krk長編以外はこの変換で設定できます。
いろいろ
ゆめうつつ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「じゃあ、仕事が終わったら一緒に行こっか」
初めてデートの約束ができたのに。
私は半泣きで仕事をこなしている。
仕事が今日に限っていつまで経っても終わらないからだ。
普段なら遅くても18時には全ての仕事を完了させて、食堂で文豪たちと楽しく食事をしているのに。
手は止めずにチラリと時計を見ると、既に21時を過ぎている。
どうして、今日に限って。
コンコン
司書室の扉がノックされる。
きっと、今日の助手の久米先生か約束をした河東先生かな。
「どうぞ」
普段なら来客があれば手を止めて扉を開けに行き歓迎するが、いまはそんな余裕はない。
手を動かしつつ声だけかける。
「司書さん、仕事終わった?」
「か、河東先生…すみません。まだ…」
やはり、来客は河東先生だった。
「そっか、仕方ないね」
「すみません、折角我儘聞いていただいたのに」
「ううん、仕事なら仕方ないよ。でも、無理しちゃダメだよ」
「はい。でも、今日中にこれは仕上げないと」
「なにも1人でやること無いよ。俺と三汀も手伝うからさ」
「…勿論です。司書さん、何かお手伝いできることはありませんか?」
「あ…久米先生」
久米先生は頼んでいた仕事を終えたのか、いつの間にか部屋に戻ってきていた。
「ありがとうございます。…そうしたら、この業務をお願いしたいんですけれど…」
×××
-30分後-
「終わったー!」
「お疲れ様」「お疲れ様です」
大至急だと頼まれてい仕事を終わらせ、伸びをする。
一日中ずっと机に張り付いていたからか、肩がゴキっと音がした。
「後片付けは僕がしておきます。碧梧桐さんと司書さんは出掛けてください」
「えっ、でも…」
「大丈夫、三汀の仕事の丁寧さは知ってるでしょ?折角言ってくれたんだから行こう?」
「あ、ありがとうございます…!」
久米先生のご厚意に遠慮なく甘え、約束していた河東先生とのご飯に出掛けることにした。
あとで久米先生にお土産買わなきゃ。
制服を脱ぎ散らかして予め決めていた洋服に着替える。超特急で化粧を直し、河東先生が待つエントランスへ駆ける。
「お待たせしましたっ!」
「あ、司書さん!…私服も可愛いね。それじゃ、行こっか。遅くなったけど予約もしてるしね」
「はい」
さらりと褒める河東先生にお礼もロクに言えずに、目的地まで歩く。
河東先生とのはじめてのデートなのに、予定をオーバーさせてしまって申し訳ないし、情けない。
自己嫌悪で先生の一歩後ろを歩く。
背の高い先生の頭を後ろから見つめる。
河東先生を転生させ、一目見たときに好きになってしまった。
一目惚れだったけれど、図書館で過ごしていくうちに内面まで好きになって。
私の好意に対し、「ありがとう」と言ってはくれるけれど、それ以外の言葉はくれない河東先生。
「私のこと、好きですか?」なんて聞くのは烏滸がましくて無理。
一緒の空間に居られるだけで幸せだと思わなきゃ。
誘い続けて漸くセッティングできた今日のご飯だって、結局、夕方になって急な仕事が舞い込んで。つくづくツイてないなぁ。もう22時を過ぎてしまっている。
肌寒くなってきた夜。
先生と居られるのは嬉しいのに、勝手に私が期待してしまうから寂しい。
×××
「「乾杯」」
こぢんまりとした、でも居心地の良いお店で向かい合って食事を取る。
運ばれてくる料理はどれも美味しい。
明日は休みだから、思いっきり食べてしまおう。
手に持っているハイボールを一気に流し込む。
「お、司書さん良い飲みっぷりだね」
「へへへ」
そういえば、河東先生とお酒を飲むのも初めてだ。
×××
「ん~……」
「司書さん大丈夫?」
「まだ飲めます~」
あれからいくら飲んだんだっけ?
普段はあまり飲まないけど、勢いに任せてぐいぐい飲んだ気がする。
頭をはガンガン鳴って、目の前はぐるぐるする。
一旦休憩しなきゃ。そう思うものの手は止まらなくて、追加でオーダーしたワインを飲もうとすると河東先生がそれを阻止した。
「…むぅ、なんで?」
「ダメだよ。そんなに飲んだら明日辛いよ?」
「いいんですぅ!お酒返してくだしゃい」
「呂律の回ってない子には飲ませられません」
持っていたグラスを取り上げられる。ひどい。
「先生のいじわるっ」
「ほら、もうすぐ日付も変わっちゃうよ。そろそろ帰らなきゃ」
「む~……イヤです」
「え?」
「折角、一緒にご飯に行けたんです。
ずーっと好きだった河東先生とやっと2人きりでいられるのに、もう帰るなんて嫌!帰りたくない!」
こんなことを言ったって迷惑なのは分かってる。けど、口は止まらなかった。
「えいっ」
「あっ!」
私のグラスは先生が持っているので、先生が飲んでいた日本酒を奪って飲んでしまう。
「うーん、そっか。帰りたくないの?」
「はい。もっと一緒にいたいです」
「でもね、司書さん」
「?」
「シンデレラって知ってる?」
「はい、知ってます」
「シンデレラは約束通り、時間を守って帰ったから幸せになれたんだよ。
急いで帰る途中でガラスの靴を偶然落としちゃったけど、魔法が解ける前に帰宅したから身なりも王子の前では綺麗だった」
「………」
「だから、今日は帰ろう?」
河東先生が、子供をあやすように私の頭を撫でる。
優しくされると期待してしまうのに。
どうして先生はそんなに優しいの?
「それに、今日は時間が遅かったからさ。
政府に急に押し付けられた仕事頑張ったんでしょ?また今度一緒に出かけよう」
「…ほんとうですか?」
「うん。約束するよ」
「…じゃあ、かえります」
「よし、えらいね」
×××
あれから泥酔状態のままどうやって帰ったのかは記憶にない。
でも、河東先生が手を繋いでくれていた手の温もりは覚えてる。
先生、また一緒に出掛けてくださいね。
勝手に期待しちゃってごめんなさい。
いつか好きになってもらえるように頑張ります。
.