君を乗せる星の船
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「一緒に夜景を」
「安藤立会人と被ってます」
「美味しいフレンチを知ってます」
「五人目です」
「ホテルに」
「交渉下手が過ぎますよ」
最初こそ奥に引っ込めてやろうかと思う程だったが、午前の終わり頃には彼女の中にあしらい方のマニュアルが出来上がった様で、やってくる黒服を業務の合間に撫で斬りにしている。
ただ、朝からずっと続く告白、誘い、セクハラに疲れ切ってはいる様だ。その証拠に、事務室の来客が途切れると「ふぅ」とだらけて椅子に座る。
「すみません、お二人共。朝からこんなんで」
「なあに、お前は悪くないさ。しっかし、躾のなってねえ黒服が増えたな。俺が立会人だった頃はテメェの黒服にはぜってぇ粗相させなかったぞ」
「立会人が持っているものが欲しいんでしょう。仕方がないですよ」
意外な事を言い出す権田に、俺と伏龍の視線が注がれる。彼は眼鏡を上げると、「伏龍さんは立会人ととても近い所にいますから」と言った。伏龍は「あー」と分かったような声を出すが、全然分からん。
「立会人さんが持ってるものの中で、私が一番手に入れやすいって思われてる訳か。舐めてますね」
「よく分からんが、そりゃ舐めてるな」
「はあ」と一際大きなため息をついて、伏龍はパソコンに何やら打ち込み始めた。さて、俺も仕事するか。
弥鱈が昨日の立会報告書が挟まったバインダーで肩を叩きながら事務室に来たのは、午後一番の事。「よ〜伏龍」と声を掛けるや否や報告書を放り投げ、彼女に取らせようとする。いつもの事だが、今日は伏龍の反応が遅れ、取り落とす。
「あ、ごめん弥鱈君」
「何だソレ」
「コレ?年休」
「…あ〜」
報告書を拾いながらの短すぎるやり取りの中で、弥鱈は事情を察したようだった。
「…なんか、」
「あー、大丈夫大丈夫」
多分、彼女を案じて何か言おうとした弥鱈だったが、彼女はそれを跳ね除ける。弥鱈は頭を掻く。その後方には既に順番待ちの黒服がそわそわと立っている。
「…あっそ」
弥鱈は言葉の上では納得しつつも、ずかずかカウンターの内側に入ってくる。そして、俺に「今日の伏龍の仕事は何ですか?」と聞いてきた。
「ソイツの机にあるデータ入力が終わりゃあ、後は後日で問題ねえよ」
「そうですか。では、引き取ります」
弥鱈は伏龍を小脇に抱えると、器用に左手でUSBにデータを移し、ポケットに入れる。そして、書類を手に持つとさっさか弐拾八號立会人室に帰って行こうとする。
待ったをかけたのは、頭の回転が一番遅いお嬢さん。
「え、弥鱈君なにしてるの?!」
「アンタ、俺の部屋で仕事しろ」
「え、ダメでしょ」
「何で」
「事務の書類だし」
「滝さんから実質OK出てんだろ」
「そ、それに、五時まではカード隠しちゃダメじゃん」
「隠してねえよ?」
「弥鱈君の立会人室なんか、隠す以外の何物でもないよ!」
「アンタがたまたま俺の部屋で仕事したい気分なだけだろ。カードはアンタの背中から移動してねえよ」
「…確かに!」
「ばーか」
「弥鱈君のがばーか!大好き!」
彼女は弥鱈の腕の中で軽口を叩きあうと、満面の笑顔になる。安心したのだろう。
その姿を見て俺も安心したのは、きっと伏龍にお見通しだろう。どうせならと弥鱈の背中に「ありがとな。頼んだぞ」と声を掛けておいた。彼は返事の代わりに、シャボン玉を一つ浮かせた。
「汚いな」
