君を乗せる星の船
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「毎年こんななんですか?大盤振る舞いですねえ」
伏龍が送られてきた社内メールを見ながら嘆息する。俺はそれに対して「あの親子の思い付きだよ。いつものことだろ」と笑ってやった。
「こういう思い付きなら大歓迎。ねえ、滝さんもそう思いません?」
「そうだな。珍しく純粋に楽しめそうなイベントじゃねえか」
俺は今一度切間立会人からのメールを確認する。プレゼントゲームと題されており、本文にはルールが細やかに記されている。ルールに穴が無いよう詳細に説明してしまうのは立会人の性。しかし、掻い摘んで説明すればこういう事だ。切間立会人が隠した、プレゼントの書いてあるカードを24日に探し出し、25日に引き換え。勿論、強奪、交換等々はアリ。どのような経緯であれ、25日に切間立会人に渡す事ができればそこに記されているプレゼントを手に入れられる。メールに記されているプレゼント例は、家電や旅行券など中々豪華である。これは参加する人数も多そうだ。まぁ…残念ながら文官三人組である我々には不利なイベントなのだが。
「なあ伏龍。ルンバがあったら俺によこすようにお前のファンクラブに言っといてくれ」
「櫛灘さんしかいないんですよ、ファンクラブ」
「じゃあ無理だな」
「食洗機欲しいな」だの「タブレットパソコンがあればいいんですが」だの好き勝手言いつつ、部下二人が仕事に戻っていく。俺も自分の運に期待しつつ、それに倣った。
ーー風向きが変わったのは、24日の朝の事。
「晴乃ー、やってるかー?」と、切間立会人が事務室に入ってくる。呼ばれた伏龍は「あっ!切間さん、事務室にカード隠すんですか?食洗機のカードがいいな!」とにこにこおねだりしやがった。
「ぐはあ!すまんすまん。食洗機は元々ないぞっ!」
「あらー残念」
「そんなお前にスペシャルカードだ!後ろを向け。可愛く結んでやる!」
「私に?わあ、嬉しい。専用のプレゼントだ!」
伏龍は素直に背中を見せ、切間立会人はそれはそれは美しく赤と緑のリボンを重ねて、手の込んだ結び方で彼女の首から背にかけて結んだ。馬鹿な奴め。ろくな事にならんぞ。
「よし」と満足気に頷く切間立会人。伏龍は一生懸命に背中を確認しようとするが、肩甲骨の絶妙な位置に結び付けられたカードは中々彼女からは見る事ができない。右肩越しに見て、左肩越しに見て、彼女は早々に諦めた。
「何のカードをくれたんですか?」
「年休だ!」
「年休?!」
「しかも外出可!」
「うわ!ホントですか?!」
「立会人がルールで嘘を吐くか?!」
「吐きません!切間さん大好き!」
「ぐはあ!俺もだぞ!ぐははは!」
二人は暫くうふふぐははを続けた。その隙に権田が椅子を転がしてこちらに寄ってくると、「どういう事ですか」と囁き掛ける。俺は「待ってろ。時期にあのカードの専用ルールが発表されるだろうよ。ありゃ多分、デート権だ」と囁き返した。しかし、あの地獄耳の立会人には聞こえていたのだろう。切間立会人はにやっと笑うと、伏龍に向かってピンと指を立てる。
「さて、そのカードには二つルールがある。一、自分で取らないこと。無茶をすればリボンでバレるぞ!二、自分から取り外すようお願いしないこと。いいか?この二つだけだからな。健闘を祈る!」
成る程。流石切間立会人、絶妙だ。俺は「あー忙しい!」と去っていく彼の背中を見送りつつ考える。あのカードは相手の善意、もしくは下心のみによって外される。伏龍以外は誰も必要としない年休のカード。自分では取り辛い所にあるのを察して、外してそのまま伏龍に渡してやる奴もいるだろう。亜面なんぞは恐らくそのパターンだ。
しかし、取ってやる代わりに条件を付ける事もできる。伏龍と外出できるとなれば、次にいつチャンスがあるか分からん。ここで行動を起こせなければ男失格モノよ。ただ、肝要なのは‘ 伏龍には年休を放棄する事ができる’事と、‘取ってとは言えない代わりに、取り返してと言う事はできる’事だ。伏龍が納得できるラインを見極められねば拒否されて終わり。強引に取り決めても、大親友弥鱈か忠犬目蒲に取り返されて仕舞いよ。
良くできたゲームだ。朝の十時ごろまではそう思っていた。そう、俺達はーー恐らく切間立会人も含めーー賭郎の女日照りっぷりと黒服のモラルの低さ、暴力要員共のルール理解力を舐めていたのだ。事務室はカードの予約に訪れる馬鹿たれに一日中悩まされることになる。
