皇帝
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「楽しいか?」
下ろせ下ろせと騒ぐ二人なんていないみたいに、リドル君は問いかけた。あたしは頷く。今のあたしはリドル君より、アーサー君より、ステラより、ずっと高いところにいる。リドル君に手を振れば、彼は左手で手を振り返してくれる。顔が綻んでしまう。
楽しいなあ。きれいだなぁ。
リドル君が杖を右に動かせば右に、左に動かせば左にと、あたしの体は宙を泳ぐ。もくもくの雲がぐっと近くなり、あたしの足はそよ風を踏む。からかうように、周りをストラスが飛び回る。それに手を伸ばせば、彼はくるりとその周りを一周して手に止まった。反対の手でその頭を撫でる。細まる目。下を見れば、アーサー君とステラがあっけにとられてあたしを見ていた。
「楽しいよ!」
あたしはそう呼びかけた。「だろうね」と、アーサー君がなんとも言えない表情で返す。ステラはまだ油断できないとでも言うように、杖を持つ手を強張らせたままいる。落ちたら助けてくれる気でいるんだろうな。きっと、習ったばかりの浮遊呪文で。でも、大丈夫。心配はない。リドル君はあんなにも集中しているから。
視点が段々と下がる。不思議に思って見れば、リドル君がさっきより杖を下げていた。リドル君の真正面辺りまで降りて来たところで、彼はもう一度「楽しいか?」と聞いた。
「とっても」
「だろうな」
「うん。すごいねリドル君」
「誰でもできる。グリフィンドールの奴も、レイブンクローの奴もできたろ」
「うん、できてた」
そこで、ついにリドル君は私を地面に下ろした。残念に思うあたしに、「後は自分でやれ」と言った。
「できるかな」
「やってみろ」
「うん」
ストラスがリドル君の頭に止まる。あたしはそれに杖を向けて、呪文を唱えた。
羽ばたきもせず、ストラスが空を飛ぶ。くるり、くるり。リドル君の頭の上から離れたストラスが重力と関係なく向きを変えていく。あたしの杖が右に動けば右に、左に動けば左に動くストラスを見ているうちに、じわじわと実感が湧いてきた。
できたみたい、あたし。
不意にストラスがくるくるっと回って、あたしの魔法から自力で離れた。ばさばさと羽を動かしてあたしの頭に戻ると、一声鳴く。褒めてくれているんだと気付いた。ありがとうの気持ちを込めて羽を撫でながら、リドル君を見る。彼はしばらく無表情であたしを見つめて、踵を返す。後ろ姿に「ありがとう」と声をかければ、彼はひらりと後ろ手に手を振った。
帰りざま、リドル君はアーサー君の肩をぽんと叩いた。アーサー君がしかめっ面を作ったのを見て、あたしは首を傾げる。
廊下へと歩いていくリドル君とは対照的にこちらに歩いてきたアーサー君が、「やな感じ」とステラに苦笑いを向ける。
「なんて?」
「僕のリディアの練習に付き合ってくれてご苦労、だってよ」
「ワオ」
同じく苦笑いを零したステラに、あたしはやっぱり首を傾げる。苦笑の意味を聞こうとして口を開いたけど、アーサー君が「おめでとう、リディア」というのに出鼻を挫かれてしまった。「ありがとう」と答えると、アーサー君は笑顔を作る。
「さ、ディナーの時間だぜ」
アーサー君がそう言うと、ステラは歩き出す。あたしは二人の後ろを歩きながら、声には出さず、「ウィンガーディアム・レビオーサ」と唱えた。
下ろせ下ろせと騒ぐ二人なんていないみたいに、リドル君は問いかけた。あたしは頷く。今のあたしはリドル君より、アーサー君より、ステラより、ずっと高いところにいる。リドル君に手を振れば、彼は左手で手を振り返してくれる。顔が綻んでしまう。
楽しいなあ。きれいだなぁ。
リドル君が杖を右に動かせば右に、左に動かせば左にと、あたしの体は宙を泳ぐ。もくもくの雲がぐっと近くなり、あたしの足はそよ風を踏む。からかうように、周りをストラスが飛び回る。それに手を伸ばせば、彼はくるりとその周りを一周して手に止まった。反対の手でその頭を撫でる。細まる目。下を見れば、アーサー君とステラがあっけにとられてあたしを見ていた。
「楽しいよ!」
あたしはそう呼びかけた。「だろうね」と、アーサー君がなんとも言えない表情で返す。ステラはまだ油断できないとでも言うように、杖を持つ手を強張らせたままいる。落ちたら助けてくれる気でいるんだろうな。きっと、習ったばかりの浮遊呪文で。でも、大丈夫。心配はない。リドル君はあんなにも集中しているから。
視点が段々と下がる。不思議に思って見れば、リドル君がさっきより杖を下げていた。リドル君の真正面辺りまで降りて来たところで、彼はもう一度「楽しいか?」と聞いた。
「とっても」
「だろうな」
「うん。すごいねリドル君」
「誰でもできる。グリフィンドールの奴も、レイブンクローの奴もできたろ」
「うん、できてた」
そこで、ついにリドル君は私を地面に下ろした。残念に思うあたしに、「後は自分でやれ」と言った。
「できるかな」
「やってみろ」
「うん」
ストラスがリドル君の頭に止まる。あたしはそれに杖を向けて、呪文を唱えた。
羽ばたきもせず、ストラスが空を飛ぶ。くるり、くるり。リドル君の頭の上から離れたストラスが重力と関係なく向きを変えていく。あたしの杖が右に動けば右に、左に動けば左に動くストラスを見ているうちに、じわじわと実感が湧いてきた。
できたみたい、あたし。
不意にストラスがくるくるっと回って、あたしの魔法から自力で離れた。ばさばさと羽を動かしてあたしの頭に戻ると、一声鳴く。褒めてくれているんだと気付いた。ありがとうの気持ちを込めて羽を撫でながら、リドル君を見る。彼はしばらく無表情であたしを見つめて、踵を返す。後ろ姿に「ありがとう」と声をかければ、彼はひらりと後ろ手に手を振った。
帰りざま、リドル君はアーサー君の肩をぽんと叩いた。アーサー君がしかめっ面を作ったのを見て、あたしは首を傾げる。
廊下へと歩いていくリドル君とは対照的にこちらに歩いてきたアーサー君が、「やな感じ」とステラに苦笑いを向ける。
「なんて?」
「僕のリディアの練習に付き合ってくれてご苦労、だってよ」
「ワオ」
同じく苦笑いを零したステラに、あたしはやっぱり首を傾げる。苦笑の意味を聞こうとして口を開いたけど、アーサー君が「おめでとう、リディア」というのに出鼻を挫かれてしまった。「ありがとう」と答えると、アーサー君は笑顔を作る。
「さ、ディナーの時間だぜ」
アーサー君がそう言うと、ステラは歩き出す。あたしは二人の後ろを歩きながら、声には出さず、「ウィンガーディアム・レビオーサ」と唱えた。