腕の中の伏龍は潰そうと手を伸ばすが、届くはずもない。シャボン玉は誰にも行手を阻まれる事なく、ふわふわと登って行った。
「安藤立会人と被ってます」
「美味しいフレンチを知ってます」
「五人目です」
「ホテルに」
「交渉下手が過ぎますよ」
最初こそ奥に引っ込めてやろうかと思う程だったが、午前の終わり頃には彼女の中にあしらい方のマニュアルが出来上がった様で、やってくる黒服を業務の合間に撫で斬りにしている。
ただ、朝からずっと続く告白、誘い、セクハラに疲れ切ってはいる様だ。その証拠に、事務室の来客が途切れると「ふぅ」とだらけて椅子に座る。
「すみません、お二人共。朝からこんなんで」
「なあに、お前は悪くないさ。しっかし、躾のなってねえ黒服が増えたな。俺が立会人だった頃はテメェの黒服にはぜってぇ粗相させなかったぞ」
「立会人が持っているものが欲しいんでしょう。仕方がないですよ」
意外な事を言い出す権田に、俺と伏龍の視線が注がれる。彼は眼鏡を上げると、「伏龍さんは立会人ととても近い所にいますから」と言った。伏龍は「あー」と分かったような声を出すが、全然分からん。
「立会人さんが持ってるものの中で、私が一番手に入れやすいって思われてる訳か。舐めてますね」
「よく分からんが、そりゃ舐めてるな」
「はあ」と一際大きなため息をついて、伏龍はパソコンに何やら打ち込み始めた。さて、俺も仕事するか。
弥鱈が昨日の立会報告書が挟まったバインダーで肩を叩きながら事務室に来たのは、午後一番の事。「よ〜伏龍」と声を掛けるや否や報告書を放り投げ、彼女に取らせようとする。いつもの事だが、今日は伏龍の反応が遅れ、取り落とす。
「あ、ごめん弥鱈君」
「何だソレ」
「コレ?年休」
「…あ〜」
報告書を拾いながらの短すぎるやり取りの中で、弥鱈は事情を察したようだった。
「…なんか、」
「あー、大丈夫大丈夫」
多分、彼女を案じて何か言おうとした弥鱈だったが、彼女はそれを跳ね除ける。弥鱈は頭を掻く。その後方には既に順番待ちの黒服がそわそわと立っている。
「…あっそ」
弥鱈は言葉の上では納得しつつも、ずかずかカウンターの内側に入ってくる。そして、俺に「今日の伏龍の仕事は何ですか?」と聞いてきた。
「ソイツの机にあるデータ入力が終わりゃあ、後は後日で問題ねえよ」
「そうですか。では、引き取ります」
弥鱈は伏龍を小脇に抱えると、器用に左手でUSBにデータを移し、ポケットに入れる。そして、書類を手に持つとさっさか弐拾八號立会人室に帰って行こうとする。
待ったをかけたのは、頭の回転が一番遅いお嬢さん。
「え、弥鱈君なにしてるの?!」
「アンタ、俺の部屋で仕事しろ」
「え、ダメでしょ」
「何で」
「事務の書類だし」
「滝さんから実質OK出てんだろ」
「そ、それに、五時まではカード隠しちゃダメじゃん」
「隠してねえよ?」
「弥鱈君の立会人室なんか、隠す以外の何物でもないよ!」
「アンタがたまたま俺の部屋で仕事したい気分なだけだろ。カードはアンタの背中から移動してねえよ」
「…確かに!」
「ばーか」
「弥鱈君のがばーか!大好き!」
彼女は弥鱈の腕の中で軽口を叩きあうと、満面の笑顔になる。安心したのだろう。
その姿を見て俺も安心したのは、きっと伏龍にお見通しだろう。どうせならと弥鱈の背中に「ありがとな。頼んだぞ」と声を掛けておいた。彼は返事の代わりに、シャボン玉を一つ浮かせた。
「汚いな」
腕の中の伏龍は潰そうと手を伸ばすが、届くはずもない。シャボン玉は誰にも行手を阻まれる事なく、ふわふわと登って行った。