伏龍が送られてきた社内メールを見ながら嘆息する。俺はそれに対して「あの親子の思い付きだよ。いつものことだろ」と笑ってやった。
「こういう思い付きなら大歓迎。ねえ、滝さんもそう思いません?」
「そうだな。珍しく純粋に楽しめそうなイベントじゃねえか」
俺は今一度切間立会人からのメールを確認する。プレゼントゲームと題されており、本文にはルールが細やかに記されている。ルールに穴が無いよう詳細に説明してしまうのは立会人の性。しかし、掻い摘んで説明すればこういう事だ。切間立会人が隠した、プレゼントの書いてあるカードを24日に探し出し、25日に引き換え。勿論、強奪、交換等々はアリ。どのような経緯であれ、25日に切間立会人に渡す事ができればそこに記されているプレゼントを手に入れられる。メールに記されているプレゼント例は、家電や旅行券など中々豪華である。これは参加する人数も多そうだ。まぁ…残念ながら文官三人組である我々には不利なイベントなのだが。
「なあ伏龍。ルンバがあったら俺によこすようにお前のファンクラブに言っといてくれ」
「櫛灘さんしかいないんですよ、ファンクラブ」
「じゃあ無理だな」
「食洗機欲しいな」だの「タブレットパソコンがあればいいんですが」だの好き勝手言いつつ、部下二人が仕事に戻っていく。俺も自分の運に期待しつつ、それに倣った。
ーー風向きが変わったのは、24日の朝の事。
「晴乃ー、やってるかー?」と、切間立会人が事務室に入ってくる。呼ばれた伏龍は「あっ!切間さん、事務室にカード隠すんですか?食洗機のカードがいいな!」とにこにこおねだりしやがった。
「ぐはあ!すまんすまん。食洗機は元々ないぞっ!」
「あらー残念」
「そんなお前にスペシャルカードだ!後ろを向け。可愛く結んでやる!」
「私に?わあ、嬉しい。専用のプレゼントだ!」
伏龍は素直に背中を見せ、切間立会人はそれはそれは美しく赤と緑のリボンを重ねて、手の込んだ結び方で彼女の首から背にかけて結んだ。馬鹿な奴め。ろくな事にならんぞ。
「よし」と満足気に頷く切間立会人。伏龍は一生懸命に背中を確認しようとするが、肩甲骨の絶妙な位置に結び付けられたカードは中々彼女からは見る事ができない。右肩越しに見て、左肩越しに見て、彼女は早々に諦めた。
「何のカードをくれたんですか?」
「年休だ!」
「年休?!」
「しかも外出可!」
「うわ!ホントですか?!」
「立会人がルールで嘘を吐くか?!」
「吐きません!切間さん大好き!」
「ぐはあ!俺もだぞ!ぐははは!」
二人は暫くうふふぐははを続けた。その隙に権田が椅子を転がしてこちらに寄ってくると、「どういう事ですか」と囁き掛ける。俺は「待ってろ。時期にあのカードの専用ルールが発表されるだろうよ。ありゃ多分、デート権だ」と囁き返した。しかし、あの地獄耳の立会人には聞こえていたのだろう。切間立会人はにやっと笑うと、伏龍に向かってピンと指を立てる。
「さて、そのカードには二つルールがある。一、自分で取らないこと。無茶をすればリボンでバレるぞ!二、自分から取り外すようお願いしないこと。いいか?この二つだけだからな。健闘を祈る!」
成る程。流石切間立会人、絶妙だ。俺は「あー忙しい!」と去っていく彼の背中を見送りつつ考える。あのカードは相手の善意、もしくは下心のみによって外される。伏龍以外は誰も必要としない年休のカード。自分では取り辛い所にあるのを察して、外してそのまま伏龍に渡してやる奴もいるだろう。亜面なんぞは恐らくそのパターンだ。
しかし、取ってやる代わりに条件を付ける事もできる。伏龍と外出できるとなれば、次にいつチャンスがあるか分からん。ここで行動を起こせなければ男失格モノよ。ただ、肝要なのは‘ 伏龍には年休を放棄する事ができる’事と、‘取ってとは言えない代わりに、取り返してと言う事はできる’事だ。伏龍が納得できるラインを見極められねば拒否されて終わり。強引に取り決めても、大親友弥鱈か忠犬目蒲に取り返されて仕舞いよ。
良くできたゲームだ。朝の十時ごろまではそう思っていた。そう、俺達はーー恐らく切間立会人も含めーー賭郎の女日照りっぷりと黒服のモラルの低さ、暴力要員共のルール理解力を舐めていたのだ。事務室はカードの予約に訪れる馬鹿たれに一日中悩まされることになる。