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自然主義
ゆめうつつ
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「本当に、いいのか?」
「…うん」
恥ずかしさを我慢して頷く。多分、私の顔は真っ赤だと思う。頬が熱を持っているし、心臓は煩すぎる。
段々と近付いてくる整った顔を直視出来なくて下を向こうとしたけど、私の顔はしっかりと花袋の手が抑え込んでいるから顔の向きを変えられない。どうしようもなくてギュッと目を瞑る。
唇に暖かい何かが触れる。その何かが何なのかを考えてしまうと頭が沸騰してしまいそうになるので考えない。
ゆっくり目を開けると、真っ赤な顔をして笑う花袋がいた。
×××
「な?独歩さんが言った通りだろ?」
「むむ。反論出来ない…」
「親友が好きな子をやっとものにしたんだから、俺としては安心した訳ですよ」
「まさか本当に私が花袋のことを好きだったとは…」
「鈍いな~、柊木も花袋も」
「じゃ、俺はここで」なんて言って国木田くんは自分の教室に入って行った。
国木田くんに市営プールのチケットを貰ってからのことの顛末を洗いざらい話すと、彼は彼で花袋と私のことを心配していたことを教えてくれた。
この前まで国木田くんとは殆ど喋る機会なんてなかったのに。この前の一件から、会う度に根掘り葉掘り花袋との恋愛事情を聞かれてしまう。
別に、答えなくたって構わない。国木田くんは特に恋愛事情を聞きたいわけではなく、ただ私を揶揄いたいだけなのだから。
それでも、1人で抱えきれない程のトキメキを聞いて欲しくて喋ってしまう。その度に、国木田くんは面白そうに笑う。
花袋と付き合い始めてから1ヶ月。
これまで男女交際に一切縁のなかった私にとって、花袋との恋愛はとても心臓に悪い。相手がこれまた恋愛経験のない(?)花袋で良かった。
菊池先輩みたいな女の扱いに長けた人と付き合ったら本当に私の頭か心臓は今頃大爆発していたと思う。
そんなことを考えていたら、自分の教室に着いた。
「ちょっと柊木」
「はーい?」
前の席の徳田くんがくるりと振り返って私を睨む。何かしたかな?
「…今日、日直。黒板消しから花瓶の水変えまで全部僕1人でやったんだけど?」
「ああ!忘れてた!」
「…しっかりしてくれよ」
ため息とともに、徳田くんは日直日誌を私の机に置く。
「全部書いといたから。あとは名前と自由記入欄だけ書いて提出しといて」
「あ、ありがとう…!」
徳田大先生はもう一度溜息をつく。
何だかんだ優しいから、つい甘えちゃうんだよ、ごめんね!
「花袋のことで頭をいっぱいにするのはいいけど、やることはやりなよ」
「なっ」
「数学の課題も英語のノートも提出してないだろ」
「ああ!!あれ今日だったのか!」
グッバイ、私の課題点。数学も英語も今更遅れて出したところで点をくれるほど優しい先生ではない。
「…はぁ。大体、君は…」
徳田大先生が小言を口にし始めたのでそれを聞いてるふりだけして日直日誌を開く。
徳田くんって後輩の泉くんに似て小言を言いだすと止まらないよね。泉くんと違うのは、徳田くんは圧倒的に振り回され体質なところだと思う。
徳田くんの綺麗な字が並ぶ今日の日誌。とりあえず自分の名前も記入しよう。
「あ、雨降りそう」
「傘持ってるか?」
「持ってない。花袋は?」
「俺もない」
「仕方ないや、今日は急いで帰ろうか」
無事に日直の仕事も終え、数学と英語の先生に謝罪に行った放課後。
今日は新聞部も図書委員の活動もなくて、私達は一緒に帰る約束をしていた。
本当は寄り道して帰りたかったけど天気がそれを許さないだろうし、花袋のことを意識するだけで鼓動が早くなるので今日は早く帰って冷静になった方が良い。
「…でね、森先生と夏目先生が…」
「…ふーん」
今日、花袋が席を外している内にあった面白い出来事を話しているのに目の前のイケメンの反応は薄い。いつもなら笑ってくれるし、もっと話を引き出してくれるのに。
「花袋、反応薄…あ、雨」
頬に落ちてきた水滴に反応して空を見上げると、どんよりとした重い雲から次々に雨が降りてきた。
「急ごう?」
