君を乗せる星の船
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「ひゃく…まん、えん…」
思わず声が出てしまう。こんなプレゼントカードが、こんな堂々とあっていいのか。
「ええ…?凄いけど…いや凄いけどさあ…」
十万くらいならまだしも、ここまでの額だと逆に取り辛い。しかも軟禁されてる身で貰ったところで、何に使うんだ。そう考えると、やっぱり専用プレゼントカードの年休の方が自分には価値があるような気がしてしまい、百万円に手が伸びない。
百万円と年休、どちらにすべきか。そう考え始めた所で、自分がその年休カードに苦しめられていた事を思い出し、階段の方を振り向いた。予想通り、誰も追って来なかったようだ。私はほっと胸を撫で下ろす。しかし、階下ではまだざわざわと声がしている。流石にここには上って来れないから、私が降りてくるのを待っているのだろう。
黒服はおろか、立会人もおいそれと上っては来れない。事務室の一つ上は、お屋形様の居住階なのだから。
そう思えば、この百万円が五時を過ぎてもここにあるのも頷けるというものか。恐らく、誰もこれに気付いていないのだ。勿論お屋形様は気付いているだろうが…あの人には端金だろう。素直に羨ましい。
私は立ち上がり、お屋形様の部屋のドアに貼り付けられたカードをしげしげと眺める。自分のは背中にあるのでまともに見れなかったが、流石切間立会人、凝ったデザインの綺麗なカードですこと。なんて思ってたら突然ドアが開いたので、私は「うわ」と悲鳴を上げた。
「ああ、やっぱり晴乃君だったの」
「わ、すみませんお屋形様」
「入ってこれば良かったのに」
「いや、そこまでは」
「そう?」と言いながら、お屋形様は今日のお屋形様付きである夜行さんと共に出て来る。
「あ、夜行さんお疲れ様です」
「ええ、晴乃さんもお疲れ様ですね。…今日は、特に」
「あはは、お恥ずかしい。お耳に届いてましたか」
「お恥ずかしいはこちらです…下部構成員のモラルの無さを知った時は、我々も驚きました」
「全員粛清しなきゃね」
「そこまでしなくていいですよう。こっちも大分酷いこと言って帰してますから」
「そう?」
「はい」
「なあんだ、つまらない」
お屋形様は唇を尖らせた。寝覚が悪いからこのまま通すが、大量粛清なんて本当にやりたかったのだろうか。
「で、どっちにするの?」
「へ?そりゃ、粛清しない方で」
「そうじゃないよ、これ」
「ああ、これですか」
私達は目線の少しだけ上にある百万円のカードを見上げた。私は「金か時間か、みたいな話ですね」と笑う。お屋形様も釣られて笑顔になる。
「どっちも別にいいなあって」
「どっちも君には必要だと思うんだけど」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、君にはどっちもないじゃない」
「なくても意外と困らないですよ?」
「そうなの?」
「だって、思い出してみて下さいよ。貰ってる給与分で出張帰りに十分買い物してるし、勤務後の時間…何なら勤務中も十分遊んでるじゃないですか」
「…どっちも僕ばっかりじゃない?君はそれで満足なの?」
「ええ。…意外そうですね。私、貴方と過ごすの好きですよ?」
「……」
「……」
「…ああ、そうなの」
「そんなにびっくりせんでも」
「私も君と過ごすの好きだよ」
「存じております」
背後で夜行さんが微笑むのを感じた。
「ねえ晴乃君、私は思うんだ。人には身の程がある。そうだろう?夜行」
「仰る通りです、お屋形様」
「例えばだけど、この百万円。夜行はどうしてこれを取らなかったの?」
「この爺はこの様なゲームに乗るには些か歳が行き過ぎております故、若者に譲った次第でございます」
「分かるかい?晴乃君。それを手に入れられる立場の者は、するべき振る舞いを解っている。今回黒服達がああも荒れたのは、君を手に入れられる立場ではなかったからさ」
「それは買い被り過ぎですよう」
「そうでもないよ。勿論、君の様に足るを知るから手を出さない人もいるだろう。でも…私は違う。私は欲しがりなんだよ、晴乃君」
「そうですか。じゃあ、どうぞ」
そう言って百万円を指差すと、彼は「百万円は例え話だって言ったでしょ」と膨れっ面を作った。
「私が欲しいのは、こっち」
そう言って彼は人差し指と中指で挟んだプレゼントカードを見せてくる。書かれている文字は、年休。
「あ、あれ?」
「晴乃君は隙が多いね」
「いつの間に…」
「ふふ、さあね。さあ、どうする?君は私とデートに行くか、このカードを放棄するか選ぶことができる」
「…むしろ、いいんですか?貴方しょっ中私といますけど」
「私は君と過ごすの好きなんだ」
「…私も好きですよ」
