二人四角いぬくもりの中
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「開店休業中?何やっとんじゃチビは」
ワシは事務室に寄った帰り、チビの部屋のドアに貼られた貼り紙を発見した。どういうつもりなんやろ。興味本位でノックを三回。すると中から「どうぞー」という陽気な声が聞こえたので、遠慮なくドアを開ける。
「あら門倉さん、どうしました?」
「外の貼り紙が気になっての。なんや、炬燵かいな」
「ふふ、いいでしょ。今朝目蒲宅急便で届いたんです」
「メカも尽くすのう」
「一回命懸けで尽くしてみたら門倉さんにも尽くしてくれるようになると思いますよ」
「ようやらんわ、アホ」
ドア口にもたれ掛かりながらそう言って笑えば、彼女も「勿体無い」と笑う。一頻りの後、彼女は自分の正面を指差し、「入ります?御構いはしませんけど」と誘ってきた。
「開店休業ってそういう事かいな」
「今日はここから動きませんよー。ほら、お茶とお菓子もちゃんと持ってきてるんです」
「はは、準備万端やないか。邪魔するのも悪いけえ、今日は遠慮するわ」
「あら、そうですか。あ、明日鍋にしたいと思ってるんですけど、門倉さんいらっしゃいます?」
「ほな行かせてもらうわ。日本酒でええか?」
「ええですとも」
へらっと笑う彼女に別れの挨拶をして、ワシはドアを閉めた。あいつは人質と思えん程人生をエンジョイしとるのう。メカを勝手にーーそういうと語弊があるがーー助けておいて悲壮感を出されてもうざいだけじゃけえ、ええんじゃがの。まあ、変わった奴じゃが人柄はええ。仕事でも私生活でも、あいつのことは嫌いではない。
さて自分の立会人室に戻るかと歩き出すが、数歩歩いたところで背後の足音に気付く。振り向いてみて、驚く。
「お屋形様…?!」
「やあ門倉。炬燵は有ったかい?」
「はっ…はい、搬入済みでした」
「ふうん。ならいいね」
お屋形様はノックもそこそこにチビの部屋に入って行った。チビの「あ、いらっしゃーい」という長閑な声。嘘やろ。仲ええとは思っとったが、部屋に来るんかいな。
ーーーーーーーーーー
「自分用のコップ持ってきて下さい。お茶はここにあるんで」
「そんな事私にやらせないでよね」
「だって今開店休業中ですもん」
「君はいつもふざけてるね」
私は腰を上げる気が全くなさそうな伏龍君に半ば呆れつつも、食器棚へ歩いて行く。「コップどれでも良いですよ」と言う彼女に「後で実は目蒲がいつも使ってるコップでしたとか言わないでよね」と返して、いつも出されるコップを選び取る。
「大丈夫ですよ、皆さんいつも適当に使っていらっしゃいますので」
「そうなんだ?」
「だって、嫌じゃないですか。結構な人数が押し掛けてくるのに、各自専用コップとか置かれたら」
「という事は、置こうとしたのがいる訳」
「目蒲さんと夕湖ですよ。笑っちゃう」
「君も苦労してるね」
話しながら彼女の正面に座ると、彼女はすかさず急須のお茶を注いでくれる。早速一口飲んで、炬燵の中心に置かれたカゴの中から、安っぽい煎餅を取り出して包装を破る。
「立会人さんが見たら卒倒しそうな」
「番代とかはするんじゃない?」
「逆手にとってさ、お屋形様がこういう扱いを受けてるって教えたらお屋形様用って言って誰かいいお菓子くれたりしませんかね」
「最上とかはするんじゃない?」
「狙うは最上さんですね」
「ちゃんと私に振る舞ってよね」
「どうしましょ。食べちゃうかも」
「粛清だね」
「えー、嫌だなぁ」
「独り占めしようとするからでしょ」
伏龍君は、口を尖らせながら次の煎餅の包装を破る。それに触発されて、私ももう一枚。意外とこの安っぽさが癖になる。
「なんか…炬燵と合いますよね、この煎餅」
「…君が開店休業にした気持ちも分かるよ」
「炬燵に入ると何もしたくなくなりますよね」
「判事に今日の仕事、持ってきてもらおうかな」
「ここでやるんですか?やだぁ」
「正面に座っていても構わないよ」
「そういう問題じゃなくてですね」
彼女は大袈裟なため息をついて、お茶を一口。
「というか、まだ仕事残ってたんですか」
「私は君たちのボスだからね。誰より仕事しているつもりだよ」
「偉い。お茶の追加をあげましょう」
「ありがとう。判事が聞いたら殴ってくると思うよ」
「あー棟耶さんいなくて良かった」
「連れてくるべきだったかな」
「そういえば、私の部屋には一人で来ますよねえ」
「うん。伏龍君の所なら一人で行っていいよって言われてるんだ」
「お子様かよ」
「粛清ね」
「おっと口が滑った」
「それで許されるとでも?」
「私達の仲じゃないですか」
「たった今壊れたよ」
「儚い」
「さあ、判事を呼ばないとね」
「やめて下さい!秘蔵のチョコラスクで勘弁して下さい!」
「どうせそれも番代が卒倒しそうなやつでしょ」
「安定のヤマザキですとも!美味しいですよ!」
「君は本当に舐めてるね」
「じゃあいいですもん、私が食べますもん!」
「君ね、そういうのは普通お客様に先にお出しするの!」