雨に濡れて風邪を引いてはいけない、早く帰らなきゃと思って花袋の腕を引く。
「…こっち」
「え?」
花袋は私が掴んだ手を振りほどいて、逆に私の手を掴む。そのまま普段帰る道とは違う方向に進み、通ったことのない細い路地を抜ける。
「どこ行くの?雨強いよ」
「濡れないところ!」
歩くのが遅い私は、小走りで花袋のペースに追いつく。強くなってくる雨で前髪が顔に張り付いて気持ち悪い。
「はぁ…ついた、とりあえず上がって」
「?」
暫く走ると花袋が立ち止まった。手を離されて、花袋は自分の通学かばんを漁る。花袋の体温を失った私の右手は一気に冷たくなった気がした。
花袋がカバンからキーケースを取り出したのを見てハッとして目の前に視線を移す。
『田山』と書かれた表札のある立派な作りの一軒家。
「花袋の家?」
「そう、牡丹濡れてるから。雨が止むまで休んで行けよ」
「あ、ありがと…」
雨でびしゃびしゃになった制服が身体に張り付いてくるし、いくら夏とは言え雨が降ると寒い。だから花袋が雨宿りさせてくれるのは嬉しいけれど、家に上がるのは初めてだ。緊張してしまう。
「なにボーッとしてんだ、置いてくぜ?」
家に上がることに少々の躊躇いを覚えていると、何も考えてなさそうな花袋が玄関から顔を出す。
上がってしまえ!ドキドキしつつも玄関を跨ぐ。
「タオル取ってくるから!」
花袋は自らのカバンを廊下に放り捨てて、長そうな廊下の先へと走って行った。
どうしたらいいのか分からないから、とりあえず玄関で立ったまま待つ。本当は一刻も早く雨水に浸食された靴と靴下を脱いでもこもこの部屋着に着替えたい。
「待たせた!」
「わわっ」
ぼうっとしていたら、頭の上からタオルが降ってきた。
「早く靴下脱いで上がれって、寒いだろ?」
「うん」
お言葉に甘えて靴下を脱いで足を拭いてから廊下に上がる。
「風呂、沸かしといたから」
「え、いいの?」
「ああ、風邪引かれたくないしな」
付いてきてって言う花袋の背中を追いかけ廊下を進む。いまは家族の方はいないのか、通り過ぎるどの部屋の明かりも点いていない。
「濡れた服は洗濯機に入れて、乾かしとく。
あ、俺の服と一緒で大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「女物の洋服ないから、俺の服置いとくな。小さめの選んどくからそれ着て」
「わ、わかった」
脱衣所に通され、花袋の指示を仰ぐ。
「てかさぁ、牡丹のリボン緩くね?」
「え」
雨水を含んで重くなったはずの棒タイがしゅるりと解ける。
「ほらな、緩い」
解けた棒タイは、花袋の手にある。
突然胸元の棒タイが花袋に抜かれる状況が理解できなくて、びっくりしてしまう。
「…なんてな」
ケラケラ笑う花袋は、そのまま私の棒タイを洗濯機に投げ入れて脱衣所を後にした。
私の水着姿を想像してお店で鼻血を出すような花袋が、最近様子がおかしい。
振り回されっぱなしだな…イケメンは何をしても様になるから困る。
手早く身体を温めてお風呂を上がると、ふわふわなタオルと花袋の私服であろうTシャツとハーフパンツが置いてあった。
どうしよう、下着までびしゃびしゃに濡れて洗濯機に入れてしまったから今は下着がない。
洗濯機に目を向けると、絶賛稼働中で今更取り出せる訳もない。心の中で花袋に謝りつつ、仕方がないので下着を身に付けずに洋服を借りる。
ドライヤーで適当に髪を乾かし、明かりのついている、恐らく花袋の部屋であろう扉をノックする。
「あ、牡丹、温まったか?」
「うん、ありがとう」
「入って、いま制服洗ってる」
「ごめんね、ありがとう」
通された花袋の部屋は、予想以上に綺麗に片付けられている。部屋いっぱいに広がる花袋の匂いにドキドキしてしまう。
「花袋はお風呂入らなくていいの?」
「あー、じゃあちょっと行ってくるか」
「うん」
「あ、部屋漁るなよ!」
「漁らないよ!?」
漁らないとは言ったものの、初めて入った花袋の部屋は気になる。
約束を破るのは信義に反するので、好奇心を理性で押さえ付けて大人しくスマホを触って時間を潰す。かばんも花袋が拭いてくれていたのか水あとすら残っていない。
結構、花袋は面倒見がいいよね。
×××
「あちー」
「あ、おかえり」
