君を乗せる星の船
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門っちに「事務室行ってみい、凄い事になっとるど」と言われていそいそ行ってみれば、成る程凄かった。
「何の渋滞だよ」
俺が事務室のカウンター前にいる群衆に思わずツッコむと、その声に反応して晴乃が「目蒲さぁん」と弱々しい声を上げた。すると、群がっていた黒服共が二つに割れ、道を開ける。
「何だよ、これ」
「これのせいなんです…!もうやだぁ」
美しくラッピングされた晴乃がくるりと背を見せると、‘年休’と書かれたプレゼントカードが括り付けられているのが分かった。成る程な、と思う。
「予想以上にモテるんだな、お前」
赤面はしつつも不貞腐れて俯くその姿から察するに、あまり良い扱いは受けていないようだ。さもありなん、だ。賭郎は良くも悪くも実力主義で、弱者への扱いははっきり言って悪い。下のものほど己より下を探そうとする中、ターゲットになりやすいのはどうやっても筋肉量で劣る女性。女というだけで見下す者が一定数いる。増してや人質という立場も手伝い、彼女を格下と認識する者は少なくないのだろう。お屋形様と喧嘩する女傑だぞと言ってやりたいところだが、彼女の強さは知とも暴とも違うため、やはり下の者に程分かり辛いようだ。
その結果が、この惨状。
ちぎっても投げても終わらないナンパラッシュ。
「もうホント…はぁ」
「大変だな」
流石に憐れみを感じて労いの言葉を掛けるが、その横から「あの… 伏龍さん、それ、誰と使うんですか?」と声を掛ける馬鹿が現れ、呆れ返る。
「今私がこれと話しているんですがねえ?見えませんか?それとも私を無視できる程偉くなりましたか?」
「ひっ…す、スミマセン!」
下がる黒服を更に睨みつけて退室させると、その様子を見て今は分が悪いと判断した他の者も散っていく。すると、それを見た晴乃が「うわ、ありがとうございます」と弾んだ声を出した。
「別に何も」
「いやあ、やっぱり立会人さんは心強いですねえ。門倉さんもさっき撃退してくれたんですよ」
「ふうん」
「‘お前ら仕事戻らんかい!’って一喝してくれたらもう、蜘蛛の子を散らすみたいにぴゅーって。私がおんなじこと言っても‘この話が終わったら’ってへらへらされちゃったのに…はあ。一回舐められちゃうとダメですね」
「だから鍛えろと言っているんだ」
いつも通り‘鍛えても勝てませんよ’と笑われるかと思ったが、彼女は思い切り顰め面をする。驚くが、直ぐに原因は自分ではない事に気付いた。
「ゲ、目蒲立会人」
「どこの黒服ですか?躾がなっていませんねえ」
入り口に立つ黒服を睨むが、開き直ることにしたらしいその男は「目蒲立会人もソイツ狙いですか?抱き心地良さそうっすよね」と、本人の目の前で言い放った。晴乃の顔が羞恥と怒りで赤く染まる。
「おや、品がありませんねぇ。賭郎は女性の扱いも分からないような餓鬼がいるべきところではありませんよ。ところで先程からミルクの甘ったるい匂いがするのですが、晴乃さん、心当たりは?」
クス、と笑った彼女に大分気を悪くしたらしい男が、何も言わず去っていく。
「チッ…滝さん、年休を取りたいのですが」
「テメェのパソコンで処理してこい」
「いえ、戻るのが手間です。ここで取得できるでしょう」
「はぁ…権田、やってやれ」
権田さんはすぐに届を印刷して、「厄介ファンを蹴散らして下さりありがとうございます。仕事が捗ります」と俺に渡した。
ーーーーーーーーーー
目蒲は年休届をさっさか記入して、また権田に返す。そして、彼が目を通して「確かに」と言ったのを聞くと、目蒲は乱雑にカウンターの椅子を引き出し、座った。
伏龍と接する姿を見て知ったが、意外とこいつは紳士なのである。俺はその姿に敬意を表し、まだ状況の飲み込み切らない伏龍に「おい、紅茶くらい出してやったらどうだ」と呼び掛けた。彼女は弾かれたようにポットへ走る。
「目蒲さん、いいんですか?」
「イブまで仕事したくねえだけ」
出された紅茶に早速口をつけた目蒲を見て、伏龍は心底ホッとした表情をつくる。
「仕事終わらせろ。五時からが本番だぞ」
「はい!」
パタパタ自席に戻ってきた伏龍は、さっきまでとは打って変わったように生き生きと仕事を始める。目蒲はその様子をいつもの無表情で暫く眺めると、自分は手近なキャビネットにあった立ち会い記録を読み出す。たまにくる無礼者共は、そんな目蒲の姿を見てすごすご帰っていった。
やがて五時を迎えると、目蒲は徐に立ち上がり、伏龍を呼び寄せる。そして、「どうしました?」と駆け寄ってきた伏龍の背に手を回すと、年休のカードを取り外す。
「これ持って部屋に篭ってろ」
そう言いながらカードを手渡すと、目蒲は「仕事に戻る」と呆気なく事務室を後にした。
