吊るされた男
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最悪だ。重ね重ね最悪だ。なんで人気の無い所を求めて来た裏庭でビリーと鉢合わせしなきゃならない。
「う…うぇ~!ヒッ…グ!」
涙を堪える様な泣き声。僕の嫌いな泣き方だ。泣くなら泣けよ。泣きたくないなら泣くなよ。同情引きたいだけの哀れな泣き声なんて大嫌いだ!
僕は思わずうずくまるビリーのお尻を蹴り上げた。ウヒャ!という素頓狂な声。振り向いたビリーはたちまち僕への敵意を剥き出しにした。
「ボクのウサギ返せよ!」
「僕じゃない」
「お前以外出来る訳ないだろ!お前だ!」
起き上がりかけたビリーをもう一度蹴り倒す。ゴロンと転がった。それでは収まらずに、脇腹を踏みつける。これがやりたくなかったからウサギにしたのに。
もう彼が泣き声を我慢する事はなかった。ギャアギャアと小さな恐竜みたいに喚き声を上げる。ああザマァミロ。ボクは何もしてないのにそうやってお前が騒ぐからみんながみんながみんなが!
「アルベ!……アルベ…うっ……うぇぇん!!」
アルベ?……あぁ、あのウサギ。なんて可哀想な奴。死んじゃったウサギなんて、呼んでも意味が無いって分かってる癖に。
「殺したの、お前だよ」
「うぇぇぇ……ん」
「梁にローブくくりつけたの、お前だよ。‘思い出せ’」
「うぇ、嘘…だ」
「嘘じゃない。ちゃんと思い出せよ、ホラ。」
ビリーの動きが止まった。もしかして、本当に思い出したか?笑えるな。思い出しちゃったんだ。
「違う……そんな事無い、違う」
ビリーはうわ言の様に呟く。僕は自分が命令した事に気付いた。時々僕は自分の力をコントロール出来なくなる事に気付き、愕然とする。
「違う……違う…違う…」
ビリーは頭を抱える様にして耳を塞ぐ。ぐっと耳の辺りの髪を巻き込んで握られた拳に向け、僕はもう一度足を出そうか迷う。あんまりやると僕も怒られちゃうしな。でも、コイツ僕の事犯人扱いしたから。
不意に背中に視線を感じて振り返る。
「何しに来た」
さっきケンカ別れしたばかりのリディアがいた。
「……何してるの?」
リディアはビリーから視線を外せないまま尋ねた。なんだ、やっぱりビリーの味方か。僕は早々に彼女に見切りをつけ、ビリーに向き直った。
しばらくビリーの泣き声だけが響いていたが、リディアがこちらに向かって来る、砂のざりざりという音が始まった。そしてその音はリディアが僕の隣に立って止まる。
僕が彼女の方を盗み見ると、同じ様に僕を盗み見ようとした彼女と目があった。
―――――
困った。とっても困った。あたしはリドル君に会いに来たのに、どうやらビリーも何とかする必要があるみたいで。でも、多分ビリーの方に行ったらリドル君はどこかにいってしまうし、リドル君の方に行ったらビリーはどこかにいってしまう。
どうしよう。
あたしはとりあえずリドル君を盗み見るが、リドル君も丁度あたしを見てたせいで、目があってしまう。あぁ、駄目だよ。まだ何を言うか考えてないのに。
ビリーの泣き声は、どこか他人事みたいに聞こえた。
「リドル君」
「何だ」
「まだ怒ってる?」
リドル君はあたしの問いかけに無言で返す。眉間にシワが寄っているから、やっぱり怒ってるんだろうか。わかんないや。
あたしはしゃがんでビリーの頭を撫でた。ビリーは泣き声の間にしきりに何かを呟く。あたしは彼の言うことが気になって彼の口元に耳を近付ける。ビリーは「ボクのせいだ、ボクのせいだ」って呟いていたのだと気付いた瞬間、視界がぼやけた。
刹那、世界は暗転する。