暫くしてお風呂を済ませた花袋が部屋に戻ってきた。チラリと窓を見ると、まだ雨は降っている。
「あと1時間くらいで乾燥まで終わりそうだったから、それまでゆっくりしていってくれよな」
「うん、何から何までありがとう」
ベッドにもたれかかってスマホを触っていた私の隣に花袋が座る。ふわっとシャンプーの香りがした。肩が触れ合う距離に、私の心臓は簡単に煩くなる。
「俺、さ」
「なに?」
花袋がコテンと頭を私の肩に乗せた。一気にドキッとしてしまって顔が熱くなる。
「…俺さ」
「うん」
「…牡丹が…」
「私が?」
歯切れのいい花袋が言葉に詰まる。多分、言いにくいことなんだと思う。ドキドキする心臓を抑えて彼の方をチラと見ると、花袋もまた耳が赤くなっていた。
「…牡丹が他の男と仲良くしてるの腹立つんだけど」
「…えっ?」
「うわっ」
びっくりして思わず花袋の頭が肩に乗せられていることも忘れて、身体ごと花袋の方に向ける。花袋の頭が私の肩から落ちる。少し不機嫌そうな瞳。
「独歩とか秋声の方が頼りになるのかもしれねぇけど。森先生の方がかっこいいけど…それでも、嫌だ」
ダメだ、また胸がキュンとしてしまう。花袋は怒っているのに。可愛くてかっこいい、困る。好きが止まらなくなりそう。
「他の男の話、聞きたくない」
「私も、出来たら他の美少女の話聞きたくないよ」
「…それもそうか」
「あ、雨小降りになったね」
「……」
「花袋?」
「わるい」
え、と声を上げる前に花袋が私を抱き締める。
「どうしたの?」
そう問う声は緊張で震える。
「…ムラっときた」
「は?」
「彼女が俺の服着てるって興奮する」
普段、興奮したら鼻血を出してるような花袋が雄の顔していた。
思わずドキッとしてしまった。
洗濯完了まであと45分。
「…好きだよ」
まだ花袋と離れたくないって思ったから、これからどうなるかも予想した上で、自分から彼に口付けた。
すると、もたれていたベッドの縁に身体を押し付けられる。
「本当に、いいのか?」
「…うん」
自分から仕掛けたけど、やはり初めてのことは緊張する。整い過ぎた顔が近づくだけで心臓が暴れる。
彼の首に回した腕に力を預けて、目を閉じた。
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「…うん」
恥ずかしさを我慢して頷く。多分、私の顔は真っ赤だと思う。頬が熱を持っているし、心臓は煩すぎる。
段々と近付いてくる整った顔を直視出来なくて下を向こうとしたけど、私の顔はしっかりと花袋の手が抑え込んでいるから顔の向きを変えられない。どうしようもなくてギュッと目を瞑る。
唇に暖かい何かが触れる。その何かが何なのかを考えてしまうと頭が沸騰してしまいそうになるので考えない。
ゆっくり目を開けると、真っ赤な顔をして笑う花袋がいた。
×××
「な?独歩さんが言った通りだろ?」
「むむ。反論出来ない…」
「親友が好きな子をやっとものにしたんだから、俺としては安心した訳ですよ」
「まさか本当に私が花袋のことを好きだったとは…」
「鈍いな~、柊木も花袋も」
「じゃ、俺はここで」なんて言って国木田くんは自分の教室に入って行った。
国木田くんに市営プールのチケットを貰ってからのことの顛末を洗いざらい話すと、彼は彼で花袋と私のことを心配していたことを教えてくれた。
この前まで国木田くんとは殆ど喋る機会なんてなかったのに。この前の一件から、会う度に根掘り葉掘り花袋との恋愛事情を聞かれてしまう。
別に、答えなくたって構わない。国木田くんは特に恋愛事情を聞きたいわけではなく、ただ私を揶揄いたいだけなのだから。
それでも、1人で抱えきれない程のトキメキを聞いて欲しくて喋ってしまう。その度に、国木田くんは面白そうに笑う。
花袋と付き合い始めてから1ヶ月。
これまで男女交際に一切縁のなかった私にとって、花袋との恋愛はとても心臓に悪い。相手がこれまた恋愛経験のない(?)花袋で良かった。
菊池先輩みたいな女の扱いに長けた人と付き合ったら本当に私の頭か心臓は今頃大爆発していたと思う。
そんなことを考えていたら、自分の教室に着いた。
「ちょっと柊木」
「はーい?」
前の席の徳田くんがくるりと振り返って私を睨む。何かしたかな?