「お礼言いそびれちゃった」
「デートにでも誘ってやれ」
そう言うと伏龍は、少し照れて笑った。
「何の渋滞だよ」
俺が事務室のカウンター前にいる群衆に思わずツッコむと、その声に反応して晴乃が「目蒲さぁん」と弱々しい声を上げた。すると、群がっていた黒服共が二つに割れ、道を開ける。
「何だよ、これ」
「これのせいなんです…!もうやだぁ」
美しくラッピングされた晴乃がくるりと背を見せると、‘年休’と書かれたプレゼントカードが括り付けられているのが分かった。成る程な、と思う。
「予想以上にモテるんだな、お前」
赤面はしつつも不貞腐れて俯くその姿から察するに、あまり良い扱いは受けていないようだ。さもありなん、だ。賭郎は良くも悪くも実力主義で、弱者への扱いははっきり言って悪い。下のものほど己より下を探そうとする中、ターゲットになりやすいのはどうやっても筋肉量で劣る女性。女というだけで見下す者が一定数いる。増してや人質という立場も手伝い、彼女を格下と認識する者は少なくないのだろう。お屋形様と喧嘩する女傑だぞと言ってやりたいところだが、彼女の強さは知とも暴とも違うため、やはり下の者に程分かり辛いようだ。
その結果が、この惨状。
ちぎっても投げても終わらないナンパラッシュ。
「もうホント…はぁ」
「大変だな」
流石に憐れみを感じて労いの言葉を掛けるが、その横から「あの… 伏龍さん、それ、誰と使うんですか?」と声を掛ける馬鹿が現れ、呆れ返る。
「今私がこれと話しているんですがねえ?見えませんか?それとも私を無視できる程偉くなりましたか?」
「ひっ…す、スミマセン!」
下がる黒服を更に睨みつけて退室させると、その様子を見て今は分が悪いと判断した他の者も散っていく。すると、それを見た晴乃が「うわ、ありがとうございます」と弾んだ声を出した。
「別に何も」
「いやあ、やっぱり立会人さんは心強いですねえ。門倉さんもさっき撃退してくれたんですよ」
「ふうん」
「‘お前ら仕事戻らんかい!’って一喝してくれたらもう、蜘蛛の子を散らすみたいにぴゅーって。私がおんなじこと言っても‘この話が終わったら’ってへらへらされちゃったのに…はあ。一回舐められちゃうとダメですね」
「だから鍛えろと言っているんだ」
いつも通り‘鍛えても勝てませんよ’と笑われるかと思ったが、彼女は思い切り顰め面をする。驚くが、直ぐに原因は自分ではない事に気付いた。
「ゲ、目蒲立会人」
「どこの黒服ですか?躾がなっていませんねえ」
入り口に立つ黒服を睨むが、開き直ることにしたらしいその男は「目蒲立会人もソイツ狙いですか?抱き心地良さそうっすよね」と、本人の目の前で言い放った。晴乃の顔が羞恥と怒りで赤く染まる。
「おや、品がありませんねぇ。賭郎は女性の扱いも分からないような餓鬼がいるべきところではありませんよ。ところで先程からミルクの甘ったるい匂いがするのですが、晴乃さん、心当たりは?」
クス、と笑った彼女に大分気を悪くしたらしい男が、何も言わず去っていく。
「チッ…滝さん、年休を取りたいのですが」
「テメェのパソコンで処理してこい」
「いえ、戻るのが手間です。ここで取得できるでしょう」
「はぁ…権田、やってやれ」
権田さんはすぐに届を印刷して、「厄介ファンを蹴散らして下さりありがとうございます。仕事が捗ります」と俺に渡した。
ーーーーーーーーーー
目蒲は年休届をさっさか記入して、また権田に返す。そして、彼が目を通して「確かに」と言ったのを聞くと、目蒲は乱雑にカウンターの椅子を引き出し、座った。
伏龍と接する姿を見て知ったが、意外とこいつは紳士なのである。俺はその姿に敬意を表し、まだ状況の飲み込み切らない伏龍に「おい、紅茶くらい出してやったらどうだ」と呼び掛けた。彼女は弾かれたようにポットへ走る。
「目蒲さん、いいんですか?」
「イブまで仕事したくねえだけ」
出された紅茶に早速口をつけた目蒲を見て、伏龍は心底ホッとした表情をつくる。
「仕事終わらせろ。五時からが本番だぞ」
「はい!」
パタパタ自席に戻ってきた伏龍は、さっきまでとは打って変わったように生き生きと仕事を始める。目蒲はその様子をいつもの無表情で暫く眺めると、自分は手近なキャビネットにあった立ち会い記録を読み出す。たまにくる無礼者共は、そんな目蒲の姿を見てすごすご帰っていった。
やがて五時を迎えると、目蒲は徐に立ち上がり、伏龍を呼び寄せる。そして、「どうしました?」と駆け寄ってきた伏龍の背に手を回すと、年休のカードを取り外す。
「これ持って部屋に篭ってろ」
そう言いながらカードを手渡すと、目蒲は「仕事に戻る」と呆気なく事務室を後にした。
「お礼言いそびれちゃった」
「デートにでも誘ってやれ」
そう言うと伏龍は、少し照れて笑った。