「さあ、それを返してくださいな」と言えば、彼はふんわり笑ってカードを差し出した。
思わず声が出てしまう。こんなプレゼントカードが、こんな堂々とあっていいのか。
「ええ…?凄いけど…いや凄いけどさあ…」
十万くらいならまだしも、ここまでの額だと逆に取り辛い。しかも軟禁されてる身で貰ったところで、何に使うんだ。そう考えると、やっぱり専用プレゼントカードの年休の方が自分には価値があるような気がしてしまい、百万円に手が伸びない。
百万円と年休、どちらにすべきか。そう考え始めた所で、自分がその年休カードに苦しめられていた事を思い出し、階段の方を振り向いた。予想通り、誰も追って来なかったようだ。私はほっと胸を撫で下ろす。しかし、階下ではまだざわざわと声がしている。流石にここには上って来れないから、私が降りてくるのを待っているのだろう。
黒服はおろか、立会人もおいそれと上っては来れない。事務室の一つ上は、お屋形様の居住階なのだから。
そう思えば、この百万円が五時を過ぎてもここにあるのも頷けるというものか。恐らく、誰もこれに気付いていないのだ。勿論お屋形様は気付いているだろうが…あの人には端金だろう。素直に羨ましい。
私は立ち上がり、お屋形様の部屋のドアに貼り付けられたカードをしげしげと眺める。自分のは背中にあるのでまともに見れなかったが、流石切間立会人、凝ったデザインの綺麗なカードですこと。なんて思ってたら突然ドアが開いたので、私は「うわ」と悲鳴を上げた。
「ああ、やっぱり晴乃君だったの」
「わ、すみませんお屋形様」
「入ってこれば良かったのに」
「いや、そこまでは」
「そう?」と言いながら、お屋形様は今日のお屋形様付きである夜行さんと共に出て来る。
「あ、夜行さんお疲れ様です」
「ええ、晴乃さんもお疲れ様ですね。…今日は、特に」
「あはは、お恥ずかしい。お耳に届いてましたか」
「お恥ずかしいはこちらです…下部構成員のモラルの無さを知った時は、我々も驚きました」
「全員粛清しなきゃね」
「そこまでしなくていいですよう。こっちも大分酷いこと言って帰してますから」
「そう?」
「はい」
「なあんだ、つまらない」
お屋形様は唇を尖らせた。寝覚が悪いからこのまま通すが、大量粛清なんて本当にやりたかったのだろうか。
「で、どっちにするの?」
「へ?そりゃ、粛清しない方で」
「そうじゃないよ、これ」
「ああ、これですか」
私達は目線の少しだけ上にある百万円のカードを見上げた。私は「金か時間か、みたいな話ですね」と笑う。お屋形様も釣られて笑顔になる。
「どっちも別にいいなあって」
「どっちも君には必要だと思うんだけど」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、君にはどっちもないじゃない」
「なくても意外と困らないですよ?」
「そうなの?」
「だって、思い出してみて下さいよ。貰ってる給与分で出張帰りに十分買い物してるし、勤務後の時間…何なら勤務中も十分遊んでるじゃないですか」
「…どっちも僕ばっかりじゃない?君はそれで満足なの?」
「ええ。…意外そうですね。私、貴方と過ごすの好きですよ?」
「……」
「……」
「…ああ、そうなの」
「そんなにびっくりせんでも」
「私も君と過ごすの好きだよ」
「存じております」
背後で夜行さんが微笑むのを感じた。
「ねえ晴乃君、私は思うんだ。人には身の程がある。そうだろう?夜行」
「仰る通りです、お屋形様」
「例えばだけど、この百万円。夜行はどうしてこれを取らなかったの?」
「この爺はこの様なゲームに乗るには些か歳が行き過ぎております故、若者に譲った次第でございます」
「分かるかい?晴乃君。それを手に入れられる立場の者は、するべき振る舞いを解っている。今回黒服達がああも荒れたのは、君を手に入れられる立場ではなかったからさ」
「それは買い被り過ぎですよう」
「そうでもないよ。勿論、君の様に足るを知るから手を出さない人もいるだろう。でも…私は違う。私は欲しがりなんだよ、晴乃君」
「そうですか。じゃあ、どうぞ」
そう言って百万円を指差すと、彼は「百万円は例え話だって言ったでしょ」と膨れっ面を作った。
「私が欲しいのは、こっち」
そう言って彼は人差し指と中指で挟んだプレゼントカードを見せてくる。書かれている文字は、年休。
「あ、あれ?」
「晴乃君は隙が多いね」
「いつの間に…」
「ふふ、さあね。さあ、どうする?君は私とデートに行くか、このカードを放棄するか選ぶことができる」
「…むしろ、いいんですか?貴方しょっ中私といますけど」
「私は君と過ごすの好きなんだ」
「…私も好きですよ」
「さあ、それを返してくださいな」と言えば、彼はふんわり笑ってカードを差し出した。