「…今日、日直。黒板消しから花瓶の水変えまで全部僕1人でやったんだけど?」
「ああ!忘れてた!」
「…しっかりしてくれよ」
ため息とともに、徳田くんは日直日誌を私の机に置く。
「全部書いといたから。あとは名前と自由記入欄だけ書いて提出しといて」
「あ、ありがとう…!」
徳田大先生はもう一度溜息をつく。
何だかんだ優しいから、つい甘えちゃうんだよ、ごめんね!
「花袋のことで頭をいっぱいにするのはいいけど、やることはやりなよ」
「なっ」
「数学の課題も英語のノートも提出してないだろ」
「ああ!!あれ今日だったのか!」
グッバイ、私の課題点。数学も英語も今更遅れて出したところで点をくれるほど優しい先生ではない。
「…はぁ。大体、君は…」
徳田大先生が小言を口にし始めたのでそれを聞いてるふりだけして日直日誌を開く。
徳田くんって後輩の泉くんに似て小言を言いだすと止まらないよね。泉くんと違うのは、徳田くんは圧倒的に振り回され体質なところだと思う。
徳田くんの綺麗な字が並ぶ今日の日誌。とりあえず自分の名前も記入しよう。
「あ、雨降りそう」
「傘持ってるか?」
「持ってない。花袋は?」
「俺もない」
「仕方ないや、今日は急いで帰ろうか」
無事に日直の仕事も終え、数学と英語の先生に謝罪に行った放課後。
今日は新聞部も図書委員の活動もなくて、私達は一緒に帰る約束をしていた。
本当は寄り道して帰りたかったけど天気がそれを許さないだろうし、花袋のことを意識するだけで鼓動が早くなるので今日は早く帰って冷静になった方が良い。
「…でね、森先生と夏目先生が…」
「…ふーん」
今日、花袋が席を外している内にあった面白い出来事を話しているのに目の前のイケメンの反応は薄い。いつもなら笑ってくれるし、もっと話を引き出してくれるのに。
「花袋、反応薄…あ、雨」
頬に落ちてきた水滴に反応して空を見上げると、どんよりとした重い雲から次々に雨が降りてきた。
「急ごう?」
雨に濡れて風邪を引いてはいけない、早く帰らなきゃと思って花袋の腕を引く。
「…こっち」
「え?」
花袋は私が掴んだ手を振りほどいて、逆に私の手を掴む。そのまま普段帰る道とは違う方向に進み、通ったことのない細い路地を抜ける。
「どこ行くの?雨強いよ」
「濡れないところ!」
歩くのが遅い私は、小走りで花袋のペースに追いつく。強くなってくる雨で前髪が顔に張り付いて気持ち悪い。
「はぁ…ついた、とりあえず上がって」
「?」
暫く走ると花袋が立ち止まった。手を離されて、花袋は自分の通学かばんを漁る。花袋の体温を失った私の右手は一気に冷たくなった気がした。
花袋がカバンからキーケースを取り出したのを見てハッとして目の前に視線を移す。
『田山』と書かれた表札のある立派な作りの一軒家。
「花袋の家?」
「そう、牡丹濡れてるから。雨が止むまで休んで行けよ」
「あ、ありがと…」
雨でびしゃびしゃになった制服が身体に張り付いてくるし、いくら夏とは言え雨が降ると寒い。だから花袋が雨宿りさせてくれるのは嬉しいけれど、家に上がるのは初めてだ。緊張してしまう。
「なにボーッとしてんだ、置いてくぜ?」
家に上がることに少々の躊躇いを覚えていると、何も考えてなさそうな花袋が玄関から顔を出す。
上がってしまえ!ドキドキしつつも玄関を跨ぐ。
「タオル取ってくるから!」
花袋は自らのカバンを廊下に放り捨てて、長そうな廊下の先へと走って行った。
どうしたらいいのか分からないから、とりあえず玄関で立ったまま待つ。本当は一刻も早く雨水に浸食された靴と靴下を脱いでもこもこの部屋着に着替えたい。
「待たせた!」
「わわっ」
ぼうっとしていたら、頭の上からタオルが降ってきた。
「早く靴下脱いで上がれって、寒いだろ?」
「うん」
お言葉に甘えて靴下を脱いで足を拭いてから廊下に上がる。
「風呂、沸かしといたから」
「え、いいの?」
「ああ、風邪引かれたくないしな」
付いてきてって言う花袋の背中を追いかけ廊下を進む。いまは家族の方はいないのか、通り過ぎるどの部屋の明かりも点いていない。
「濡れた服は洗濯機に入れて、乾かしとく。
あ、俺の服と一緒で大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「女物の洋服ないから、俺の服置いとくな。小さめの選んどくからそれ着て」
