魔術師
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何よりも先に僕はわかってしまった。だから握った手は離さなかったのに。
自分の番になるのが待ち遠くて仕方がない顔も、他人には興味がないとばかりに逸らされた顔も、隣人に話しかけて気を紛らわそうか迷っている顔も。スリザリン以外ないという自信からなのか妙に余裕そうなアブラクサスも、僕の隣で組分けの様子を興味深そうに眺めるリディアも。きっと皆そうなのだ。
「リディア・ローリング」
リディアが呼ばれる。彼女は身体を強ばらせ、小さな深呼吸をつく。そして僕の手を離して、前に走っていった。
ぬくもりの残る手を握りしめてポケットに押し込んだ。彼女はハッフルパフに入るそうだ。
わいわいと騒ぎ立てる喧騒はすぐそこのテーブルのものなのに変に遠くに聞こえるのは何故だ。喧騒の中心で照れ臭そうに笑う彼女は直前にハッフルパフになった男子の隣に掛けて、周りの新入生と自己紹介。
なんで話すんだよ。
「リドル・トム」
ああ、呼ばれた。顔を上げると既にアブラクサスもいなくなっていた。Rだから当然か。
帽子を被ると、帽子は小さな声で唸る。
「……ハッフルパフ、か。しかし君は一番わかっている。そこは自分とは程遠いと」
そうだろう?と問いかける声に首を振る。
「頼む」
「その望みを叶える事は悪魔に心を売るより容易く、同時に許されない事だ」
「頼む」
「いや、駄目だ。やはり私には出来ない。こうしている今も君の気持ちは痛いほど流れ込んでくる。身を裂くほどの切実な願いだ。しかし、しかしだ。その願いを聞き入れる事は君のその有望な未来を潰してしまうことになりかねない」
「頼む、から、頼む、頼むって言ってるだろ!」
ブチッ、と、嫌な音がした。帽子の悲鳴を噛み潰すような低い声。
「……トム。やはり君はスリザリンだ。その力と手段を問わないその気概、活かせるのはスリザリンだけだよ。酷い事をいうようだが、ハッフルパフの善良さは君にはない。ああ、そうだ。私にこうやって手を出すのは君が初めてという訳じゃない。だから気に病む必要は無いよ。その気もないだろうがね」
ふふ、と吐息の様な笑いに続いて「スリザリン!」と組分け帽子の高らかな声が部屋に響いた。
「さあ行きなさい、トム」
再び僕にだけ聞こえる程度の声に戻して、帽子は語りかけた。
「いずれ分かる。彼女だけが道ではないのだと、ね」
ほら、コイツもそうだ。きっと皆そうなのだ。
一度手放してしまえば、全く同じ形で返ってくるものなどないって、誰もわかってない。
自分の番になるのが待ち遠くて仕方がない顔も、他人には興味がないとばかりに逸らされた顔も、隣人に話しかけて気を紛らわそうか迷っている顔も。スリザリン以外ないという自信からなのか妙に余裕そうなアブラクサスも、僕の隣で組分けの様子を興味深そうに眺めるリディアも。きっと皆そうなのだ。
「リディア・ローリング」
リディアが呼ばれる。彼女は身体を強ばらせ、小さな深呼吸をつく。そして僕の手を離して、前に走っていった。
ぬくもりの残る手を握りしめてポケットに押し込んだ。彼女はハッフルパフに入るそうだ。
わいわいと騒ぎ立てる喧騒はすぐそこのテーブルのものなのに変に遠くに聞こえるのは何故だ。喧騒の中心で照れ臭そうに笑う彼女は直前にハッフルパフになった男子の隣に掛けて、周りの新入生と自己紹介。
なんで話すんだよ。
「リドル・トム」
ああ、呼ばれた。顔を上げると既にアブラクサスもいなくなっていた。Rだから当然か。
帽子を被ると、帽子は小さな声で唸る。
「……ハッフルパフ、か。しかし君は一番わかっている。そこは自分とは程遠いと」
そうだろう?と問いかける声に首を振る。
「頼む」
「その望みを叶える事は悪魔に心を売るより容易く、同時に許されない事だ」
「頼む」
「いや、駄目だ。やはり私には出来ない。こうしている今も君の気持ちは痛いほど流れ込んでくる。身を裂くほどの切実な願いだ。しかし、しかしだ。その願いを聞き入れる事は君のその有望な未来を潰してしまうことになりかねない」
「頼む、から、頼む、頼むって言ってるだろ!」
ブチッ、と、嫌な音がした。帽子の悲鳴を噛み潰すような低い声。
「……トム。やはり君はスリザリンだ。その力と手段を問わないその気概、活かせるのはスリザリンだけだよ。酷い事をいうようだが、ハッフルパフの善良さは君にはない。ああ、そうだ。私にこうやって手を出すのは君が初めてという訳じゃない。だから気に病む必要は無いよ。その気もないだろうがね」
ふふ、と吐息の様な笑いに続いて「スリザリン!」と組分け帽子の高らかな声が部屋に響いた。
「さあ行きなさい、トム」
再び僕にだけ聞こえる程度の声に戻して、帽子は語りかけた。
「いずれ分かる。彼女だけが道ではないのだと、ね」
ほら、コイツもそうだ。きっと皆そうなのだ。
一度手放してしまえば、全く同じ形で返ってくるものなどないって、誰もわかってない。