袋】
「入るぜ」
そんな言葉と共にガチャリと扉を開けて入って来たのは、田山先生だった。
「田山先生?」
「森先生から、その、お腹が痛くて寝込んでるって聞いたからさ、白湯持ってきた」
彼は少し言いにくそうに目を逸らしながら、ベッドの側にある椅子に腰掛けた。
お盆の上のマグカップから湯気が出ている。
「ありがとうございます」
「まだ熱いから、気をつけて飲めよな」
ふぅふぅと息を吹きかけてから白湯を飲む。
まだかなり熱かったけれど、痛みで興奮していた身体を落ち着ける為にはちょうどいい。
「落ち着いた?」
「はい、おかげさまで」
半分ほど飲んだらだいぶ身体も温まった。
「ほら、司書さんはベッドに入って」
マグカップを受け取り、私の身体に蒲団を掛けてくれる先生。
心配そうな顔の田山先生が可愛くって、思わず笑ってしまう。
「なんだよぉ」
「田山先生が可愛くって」
「可愛いって男にいうことじゃないからな」
「なんか温泉にでも行って、癒されたい気分です」
「いや、唐突すぎんだろ。
でも、この近くに俺のお気に入りの場所があるから、司書さんが出歩けられそうなら今度一緒に行こうな!」
「わあ、楽しみです」
「俺には司書さんの体調がわかんないからさ、行けそうになったら声を掛けてくれよな。いつでも行けるように準備しとく!」
ニカッと太陽のような笑顔を浮かべる田山先生がかっこよくって、お腹の痛みなんかよりも煩い心臓の所為で胸が痛くなった。
...
(「花袋、顔が真っ赤だけどどうかしたのか?」)
(「司書さんと温泉行くことになった!!」)
(「良かったじゃないか!今度詳しく聞かせてくれよな」)
(「こら、国木田も花袋も煩いよ。司書さん寝てるんだから静かにしなよ」)
好みの美少女司書とのデートにウキウキな花袋くん。
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【太宰治】
ガチャッ
「司書さん!大丈夫!?」
部屋に飛び込んできたのは、太宰先生だった。
「わ、大丈夫ですよ…」
勢いよく太宰先生に抱き着かれ、折角身体を起こしたのに再びベッドに沈められた。
「毎月毎月、大変だよな…」
眉を下げ、今にも泣きそうな顔で私を見つめる先生。
「そんな、大げさですよ。明日…は無理でも明後日には回復しますから」
「2日間も痛みに耐えるなんて、俺には出来ない!司書さんは偉いよ!」
ぎゅうぎゅうと力を入れて抱き着かれる。
「太宰先生、少し、苦しい…」
「はっ!ごめん!!」
慌てて身体を離し、私にふんわりと布団をかけてくれる。
「ありがとうございます」
「どーってことないさ」
太宰先生は、普段ぶっ飛んでいることも多いのに、やはり根がとても優しくて面倒見のいいタイプだと思う。
「早く良くなるといいな」
太宰先生が、布団の上から優しく私のお腹を撫でる。
「薬も飲みましたし、もうすぐ痛みも無くなりますよ」
「薬が効くまで辛いんだから、強がらなくていいよ」
そんなことを言う太宰先生の瞳はとても優しい。
ゆっくりと撫でられるお腹が、先生の優しさを受け取ったのか少し痛みが和らいだ。
「俺、何も出来ないけど、司書さんが良くなるまで自殺しようとするの辞めるよ」
「…2日しかないですよ」
「それでもだよ!!こんなに大変なアンタを見たら俺も死なずに頑張れるからさ、ね?」
思わず笑うと、真面目な顔をして反論される。
太宰先生、いつも本気で死のうとなんてしないのに。
それでも、2日だけでも、私を想って不安定にならないよう頑張ろうとする太宰先生を愛おしく感じた。
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【坂口安吾】
「よお、元気にしてるか?」
部屋に入って来たのは、坂口先生だった。
「どうしたんですか?」
「アンタが調子悪いって聞いてな、邪魔しに来た」
「邪魔するならお帰りください」
「つれねぇなぁ」
坂口先生は私のそんな言葉なんて気にせずに、ベッド横の椅子に座る。
「太宰もオダサクも心配してるぜ」
「あはは…すみません」
生理痛が酷すぎて倒れてた、なんて聞かされると心配するよね。
「アイツら呼ぶとうるせぇから俺が代表して見舞いに来たっつー訳だ」
「それはそれは、ありがとうございます…」
たしかに無頼派が3人で集まって静かに過ごしている所を見かけたことがない。
「痛いか?」
「少し…」
坂口先生が私のお腹を撫でる。
「女ってのは大変だな。普段から精一杯無理をして仕事してんのに、月1でこんなやつの対応までしなきゃなんねぇとはな」
頑張りすぎんなよっていう坂口先生の言葉に、思わず胸がキュンとした。
「しかしまあ、こうやってアンタの腹を撫でると」
「?」
「俺の子を妊娠しているかのような錯覚を起こすな」
「な、なに言ってんですか!!」
思いもよらぬ発言に、顔が熱くなる。
「冗談だよ、冗談」
「心臓に悪い冗談はやめてくださいよ」
坂口先生にそんなことを言われると、本当にこの人の子をお腹に宿しているような感覚になってしまいそうで怖い。
「ま、ゆっくり休むことだな。
今度、安吾鍋食いに来いよ。太宰とオダサクも呼んどくから」
坂口先生は、ケラケラ笑って椅子から立ち上がる。
私の頭を撫でてから、坂口先生は部屋を出て行った。