「わ、わかった」
脱衣所に通され、花袋の指示を仰ぐ。
「てかさぁ、牡丹のリボン緩くね?」
「え」
雨水を含んで重くなったはずの棒タイがしゅるりと解ける。
「ほらな、緩い」
解けた棒タイは、花袋の手にある。
突然胸元の棒タイが花袋に抜かれる状況が理解できなくて、びっくりしてしまう。
「…なんてな」
ケラケラ笑う花袋は、そのまま私の棒タイを洗濯機に投げ入れて脱衣所を後にした。
私の水着姿を想像してお店で鼻血を出すような花袋が、最近様子がおかしい。
振り回されっぱなしだな…イケメンは何をしても様になるから困る。
手早く身体を温めてお風呂を上がると、ふわふわなタオルと花袋の私服であろうTシャツとハーフパンツが置いてあった。
どうしよう、下着までびしゃびしゃに濡れて洗濯機に入れてしまったから今は下着がない。
洗濯機に目を向けると、絶賛稼働中で今更取り出せる訳もない。心の中で花袋に謝りつつ、仕方がないので下着を身に付けずに洋服を借りる。
ドライヤーで適当に髪を乾かし、明かりのついている、恐らく花袋の部屋であろう扉をノックする。
「あ、牡丹、温まったか?」
「うん、ありがとう」
「入って、いま制服洗ってる」
「ごめんね、ありがとう」
通された花袋の部屋は、予想以上に綺麗に片付けられている。部屋いっぱいに広がる花袋の匂いにドキドキしてしまう。
「花袋はお風呂入らなくていいの?」
「あー、じゃあちょっと行ってくるか」
「うん」
「あ、部屋漁るなよ!」
「漁らないよ!?」
漁らないとは言ったものの、初めて入った花袋の部屋は気になる。
約束を破るのは信義に反するので、好奇心を理性で押さえ付けて大人しくスマホを触って時間を潰す。かばんも花袋が拭いてくれていたのか水あとすら残っていない。
結構、花袋は面倒見がいいよね。
×××
「あちー」
「あ、おかえり」
暫くしてお風呂を済ませた花袋が部屋に戻ってきた。チラリと窓を見ると、まだ雨は降っている。
「あと1時間くらいで乾燥まで終わりそうだったから、それまでゆっくりしていってくれよな」
「うん、何から何までありがとう」
ベッドにもたれかかってスマホを触っていた私の隣に花袋が座る。ふわっとシャンプーの香りがした。肩が触れ合う距離に、私の心臓は簡単に煩くなる。
「俺、さ」
「なに?」
花袋がコテンと頭を私の肩に乗せた。一気にドキッとしてしまって顔が熱くなる。
「…俺さ」
「うん」
「…牡丹が…」
「私が?」
歯切れのいい花袋が言葉に詰まる。多分、言いにくいことなんだと思う。ドキドキする心臓を抑えて彼の方をチラと見ると、花袋もまた耳が赤くなっていた。
「…牡丹が他の男と仲良くしてるの腹立つんだけど」
「…えっ?」
「うわっ」
びっくりして思わず花袋の頭が肩に乗せられていることも忘れて、身体ごと花袋の方に向ける。花袋の頭が私の肩から落ちる。少し不機嫌そうな瞳。
「独歩とか秋声の方が頼りになるのかもしれねぇけど。森先生の方がかっこいいけど…それでも、嫌だ」
ダメだ、また胸がキュンとしてしまう。花袋は怒っているのに。可愛くてかっこいい、困る。好きが止まらなくなりそう。
「他の男の話、聞きたくない」
「私も、出来たら他の美少女の話聞きたくないよ」
「…それもそうか」
「あ、雨小降りになったね」
「……」
「花袋?」
「わるい」
え、と声を上げる前に花袋が私を抱き締める。
「どうしたの?」
そう問う声は緊張で震える。
「…ムラっときた」
「は?」
「彼女が俺の服着てるって興奮する」
普段、興奮したら鼻血を出してるような花袋が雄の顔していた。
思わずドキッとしてしまった。
洗濯完了まであと45分。
「…好きだよ」
まだ花袋と離れたくないって思ったから、これからどうなるかも予想した上で、自分から彼に口付けた。
すると、もたれていたベッドの縁に身体を押し付けられる。
「本当に、いいのか?」
「…うん」
自分から仕掛けたけど、やはり初めてのことは緊張する。整い過ぎた顔が近づくだけで心臓が暴れる。
彼の首に回した腕に力を預けて、目を閉じた。
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