悪魔
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
洞窟の外と中を隔てる混沌の暗闇を前に、あたし達は思わず足を止めた。目の前の小さな穴は、光も音も呑み込んで、ただ、あった。それだけなのに、ううん、それだけだからこその存在感と恐怖にあたしは密かに身震いする。エイミーとデニスもきっと同じ様な気持ちなのだろう、固唾を飲む音とがした。ただひとりリドル君だけが微笑みをその顔に貼り付けていて、それが一番怖かった。
「誰から行く?」
リドル君の問い掛けに、エイミーとデニスは肩を震わせ、目を見合わせた。そして互いに頷き合うと、ぐいと私を洞窟の方へと押し出す。
「決まってるだろ、リディアだよ!」
「え、やだよ」
「そうよ、弱虫が一番最初に行くべきよ!」
あたしは首を横に振りながらリドル君を見た。でも、彼はあたしを鼻で笑うと「じゃあ行け」と命令した。味方が一人もいない事が分かり、あたしはさっき泣いたせいで未だグズグスする鼻をすすって歩き始めた。すると、さっきの態度はどこへやら、エイミーとデニスはニヤニヤ笑いながら着いてくる。そんな余裕があるなら先に行ってくれれば良かったのに。
カツン、カツン。足音が響く。進めば進むほど深くなる暗闇に包まれ、既に自分の手がぼんやりと見えるだけ。それでもあたしは奥を奥を目指した。呼び声がしていた。聞こえないけれど、確かに声だった。
星空を呼んでいた。
「……おい!いるのか!?」
静寂の呼び声を破るデニスの声。泣き出しそうなのは何故だろう。
「ここにいるわ!」
そして、それに答えるのはエイミー。声が震えていた。
二人の声を合図に、声は沈黙する。あたしは慌てて耳を澄ます。既に自分の身体も見えなくなってしまった今、声が聞こえないと迷子になってしまう。立ち止まると、追突された。
「痛っ!」
「……どこ見て歩いてる」
「……あれ?」
リドル君?と尋ねると「そうだ」との答え。歩いている間に歩く順番が変わってしまっていたらしい。
「馬鹿にする側が一番弱虫だったということか」
リドル君は難しい言い回しが好きだから、あたしは時々取り残される。一体彼はどこであんな言葉を覚えてくるんだろう。
「お前は見えるのか?」
「……何が?」
「……幽霊」
え、いるの?あたしはつい立ち止まる。そしてまたリドル君に追突された。怒って足を踏んでくるリドル君。あまりにも正確に踏んでくるものだから、あたしはリドル君は幽霊だけじゃなくて洞窟の中も見えているんじゃないかと思った位だ。
「痛いよリドル君!やめてよ」
「五月蝿い」
「ひどいよ!」
「幽霊が見えないなら、何故お前は正しい道を歩いていけるんだ?」
「まず足踏むのやめてよ!」
やっと足を踏むのをやめてくれたリドル君がいそうなあたりを睨んで、あたしは「声が聞こえるでしょ?」と答えた。リドル君は「声?」とオウム返し。
「リドル君は聞こえないの?」
「聞こえないな」
あたしは首をかしげた。こんなにもはっきりと聞こえているのに。
「もう、近くにいるって」
「何が?」
「声」
「声が近くに?」
あたしは頷いて前方を指差す。さっきは全く見えなかったのに、今ではぼんやりと皆のいる場所が見えるようになっていた。
それは、つまり、光があるということ。
エイミーとデニスの歓声。あたしたちは光を目指して歩き続けた。