「今日は開店休業だい!」
そう威勢よく叫んで伏龍は袋を開ける。
ラスクが宙を舞った。
ワシは事務室に寄った帰り、チビの部屋のドアに貼られた貼り紙を発見した。どういうつもりなんやろ。興味本位でノックを三回。すると中から「どうぞー」という陽気な声が聞こえたので、遠慮なくドアを開ける。
「あら門倉さん、どうしました?」
「外の貼り紙が気になっての。なんや、炬燵かいな」
「ふふ、いいでしょ。今朝目蒲宅急便で届いたんです」
「メカも尽くすのう」
「一回命懸けで尽くしてみたら門倉さんにも尽くしてくれるようになると思いますよ」
「ようやらんわ、アホ」
ドア口にもたれ掛かりながらそう言って笑えば、彼女も「勿体無い」と笑う。一頻りの後、彼女は自分の正面を指差し、「入ります?御構いはしませんけど」と誘ってきた。
「開店休業ってそういう事かいな」
「今日はここから動きませんよー。ほら、お茶とお菓子もちゃんと持ってきてるんです」
「はは、準備万端やないか。邪魔するのも悪いけえ、今日は遠慮するわ」
「あら、そうですか。あ、明日鍋にしたいと思ってるんですけど、門倉さんいらっしゃいます?」
「ほな行かせてもらうわ。日本酒でええか?」
「ええですとも」
へらっと笑う彼女に別れの挨拶をして、ワシはドアを閉めた。あいつは人質と思えん程人生をエンジョイしとるのう。メカを勝手にーーそういうと語弊があるがーー助けておいて悲壮感を出されてもうざいだけじゃけえ、ええんじゃがの。まあ、変わった奴じゃが人柄はええ。仕事でも私生活でも、あいつのことは嫌いではない。
さて自分の立会人室に戻るかと歩き出すが、数歩歩いたところで背後の足音に気付く。振り向いてみて、驚く。
「お屋形様…?!」
「やあ門倉。炬燵は有ったかい?」
「はっ…はい、搬入済みでした」
「ふうん。ならいいね」
お屋形様はノックもそこそこにチビの部屋に入って行った。チビの「あ、いらっしゃーい」という長閑な声。嘘やろ。仲ええとは思っとったが、部屋に来るんかいな。
ーーーーーーーーーー
「自分用のコップ持ってきて下さい。お茶はここにあるんで」
「そんな事私にやらせないでよね」
「だって今開店休業中ですもん」
「君はいつもふざけてるね」
私は腰を上げる気が全くなさそうな伏龍君に半ば呆れつつも、食器棚へ歩いて行く。「コップどれでも良いですよ」と言う彼女に「後で実は目蒲がいつも使ってるコップでしたとか言わないでよね」と返して、いつも出されるコップを選び取る。
「大丈夫ですよ、皆さんいつも適当に使っていらっしゃいますので」
「そうなんだ?」
「だって、嫌じゃないですか。結構な人数が押し掛けてくるのに、各自専用コップとか置かれたら」
「という事は、置こうとしたのがいる訳」
「目蒲さんと夕湖ですよ。笑っちゃう」
「君も苦労してるね」
話しながら彼女の正面に座ると、彼女はすかさず急須のお茶を注いでくれる。早速一口飲んで、炬燵の中心に置かれたカゴの中から、安っぽい煎餅を取り出して包装を破る。
「立会人さんが見たら卒倒しそうな」
「番代とかはするんじゃない?」
「逆手にとってさ、お屋形様がこういう扱いを受けてるって教えたらお屋形様用って言って誰かいいお菓子くれたりしませんかね」
「最上とかはするんじゃない?」
「狙うは最上さんですね」
「ちゃんと私に振る舞ってよね」
「どうしましょ。食べちゃうかも」
「粛清だね」
「えー、嫌だなぁ」
「独り占めしようとするからでしょ」
伏龍君は、口を尖らせながら次の煎餅の包装を破る。それに触発されて、私ももう一枚。意外とこの安っぽさが癖になる。
「なんか…炬燵と合いますよね、この煎餅」
「…君が開店休業にした気持ちも分かるよ」
「炬燵に入ると何もしたくなくなりますよね」
「判事に今日の仕事、持ってきてもらおうかな」
「ここでやるんですか?やだぁ」
「正面に座っていても構わないよ」
「そういう問題じゃなくてですね」
彼女は大袈裟なため息をついて、お茶を一口。
「というか、まだ仕事残ってたんですか」
「私は君たちのボスだからね。誰より仕事しているつもりだよ」
「偉い。お茶の追加をあげましょう」
「ありがとう。判事が聞いたら殴ってくると思うよ」
「あー棟耶さんいなくて良かった」
「連れてくるべきだったかな」
「そういえば、私の部屋には一人で来ますよねえ」
「うん。伏龍君の所なら一人で行っていいよって言われてるんだ」
「お子様かよ」
「粛清ね」
「おっと口が滑った」
「それで許されるとでも?」
「私達の仲じゃないですか」
「たった今壊れたよ」
「儚い」
「さあ、判事を呼ばないとね」
「やめて下さい!秘蔵のチョコラスクで勘弁して下さい!」
「どうせそれも番代が卒倒しそうなやつでしょ」
「安定のヤマザキですとも!美味しいですよ!」
「君は本当に舐めてるね」
「じゃあいいですもん、私が食べますもん!」
「君ね、そういうのは普通お客様に先にお出しするの!」
「今日は開店休業だい!」
そう威勢よく叫んで伏龍は袋を開ける。
ラスクが宙を舞った。