悪魔
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帰りのバスの中、ストラスは人気者だった。ミセス・コールは特に何か言うでも無くあたし達を見ていて、あたしはひっそりと首をかしげる。とりあえず王冠はどこに消えたんだろう。
「何故か気になるかい?」
ストラスは洞窟で聞いた声無き声で尋ねる。
「うん」
「君の大好きなリドル君が使ったのと同じ力だよ。ミセス・コールには魔法をかけたのさ」
「魔法?」
「まぁね。……あぁ、因みに王冠は隠しただけさ」
ストラスはホウと鳴いて、隣に座っているレナの膝に飛び乗った。
―――――
「ねぇ、馬鹿馬鹿しいと思わない?」
「何がだ」
「全部全部よ。見えないままで知らない振りで苦労も知らずに笑ってるもの全て」
僕が孤児院に帰ると、玄関脇の茂みにナギニがいた。そして聞いてもいないのに自分が密かにデニスの荷物に忍び込んで着いてきた事を語りだした。
「あの子のバックの中から出てくる時にバレちゃってね、急いで隠れたのよ。所で貴方の好きな…リディアちゃん?あの子って不思議ね。悪魔は怖くなくて蛇は怖いなんて」
「話したのか?」
「蛇は人間の言葉を話せないのよ?」
丁度出てくる時に目があっただけ。悲鳴なんかあげちゃって、かわいい子。ナギニはまた聞いてもいない事をペラペラ話し出す。僕はナギニを無視して孤児院の中へ入ろうとした。
「あら、アタシも入れてくれないの?」
「蛇を中に入れる訳無いだろ」
「ざーんねん」
さして傷付いてもいない口調で、ナギニはそう言った。
―――――
洞窟の外で目覚めてから、バスの中、孤児院に着いてからもずっと何かを隠している様子だったデニスとエイミーの異変にミセス・コールが気付いたのは、遠足の次の日の事。
いくら問い詰めても宥めすかしても首を横に振ってはだんまりを貫く二人にしびれをきらした彼女は、あたしとリドル君を呼びつけた。
「貴方達、何か知りませんか?」
「……なんで僕達が?」
「一緒に遊んでいたと、レナが言っていましたが」
「知りません」
「あたしも知りません。でもあたしたち幽霊みました、洞窟で。それでかもしれません」
「……リディア、ふざけないで」
「本当です……」
「なら……その幽霊は、デニスとエイミーも?」
「……見たと思います」
「そう……リディア、貴女はもう行っても大丈夫よ。また何かあったら教えて頂戴」
「はい……えと、リドル君は」
「彼は…」
‘行ってもいいね?’
突然響くストラスの声。ミセス・コールの青い目が濁ったかと思うと、「トム、貴方も行きなさい」と言った。リドルは一瞬険しい顔をして、すぐにそれをしまいこんであたしの手を引いて部屋を出た。
部屋を出た所で、あたしの頭の上にストラスが舞い降りる。
「貸しだよ、トム」
ストラスはそう言って、満足気にホウと鳴いた。
―――――
「……誰しもが最初に手にする武器がある」
カシロトの紡ぐ言葉に、アレックスはひっそりと耳を傾ける。
「それは知恵だ。武器を持つ者は楽園には居られぬ」
アレックスは先を促す。カシロトは一つ頷いてまた口を開いた。
「彼等は別の木になる林檎を食べた。それは即ち、別の知恵を手に入れたという事」
「彼等とは…トムとリディア?」
「見える景色も別になろう。見える景色が違えば、それが導くのは新たな武器と争い」
「林檎と言うのは…ストラス?じゃあ別の知恵は?」
アレックスの言葉に答えは無い。彼は一つため息を吐くと、ふわりと浮かんで消えた。