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【有島武郎】
カチャリ
控えめな音を立てながら部屋に入ったのは、有島先生だった。
「失礼する。司書さん、体調はどうだろうか」
「有島先生、お気遣いありがとうございます。やっと薬が効いて来た頃です」
私はベッドの側に置いてある椅子を指す。
「良かったら、此方にお座りください」
「ああ、すまない。ありがとう」
「ところで、どうしたんですか?」
有島先生が椅子に座ったところで声を掛ける。
「志賀君達に、司書さんが自室から出られないほど体調が悪いと聞いたから、お見舞いに」
「大袈裟な…。でも、ありがとうございます」
心配そうに此方を見る有島先生。
私を心配するあまり、自身まで痛みを受けているように見える。この人は、本当に優しすぎる御人だ。
「あまり無理をせず、この際に暫くの間休んではどうだろうか」
「2日程度で治りますから、明後日からは仕事に戻りますよ。大丈夫です」
「しかし…本当に大丈夫なのか?」
「はい、ご心配には及びません!」
「それなら良かった」
有島先生の両手を握って笑ってみせると、有島先生も心配の糸が解けたのか、柔らかな笑みを浮かべた。
「貴女はすぐに無理をするから、僕は心配になる」
「無理なんて」
「もっとのんびりとするといい。僕なんて、直ぐに眠ってしまうよ」
少し恥ずかしそうに打ち明けてくれる有島先生が可愛く、口元が緩んでしまう。
しばらく先生と話していたけれど、先生の甘くて優しい声があまりにも気持ちよくて、私は迫り来る睡魔に勝てずに意識を手放した。
××
目を覚ますと既に日は傾き始めていて、開けっ放しのカーテンから夕日が差し込む。
ぼんやりとする頭のまま部屋を見回すと、すぐ隣の椅子で有島先生が寝ていた。
あのまま部屋に帰らずに、先生まで眠ってしまっていたらしい。
私はベッドから起き上がり、自分の布団を1枚有島先生に掛ける。
綺麗な顔で眠る彼は、本当に王子様のようだった。
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【国木田独歩】
ノックもせずに入って来たのは、国木田先生だった。
「あ、起きてたのか。悪いな、寝てると思って」
「いえ、気にしないでください」
それで、どうしたんですか? と問えば、彼は薬を胸の前で振ってみせた。
「?お薬はもう飲みましたよ」
「効いたか?追加で持って来たんだ。効いてなければあと1回なら直ぐ飲んでも大丈夫らしい」
「ありがとうございます…だいぶ楽になりましたよ」
国木田先生は薬は不要だと判断したのか、ベッドの脇の小さいテーブルの上にそれらを置いた。そして、私のドレッサーの前にある椅子をベッドの隣に持って来て座った。
「ほら、独歩さんが見守ってるから安心して休んでいいぞ」
「うーん、見つめられると寝られません」
「普段の疲労も溜まってるだろうし、月モノ中は睡魔に襲われることも多いと聞く」
ほら寝ろ寝ろ そんなことを言いながら、彼は、上半身のみ起き上がっていた私の背中に手を回してベッドに寝かせた。
「お疲れさん」
国木田先生は、優しく私の頭を撫でた。
その手は暖かくて心地が良い。
私を包み込む、彼の優しい声と手に溺れてしまって、私は意識を手放した。
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【久米正雄】
コンコン
控えめな扉をノックする音に反応すると、やはり控えめな声で「失礼します」という返事が来た。音を立てないよう静かに部屋に入って来たのは久米先生だった。
「お身体、大丈夫でしょうか…」
「あはは、何とか薬も効いてきました」
「お邪魔してしまってすみません。貴女の体調が気掛かりで」
「ありがとうございます。良かったら、少しお話ししませんか?」
「いいんですか?」
「はい」
少し顔が明るくなった久米先生に、私も嬉しくなる。
「あ、良かったら此方の椅子にお掛けください」
「はい、失礼します」
私のベッドの側にある椅子に座ると、久米先生は帽子を取った。
「僕は…僕に優しくしてくださる貴女の力になりたいです」
「そんな、ここにきてくださっただけでも凄く有難いですよ?」
「…僕も芥川くんや寛みたいに、早く僕も貴女を助けられるようになりたい」
「…ありがとうございます、嬉しいです」
切ない表情で私を見詰めるものだから、つい胸が高鳴ってしまいそうになる。
「お身体がお辛いときにこんなこと言うなんて迷惑ですよね…すみません」
「いいえ、本当に嬉しいです。体調が良くなったら、久米先生とご飯を作ったり、中庭の散策をしたりしたいですね」
「…!楽しみにしてます」
「あ、そろそろ眠いですか?」
「…はい、バレちゃいました?」
薬の副作用なのか、生理中特有の眠気なのか。目の前に久米先生がいると言うのに、睡魔が私の邪魔をする。
「また、目が覚めた頃に食事をお持ちしますね。それまでゆっくりと休んでください」
「…ありがとうございます」
「おやすみなさい
………僕を呼んでくれて、ありがとう」
眠たくて最後の言葉は殆ど聞き取ることが出来なかったけれど、久米先生の優しく響く声が、私を夢の世界へと誘った。
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