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鬼、と呼ばれる人がうちの学校にいる。いつもにこやかで新人の僕の事もよく気にかけてくれる人だ。あだ名を知った時はあの人の何処が鬼なのかと驚いたが、よく見れば確かに、持久走の練習はドベの子と並走してずっと叱咤激励しまくるし、合唱の時は自分も子どもも喉ガラガラになるまで歌い続ける。指導が尋常じゃない。
そして、そこまでやって何故子供が付いてくるのか不思議でならない。
you won't make it!
「なんですか、そのプリント?」
「そりゃ、授業プリントだよう」
印刷室で例の鬼先生と鉢合わせ。大きな吹き出しが一つだけの小さなプリントを量産している。つい聞いてしまったが、彼女はにこやかに返事をくれる。
「クラスに一人、いっつもフライングしてプリント解こうとするけしからんのがいるからさ、懲らしめてやろうと思ってるんだよね」
こうしちゃえば解けないでしょ?と一枚手渡してきたそれは、やっぱり大きな吹き出しが一つだけ。それを見つめたままの僕を見て、彼女は少し笑った。
「フライングなんかでって顔してるね?」
「あ、いや」
「それをみんながやったら授業が成り立たなくなるから見逃さない方がいい。それに、それでホントに必要な力はつかないよ」
「解けるのに?」
「うんにゃ、それじゃない。小学校の勉強なんて大体の子どもには自習で十分だよ。それより例えば他の子の意見を聞いて納得したり反論したり、目の前の人の話を真剣に聞いたりする方が大事。それが本当に困らない為に必要な力だよ」
のー、まん、いず、あん、あいらんど、だね。下手くそな英語で、彼女は笑う。さて、それを言ったのは誰だったか。
「ジョン・ダンね、因みに」
「ああ」
そうだった。
「人は一人で生きてるわけじゃない。なら、人と生きる力が身についている必要がある。じゃないと孤独になる。教え子が将来孤独になるなら、それは教師の責任だ」
自分が万全のフォローをするんだから、失敗させまくればいいんだよ。独りよがりが罷り通るクラスを私は作らない。その為なら、私はいくらでもその種を摘んでいくよ。
さて、長話しすぎたね。彼女は手の代わりにプリントを振りながら、その場を離れようとする。ふと気になって、その背中に声を掛ける。
「先生は、誰と一緒に生きるんですか?」
「へ?」
僕と、と言いかけて、躊躇う。その一瞬で何を察したか、彼女は微笑みを浮かべた。
「残念。ずっとメールの返信を待ってる人がいるんだよね」
けらけらと笑って、彼女は今度こそ印刷室を出る。憧れは恋になる前に切り捨てられたようだった。
そして、そこまでやって何故子供が付いてくるのか不思議でならない。
you won't make it!
「なんですか、そのプリント?」
「そりゃ、授業プリントだよう」
印刷室で例の鬼先生と鉢合わせ。大きな吹き出しが一つだけの小さなプリントを量産している。つい聞いてしまったが、彼女はにこやかに返事をくれる。
「クラスに一人、いっつもフライングしてプリント解こうとするけしからんのがいるからさ、懲らしめてやろうと思ってるんだよね」
こうしちゃえば解けないでしょ?と一枚手渡してきたそれは、やっぱり大きな吹き出しが一つだけ。それを見つめたままの僕を見て、彼女は少し笑った。
「フライングなんかでって顔してるね?」
「あ、いや」
「それをみんながやったら授業が成り立たなくなるから見逃さない方がいい。それに、それでホントに必要な力はつかないよ」
「解けるのに?」
「うんにゃ、それじゃない。小学校の勉強なんて大体の子どもには自習で十分だよ。それより例えば他の子の意見を聞いて納得したり反論したり、目の前の人の話を真剣に聞いたりする方が大事。それが本当に困らない為に必要な力だよ」
のー、まん、いず、あん、あいらんど、だね。下手くそな英語で、彼女は笑う。さて、それを言ったのは誰だったか。
「ジョン・ダンね、因みに」
「ああ」
そうだった。
「人は一人で生きてるわけじゃない。なら、人と生きる力が身についている必要がある。じゃないと孤独になる。教え子が将来孤独になるなら、それは教師の責任だ」
自分が万全のフォローをするんだから、失敗させまくればいいんだよ。独りよがりが罷り通るクラスを私は作らない。その為なら、私はいくらでもその種を摘んでいくよ。
さて、長話しすぎたね。彼女は手の代わりにプリントを振りながら、その場を離れようとする。ふと気になって、その背中に声を掛ける。
「先生は、誰と一緒に生きるんですか?」
「へ?」
僕と、と言いかけて、躊躇う。その一瞬で何を察したか、彼女は微笑みを浮かべた。
「残念。ずっとメールの返信を待ってる人がいるんだよね」
けらけらと笑って、彼女は今度こそ印刷室を出る。憧れは恋になる前に切り捨てられたようだった。